後編
遅くなりましてすいません。
戦闘シーンなんて初めて書くもので、バッサリやっちゃいました。
先に謝っときます、ごめんなさい。
次に勇者sideを入れてどうにか終わらせたいと思います。
エリーナの部屋を飛び出した私は街の様子なんかには目もくれないで、勇者の前の空中に音もなく降り立つ。
突然現れた私に驚きを隠しきれず、町はさらに混迷を極める。
仮面とマントで隠す気があるのかどうかわからない装いの、「変人」と書いて「アルビオラ」と読むこの私。
魔族を庇うように、つまりは勇者と相対するように立ってしまったからやっぱり注目の的になる。
箒も何もなしに空に立ち止まっていることも、その一因となっているのかもしれない。
世界の英雄を討伐記念パレードの最中に敵に回すなんていうビックリ仰天の奇行を仕出かすせいで、魔族の仲間だと思われているらしい。
魔族の襲来なんてものを忘れてしまったかのように食い入る視線がこの上なく痛い。
「何者だ」
向こうは曲がりなりにも世界を救った勇者とその愉快な仲間たちで、対するこっちはただのか弱い町娘。
勇者から静かに突き刺さる殺気からはいかにも『歴戦の猛者』を感じさせ、正直ビビって今更ながら怖くなってきて言葉に詰まる。
何だか怖くなって手に汗をかき始める。
「………」
「何を黙っている、何か答えたらどうだ」
いやいや勇者よ、ただの一般ピーポーにそんな高度なことを求めないでほしい。
あんたが殺気立ってるせいで吹けば飛んでいきそうな女の子が怯えてるんだぞ、無茶言うな。
今の私の気分はまさしく、黒い飛ぶ虫『G』でいっぱいの学校裏の飼育小屋中に入れられた飼育係り。
天井にまでびっしりと張り付き、押し合いへし合いをしながらボトリと落ちてカサカサ動くGの姿はいまだに忘れられないトラウマ。
なのに逃げ出すことは叶わないこの絶望的な状況。
もしここで私が宅配屋さんを見捨てて逃げてしまったら、もれなく特注ぬいぐるみのぶった切りが出来上がってしまう。
魔王配下一の、職人製の、特、注、ぬいぐるみの。
だから、私は後ろに引くことはできない。
失ってはいけない、大切なものを守るために。
……なんだか今かっこいいことを言った気がする。
とりあえず、落ち着いて汗を拭こう。
真っ青で脂汗を吹き出す状態ではできることもできなくなる。
「……?」
仮面の上からハンカチで汗を拭き始めた私に勇者一行は奇妙な顔をする。
だが、そのお綺麗な顔は崩れてくれないので、平凡娘にとっては苛立ちを感じざるをえない。
それを見て顔を赤らめる女たちも見てて頭にくる。
外面に騙されてるよ、君たち結婚詐欺とかに引っかかりそうだよ。
とくに、表情がわかりにくい勇者兼騎士団長のキョトン顔に黄色い悲鳴を上げる魚屋のトルティアおばさんは、御年いくつかをその染めた紫の頭で考えてほしい。
……よし、なんだか落ち着いてきた。
とりあえず、魔族に犬を追い払うようなしぐさであっちに行けと指示を出すと、頭をコテンと傾ける。
何で指示を出したかわかっていないな、あれは。
あいつの考えなしがこの騒動の原因だろうにとぶちぶち心の中で文句をたれる。
苛立ちからか少し強めに手で払うと、私の魔王城での所業を思い出したのか知らないけどものすごい勢いで逃げ始めた。
これ見た勇者が飛び出したので、瞬間、魔法で叩き落とす。
これで完全に『怪しい奴』から『勇者の敵』として認識されたようで、パーティが全体が殺気立ち、後ろに控えていた魔道士が早速詠唱を始める。
勇者もすぐに体勢を立て直し剣を構えると目つきが変わる。
とりあえず私のすべきことは、ぬいぐるみと宅配屋さんを守ること。
だから逃げる時間を稼いだあとは私もお暇してしまえばいい。
剣も体術もできない、魔法一辺倒の私は、構えなんて作らないでだらりと腕の力を抜く。
心構えがあればそれだけで十分。
それじゃ、いきますか。
結論から言えば、5秒で片がついた。
「きゃぁ!!」
「クリス!」
