13 邂逅 sideジュール
ジュールは元は平民の息子である。
五人兄弟の真ん中に産まれ、幼い頃から頭が良かった。
平民といっても父親は地主のようにいくつかの港を管理していたので、ひどく貧しい生活をしていたわけでもなかった。
さらには、戦争中に海軍を支援して戦果に貢献したため、後には下級の貴族の称号まで得ることになったくらいである。
ジュールに魔法の能力が発現したのは、十二歳の時だった。
軍人になると言い出したのはジュールで、戦果をあげれば当時の家の財政状況も更に良くなるだろうという考えだった。
しかし、彼には一つ、軍人としては致命的な欠点があった。
優しすぎたのだ。
気が弱く、何かを取り合うくらいなら譲ってしまうような男だった。
虫を殺すことも苦手な男が軍隊学校に入ったのは、ひとえに魔法の能力が発露してしまったからだった。
男で魔力があるならば、軍に入れという暗黙の了解があった。
知力に長けていて真面目だったジュールは、飛び級をして士官学校を卒業した。その頃には、身長もぐんと伸びて、すらりとした品のある美しい青年になっていた。
ジュールの性格が変わったのは、とある国外への遠征からだった。
敵国の兵との迎撃戦で、仲間を庇ったのだ。
その際に、胸に致命傷ともいえる大けがをした。
何日か死線を彷徨って、高熱の末に目覚めた後。
今では巷に天才的な軍師と称される、ジュールの才能が開花した。
そこからは、とんとん拍子に出世が決まった。
一歩兵から少尉、大尉、少将、将軍へと駆け上がった。
実際、戦場での立ち回りも見事なものだった。
ジュールは現場の兵士たちの心を察して、絶妙なタイミングで励ましや演説を入れるのだった。
それに、指揮をするだけでなく、自分自身が現場に立って泥臭い仕事も自然に進んでやろうとする。
兵士たちが慕うのも最もだった。
戦で征服した各地の宮殿を根城としていたジュールだったが、彼が最も滞在し自身でも本邸と称していたのは、東リュイーブルの宮殿だった。
元々はリュイーブルの公爵が住んでいたのだが、革命の際にすぐに売り払って外国へ逃亡してしまった。
紆余曲折あったが、縁あってジュールが購入したのである。
そんな平和な東リュイーブルの街に異変が起きた。
つい一月ほど前のことだ。
あの古城によそ者がやってきた。
アスタリヤという伯爵家由来の女性らしいが、入婿と離縁し、最低限の身の回りのことをする使用人をつれて城に引っ越してきたという。
しかも、あまつさえ生け垣を作ったり、門番の小屋を建築したりとやりたい放題らしい。
リュイーブルは中心街から少し離れた田舎だが歴史は深く、小さな商店や古い家、教会が並ぶ美しい土地だ。
ジュールは自らが『司令部』と称する書斎で、不機嫌そうに足を組み替えた。
「あの古城を誰が買ったのだろう?」
ここから見える古城は、処刑された悪女カミラの幽霊が出るという噂で、まっとうな精神の人間は近付かない。
さらには十人程集められた使用人たちは皆、癖のある者らしい。どうにも怪しい。
「調べる価値はありそう、だな」
ジュールはベルを鳴らし、側近を呼んだ。
今は次の戦の準備もないし、リュイーブルの治安情勢について調べるのも良いだろう。
あの『カミラの古城』を台無しにされるのは、どうにも我慢がならなかった。




