15 過去
王制の前時代、処刑は庶民の貴重な娯楽だった。
拷問や処刑は広場の真ん前で行われた。
処刑人の一族は、皆、処刑人だった。
他の仕事をしている人間とは婚姻など許された時代ではなかった。
本当に苦しいことに遭遇した人間は、苦しみを言葉にしない。
彼は無口だった。
背が高く、力が強かったので、それは斬首に役に立った。
一族は、処刑だけでなく医学を知っていた。
誰よりも間近で人間の身体やその中身を見る仕事なのだ。
罪を決定し、罰を告げるのは別の誰かたちで、処刑をするのは処刑人だ。
処刑人の一族は、石こそ投げられないものの、貴族だけでなく平民とも食事を同席することを厭われた。
しかし、彼らは嫌われてはいなかった。
なぜなら、医学の知識をもって、薬を与え、人々に骨折やリウマチの正しい治療法を教えていたからだった。
神に祈っても治らなかった病気や怪我が治るのは奇跡のようだった。
人々はある種の畏れを抱きながら、処刑人一族を遠巻きに見ていた。
彼が自分でそれを仕事だと思えるようになった頃、革命が起こった。
カミラの処刑はたくさんのギロチンの刃の中の一枚だった。
たったそれだけのはずだったけれど、若い処刑人の心には深い傷が残った。
彼が本当に苦しかったのは、カミラの死自体ではなく、甘い後悔だった。
あの美しい女をこの手で殺した。
それが仕事だったといえばそれまでだった。
しかし、処刑人も人だった。
人には人間の心がある。
もしも、民衆の心が変わって、あの女が逃げおおせていれば――。
あと何年かだけでも身を隠していれば、革命は終わっていただろう。
そうして迎えにいったとき、彼女が身を委ねてくれれば。
あの意思の強そうな瞳の中に自分がうつり、名前を呼ばれたなら、どんなに甘美な思いがしただろう。
そんなことをぼうっと考えていたら、手すりの無い処刑台の端から転がり落ちた。
永遠に続く痛みは無かったことが救いだった。
ギロチンを使わずとも、命は儚い。
そうして若い処刑人が一人、不幸な事故によって、いなくなった。
それで終わった、はずだった。
*
ここまでがジュールの記憶である。
目が覚めたとき、ジュールは首から下全てに包帯を巻かれ、野戦病院にいた。
「奇跡だ……! 神のご意志があったとしか思えない。この歩兵、あれだけの重傷が治っている」
野戦病院の医師は目を見開いて驚いていた。
ジュールは戦で攻撃された仲間を庇い、胸と腹と背の三カ所に瀕死の重傷を負ったのだという。
三日三晩眠り続け、いよいよかと思われた時、目を開けた。
きっと、奇跡的なタイミングで魔力が発現したせいだろうと医師は結論づけた。
が、ジュールには本当のことが分かっていた。
(俺だ。はっきり記憶がある)
ジュールの前の記憶は、若き処刑人としてのものだった。
薄らぼんやりとこの身体の記憶も残っている。
漁師の息子として産まれて、士官学校に入ったのだ。
ジュールが、ここはどこかと尋ねると、白髪交じりのひげをした医師は哀れなものを見る目をして、頷いた。
「まだ混濁しているんだな。かわいそうに。よくあることさ、兵隊には……ここはシェルビッツの野戦病院で、
あんたは瀕死の重傷の手当てをされていた。悪いが、本当にもう動けるようなら自分で包帯を変えてくれるか。
ここには人手がないもんでね」
「……骨折を治すくらいはできる」
「おっ? あんた、人体に詳しいのかい」
それまで折れた剣をちらっと見るようだった医師は、それを聞いて態度を変えた。
きちんとジュールの顔を見て、確かめるように尋ねた。
「あんたまだ若そうだな。だが、ここは戦場だ。骨やらはらわたが飛び出てるのを見て吐くようならやっていけん。フェンシングの捻挫とは訳が違うぞ」
「問題ない」
ジュールにとっては、全く何も問題無かった。
処刑とは首を落として終わりではない。
その後の処理がある。
墓地に運び、埋葬するところまでが処刑人たちの仕事だった。
最初こそ気分が悪くなったが、あの革命前の地獄のような仕事続きの日々を考えると、骨が突き出すくらいは何でもなかった。
生きている人間を治すことの何が恐ろしいだろう。
「もっとすごいものをたくさん見てきた」




