11 雇用
ロミオメールってありましたね。
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事態が動いたのは、城の生活が始まってすぐだった。
「アスタリヤ様ー! 元・旦那からのお手紙が届いてますよ」
ドレッサーに向かいながら、アスタリヤは声だけで返事をした。
「読んでも読まなくてもいいわ。あなたに任せましょう、ジェイン」
「ええ……じゃあ、一応封を開けて、と……親愛なるアスタリヤ。君がいなくなってから、僕の心は千々に乱れている。
まるで風を失った風車のよう、緑のない庭のようだ。ああ、どうして君はアスタリヤなのだ……? なんですか、これは」
「さあ。気持ちが悪いことだけは確かね」
「あっ! もう一通来てますよ。嫌な予感しかしませんけど、読みますね。ええと、……僕は羽をもがれた蝶。君という花を失って、彷徨っている哀れな虫けら。アスタリヤ、君過ごした薔薇色の日々は永遠に消え去ってしまった。君は輝く恋のウサギちゃん、ラヴィンラヴィンラヴィット……ええ……」
遠い目になったジェインは、ふるふるっと首を振り、改めて続きを読み出した。
「だが、運命の天使が僕に夢で囁いた。君が悪魔の古城にいると。ああ、君はサタンに連れ去られた。もう迷わずに帰っておいで、僕は君を許している。真実の愛は許しの中にあるんだ。戻ってきたら今こそ君という花に僕は舞い降りよう……? あの、まだあるんですけど……」
「いいわ。燃やしておいて頂戴」
「はぁい」
ジェインの爪先からボッと火が出た。
さすがのアスタリヤも振り返った。
「ジェイン? 今のは」
「えっ? あっ! も、申し訳ありません! お部屋で燃やしちゃいけませんでした!」
「いえ、そうではなく……あなた、魔法が使えるの?」
「ふぇっ! ひゃ、ああ、そうでした、思わず、忌まわしいものを一刻も早く燃やさなければと思う余り、つい……」
ジェインはしょんぼりと肩を落とした。
「魔力といっても、こうやって火を出すとか氷を出すとか、ちょっと役立つことができるだけで、軍部の兵士みたいに攻撃なんてできません。だけど、女が魔法だなんて、変ですよね……魔女って言われたって仕方ありません」
「素晴らしいじゃない」
「えっ」
「これで本物の魔女の城になったわ。それに、あなたのその能力はとても便利よ。戦場で敵を爆破させるより、この忌まわしい手紙をすぐにでも処分してもらうことのほうが、今の私には必要なの」
アスタリヤとしては、うるさい蚊を早く潰したいくらいの軽い気持ちで言ったのだった。
が、時に何気ない一言が他人に大きく影響することがある。
「アスタリヤ様ぁ……」
涙目のジェインは顔をあげた。
孤児院でも気持ちが悪いと言われ、修道女には魔法が使えるなんて、秘密にしておくようにと釘を刺されていた。
それなのに、女主人は蔑むどころか褒めてさえくれた。
あまつさえ、必要だと。
「アスタリヤ様、わたくし若輩者ですし、おっちょこちょいですし、そそっかしいですけど、心からアスタリヤ様にお仕えします……!」
「よろしくね。ドレスの着替えや髪結い、細々したスケジュールの管理はジェイン、あなたに任せるわ」
「わっ、私で務まるでしょうか……いいえ。アスタリヤ様のため! 務め上げてみせます!」
持ち前の根性と、アスタリヤへの忠誠心、そして自由に使うことを許された魔力で、ジェインはみるみるうちに仕事を覚え、後にアスタリヤの筆頭メイドとして有名になるのだが、この時のジェインはまだ自覚してはいなかった。
全く、アスタリヤにはこの類の才能があった。
エスター商会に斡旋させた使用人たちが到着してから、その才能は遺憾なく発揮された。
ドレスの手入れと洗濯のための衣服係。
食事と厨房の担当のシェフと、皿洗いが二人。
館全体の調整と予算管理をするバトラー。
掃除と雑用のためのハウスメイド。
馬車の運転をする御者。
馬の世話をする厩務員。
そして、夜間の防犯を担当する警備員。
ティルトが話したところには、
「経験者をすぐに派遣……となると、今すぐに手配できるのは……かなり……ええと、問題があったりなかったりした者しか居らず……」
ということだった。
十名の使用人たちはいわゆるこの地域では鼻つまみ者、つまりは訳ありの者たちだった。
しかし、アスタリヤは見事に彼らの心を掴んでみせたのだった。
たとえば、服屋を廃業した未亡人。
彼女自身も貴族だ。
気位が高過ぎて、なかなか同じ場所で働き続けない。
「元王宮御用達の服屋の、このあたしを衣服係に? 服に着られるような主人ならお断りよ。私が心から認めた方でないと……」
「あら、レーヴじゃないの」
「あたしのことをご存知で?」
「王宮にもよく卸していたわよね。あなたの変わったパフスリーブのドレス、好きだったのよ」
「まあ! あのシャーリングに凝ったパフスリーブをご存知なの? お若いのに服への造詣が厚い方ね。よく見れば、透き通るような肌と深遠な瞳、柳の木のようにすらりとしていらっしゃる……」
「あなたのような方に私を着せ替えていただけたら、本当に心強いでしょうね」
「まあっ!」
といった具合である。
警備担当のフリットは、いかにも強そうな男性だった。
丸太ん棒のような傷のある腕を見せつけながら、アスタリヤに言った。