クリスって何処ができいた名前のような、とぼんやり記憶を探ってみる。
魔王討伐にも勇者一行にも興味がなかった私が覚えているぐらいだから、きっとそれとは関係ないところで接点があったのかもしれない。
だってエリーナは一番のお気に入りの勇者についてしか話さないから、狭い交友関係しか持たない私にはその可能性しか考えられない。
まぁ、どーでもいーや。
そこらで転がっている勇者のお仲間ぐらいどーでもいいし、きょーみもない。
見事に意識を失っているお仲間に近寄って頬を突っついてみるけど、ピクリともしない。
大陸一の義賊のお頭もこの国の第三王子もオカマな鎌使いも回復担当のシスターもびっくりするぐらい呆気なかった。
何をしたかというと、私が立っている道路全体に魔法で作った空気の壁を落として道路とサンドイッチしただけ。
なんのひねりもないから、とりあえず小手調べのつもりだったのに6人のうちの4人をサンドしてしまった。
残りの2人は魔法の気配を察知したのか避けて反撃に移行したみたいだけど、急に重くなった体がうまく言うことを聞かなかったらしく、女の子が頭から墜落した。
たったそんだけのこと。
本来なら良い所で切り上げてさっさと逃げようと画策してたのに、その必要がたった5秒でなくなってしまった。
まぁ、誰かが死んでしまったとか、後遺症が残るとか言う類の傷は誰も負ってないみたいだから、少し悪いことをしたかもとちょっと反省する。 手加減してればよかった。
さっさと逃げてしまおうと思って、女の子を介抱して必死に呼びかける勇者を尻目に宅配屋さんと合流するため一歩踏み出す。
すると後ろから殺気を感じた。
いや、『感じる』なんてものじゃなく『噴き出して飲まれる』が正しいかもしれない。
戦闘に特化してるわけでもない私が感じ取れるほどの膨大なものに背を向けられない。
慌てて後ろを向くと―――――
「殺す」
――――――――――目の前に勇者の顔が在った
カッと見開いた目は赤く爛々と輝いて、口元が大きくゆがんでいる。
今にも振り下ろそうとしている大剣の柄から、ギリギリとありえない音がする。
無表情でカッコいいと騒がれる英雄の面影は何処にも残されていない。
愉しそうに笑って剣を振りかざす、その様子はさながら狂人―――――
これはマズイ、逃げろと脳内で警戒音が響く。
勇者が動き出す前に私は動きだす。
さっきみたいに空気の壁程度じゃ、私ごと切り裂かれるぞと告げる本能に脊髄反射で答える。
『防御』じゃなくて『いなす』!!
勇者との間に予測した剣の軌道に合わせて斜めに壁を作り出す。
正面から受け止められないなら、力を分散させてギリギリ当たらない程度に剣の軌道を変える。
壁を作るのとほぼ同時に、目にも止まらない速さで私に襲い掛かる。
かなり圧縮して作ったはずなのに触れたところから切れていく。
少し少しと進むたびに、どんどんと『いなし』きれないズレが大きくなっていく。
刻一刻と迫る剣に慌てて顔をそらす。
スパンと何かが切り裂かれる音がした。
視界がだんだんと広くなっていく。
目の前には剣を振り切ったものすごい形相で私を睨む勇者の姿、切り裂かれた空気の壁、ついでに切れたであろう私の髪の毛、そして、私の仮面の片紐――――――
「――――っ」
マズイ、マズイ、マズイ!
髪の毛が切れたって良いけど、仮面がはがれるのだけはマズイ!!
この状態ではがれたら魔法が使えなくなった私はすぐに殺される!!!
私は最初に4人をつぶした時に出来た家の破片を一斉に巻き上げる。
結構盛大につぶしたからかなりの量があるこれらを目くらましに利用して、民家を盾に全力で逃げた。
家を飛び越えた瞬間すぐ上を通った剣に冷や汗を掻く。
もしもう少し遅かったら、なんて恐ろしい創造を必死に振り払う。
着地すると同時に、進行方向を中心とした円錐状の障壁を作り、空気の抵抗を極力減らし走り出した。
私が今出来るのは、可能な限り全速力で逃げることだけ。
私は宅配屋さんと合流すべく、そのまま街の外まで一気に逃げた。




