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逆襲のファムファタル 〜傾城傾国の悪女、(殺)サレ妻に転生する〜  作者: 丹空 舞


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11/17

11 雇用

ロミオメールってありましたね。


事態が動いたのは、城の生活が始まってすぐだった。



「アスタリヤ様ー! 元・旦那からのお手紙が届いてますよ」




ドレッサーに向かいながら、アスタリヤは声だけで返事をした。




「読んでも読まなくてもいいわ。あなたに任せましょう、ジェイン」


「ええ……じゃあ、一応封を開けて、と……親愛なるアスタリヤ。君がいなくなってから、僕の心は千々に乱れている。

まるで風を失った風車のよう、緑のない庭のようだ。ああ、どうして君はアスタリヤなのだ……? なんですか、これは」


「さあ。気持ちが悪いことだけは確かね」


「あっ! もう一通来てますよ。嫌な予感しかしませんけど、読みますね。ええと、……僕は羽をもがれた蝶。君という花を失って、彷徨っている哀れな虫けら。アスタリヤ、君過ごした薔薇色の日々は永遠に消え去ってしまった。君は輝く恋のウサギちゃん、ラヴィンラヴィンラヴィット……ええ……」



遠い目になったジェインは、ふるふるっと首を振り、改めて続きを読み出した。


「だが、運命の天使が僕に夢で囁いた。君が悪魔の古城にいると。ああ、君はサタンに連れ去られた。もう迷わずに帰っておいで、僕は君を許している。真実の愛は許しの中にあるんだ。戻ってきたら今こそ君という花に僕は舞い降りよう……? あの、まだあるんですけど……」


「いいわ。燃やしておいて頂戴」


「はぁい」


ジェインの爪先からボッと火が出た。

さすがのアスタリヤも振り返った。



「ジェイン? 今のは」


「えっ? あっ! も、申し訳ありません! お部屋で燃やしちゃいけませんでした!」


「いえ、そうではなく……あなた、魔法が使えるの?」


「ふぇっ! ひゃ、ああ、そうでした、思わず、忌まわしいものを一刻も早く燃やさなければと思う余り、つい……」


ジェインはしょんぼりと肩を落とした。



「魔力といっても、こうやって火を出すとか氷を出すとか、ちょっと役立つことができるだけで、軍部の兵士みたいに攻撃なんてできません。だけど、女が魔法だなんて、変ですよね……魔女って言われたって仕方ありません」


「素晴らしいじゃない」


「えっ」


「これで本物の魔女の城になったわ。それに、あなたのその能力はとても便利よ。戦場で敵を爆破させるより、この忌まわしい手紙をすぐにでも処分してもらうことのほうが、今の私には必要なの」


アスタリヤとしては、うるさい蚊を早く潰したいくらいの軽い気持ちで言ったのだった。

が、時に何気ない一言が他人に大きく影響することがある。


「アスタリヤ様ぁ……」


涙目のジェインは顔をあげた。

孤児院でも気持ちが悪いと言われ、修道女には魔法が使えるなんて、秘密にしておくようにと釘を刺されていた。


それなのに、女主人は蔑むどころか褒めてさえくれた。


あまつさえ、必要だと。



「アスタリヤ様、わたくし若輩者ですし、おっちょこちょいですし、そそっかしいですけど、心からアスタリヤ様にお仕えします……!」


「よろしくね。ドレスの着替えや髪結い、細々したスケジュールの管理はジェイン、あなたに任せるわ」


「わっ、私で務まるでしょうか……いいえ。アスタリヤ様のため! 務め上げてみせます!」


持ち前の根性と、アスタリヤへの忠誠心、そして自由に使うことを許された魔力で、ジェインはみるみるうちに仕事を覚え、後にアスタリヤの筆頭メイドとして有名になるのだが、この時のジェインはまだ自覚してはいなかった。


全く、アスタリヤにはこの類の才能があった。


エスター商会に斡旋させた使用人たちが到着してから、その才能は遺憾なく発揮された。


ドレスの手入れと洗濯のための衣服係。

食事と厨房の担当のシェフと、皿洗いが二人。

館全体の調整と予算管理をするバトラー。

掃除と雑用のためのハウスメイド。

馬車の運転をする御者。

馬の世話をする厩務員。

そして、夜間の防犯を担当する警備員。



ティルトが話したところには、


「経験者をすぐに派遣……となると、今すぐに手配できるのは……かなり……ええと、問題があったりなかったりした者しか居らず……」


ということだった。


十名の使用人たちはいわゆるこの地域では鼻つまみ者、つまりは訳ありの者たちだった。



しかし、アスタリヤは見事に彼らの心を掴んでみせたのだった。





たとえば、服屋を廃業した未亡人。

彼女自身も貴族だ。

気位が高過ぎて、なかなか同じ場所で働き続けない。


「元王宮御用達の服屋の、このあたしを衣服係に? 服に着られるような主人ならお断りよ。私が心から認めた方でないと……」


「あら、レーヴじゃないの」


「あたしのことをご存知で?」


「王宮にもよく卸していたわよね。あなたの変わったパフスリーブのドレス、好きだったのよ」


「まあ! あのシャーリングに凝ったパフスリーブをご存知なの? お若いのに服への造詣が厚い方ね。よく見れば、透き通るような肌と深遠な瞳、柳の木のようにすらりとしていらっしゃる……」


「あなたのような方に私を着せ替えていただけたら、本当に心強いでしょうね」


「まあっ!」



といった具合である。





警備担当のフリットは、いかにも強そうな男性だった。

丸太ん棒のような傷のある腕を見せつけながら、アスタリヤに言った。


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