12 邂逅
「俺を門番にしようなんて奴はお前か? どっからどう聞いて雇おうと思ったか知らねぇが、俺は一度投獄されてる。戦で負けて連れて来られたんだ……傭兵になるよりゃましだと思ってギルドに登録したが……騎士や軍部みたいに綺麗なやつじゃねえ。汚いこともずいぶんやってきた」
「あら、奇遇ね。私も似たような者よ」
「ま、え、ええぇ?」
「首も斬られずに生き延びたのだから幸運な人ね。さあ、他に質問が無いなら持ち場について頂戴」
「あ、お、おぅ……」
という具合だった。
一事が万事、アスタリヤの手にかかれば、人心掌握など容易いことだった。
自覚していないところで、アスタリヤの圧倒的な揺るぎない意思や言葉は周囲の人間の胸を打っていたのである。
だからこそ、転機が訪れたのも必然だった。
その日、ティルトは少しやつれていた。
ここ最近、この古城と商会の本部を行ったり来たりしているのだ。
「商会に発注する物はこれで全てですか?」
ティルトは床につくくらい長くなった注文書を片手に尋ねた。
昨日からもほぼ徹夜で、ドレスだの化粧品だの、屋敷の雨樋だの壁紙だの、壺だの額縁だの、ありとあらゆる物の発注書を書いているティルトは少しやつれているが、さすが大口の取引先ができたとなって張り切っている。
「ええ。とりあえずはね」
と、アスタリヤはOKを出した。
ティルトがほっとした顔で、特大バスケットに羊皮紙を突っ込む。
「僕は一度この大量の発注書を商会に持って行って来ます。調度品などの大物は難しいですが、馬車に乗るようなものなら一両日中にお届けしますね」
「頼むわ。よろしくね」
「それにしても、素晴らしい城になりましたね」
「ええ。あなたが寄越してくれた使用人たちが良くやってくれるのよ。素晴らしい実力者たちなのにやけに紹介料が安かったし、あなたのところの商会はさすがサービスがいいわね」
「まさかあの荒くれ者とひねくれ者の集団を使いこなす方がいらっしゃったとは……いいえ、いいえ、何でもありません。お気に召してくださって光栄です」
ティルトは高い天井を仰ぎ見た。
きちんと手が入って修復され、壁にかかる調度品も見事なものだ。古い物は直し、新しい物はきちんと整えられて馴染んでいる。
ティルトは感嘆の溜息を零した。
「魔女が住んでいたという話からこれまで買い手がつかなかったなんて、信じられませんね」
「ええ、そうね。そういえば、魔女というのはいったい誰なの?」
「ほら、あの悪名高い、リッター広場で処刑された『カミラ』ですよ」
「まあ~、革命で処刑された悪女の『カミラ』のことね?」
わざとらしく言ったアスタリヤは、素早くティルトに視線を走らせた。
「そうです。あれがたった十年前だなんて……僕はまだ小さかったのですが、よく覚えています。画が出回りましたからね。悪女といってもぞっとするような美人だったみたいです。だからか、カミラのお気に入りだったこの城には、呪いがあるのだと噂があって」
「呪い」
「はい。城の地下には隠し通路があって、秘密の隠し部屋があり、そこにはなんでもカミラによって骨抜きにされた男たちの屍や骸骨があるのだとか。それに、カミラの霊も出るらしいです」
「まあ怖い」
アスタリヤは淡々と言った。
勿論信じてなどいない。
カミラはアスタリヤなのだ。
自分自身の霊に怯える者はいないだろう。
一通り話したところで、ティルトは服飾担当の使用人に呼ばれて、まだ追加があるのかとげんなりしながら出て行った。
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