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前編

この物語は前後編と勇者サイドで締めたいと思っていますが、アップするのはスローペースです。

あと、前編はあらすじとほとんど変わりません、ごめんなさい。

今日は朝からとにかく騒がしい。

朝早くから顔なじみたちは屋台は開店準備を始め、かつてない熱気に包まれている。

その熱が人に伝播しているらしく、今日はご苦労なことに朝の六時から町が活気付き始めた。

そのせいか城へと続くこの町のメインストリートには、既に人が所せましと人が押し寄せている。

実際のところは昨日から場所取りをしているアホもいるみたいで、騎士団と揉めて一騒動なんてこともあった。

そんな町の様子を尻目に、居候先に頼まれたお使いから帰る途中の私、アルビオラとしては、邪魔な障害物だらけで迷惑千万。さっさとお帰り願いたい。

そんな私の願いを一蹴するかのようにわあっと歓声が上がった。

歓声のするほうへと目を向けると、そこには見目麗しい6人の男女が悠然と歩いてくる。

あれこそこの騒ぎの原因―――

――――――――――勇者と愉快な仲間たちです



ここは剣と魔法の世界でその中でもここは大陸一を誇る王都ハイエネリド。

みんな何かしらの魔法が使えて、逆に魔法が使えない人間はいない魔法の国。

そんな人々の中でも魔法を極めていった変人や、剣に命を預けた奇人たちは騎士や魔道士なんかになる。

私はというと一つしか魔法は使えないために、元からこれっぽっちも夢見ていなかった魔道士なんかにはなることもなく、一般市民として普通に暮らしています。


事の発端は2年前、自称『5千年前に封印された魔王』が復活したのだ。

そいつによれば、星歴33333年の3月3日でキッチリカッチリ世界を我が手中に、ということらしい。

いやいや、イマドキそんなん流行らないよ。てか何その微妙な数字、結婚記念日?、なんていう私の爆笑をよそに世界中が大パニックに陥った。

王城に人が押し寄せたり、一家仲良く安住の地を探しに旅へ、なんてことが町のあちこちで起こり、ハイエネリドも例に漏れず大混乱。

そこで現在が星歴112年であるにもかかわらず、33000年以上の猶予を気持ちが良いくらいに無視して『魔王討伐隊』が編成された。

当時の騎士団長や天才魔道士たちを引き連れた選りすぐりの6人は、多くの期待と不安を背負って旅に出た。

強さと美しさを兼ね備えた一行の行く先々でのさまざまな逸話はすぐに国中に広がり、人々の期待が希望に変わっていくのにそう時間は掛からなかった。

その頃の私はといえば、居候をさせてもらっていた小心者の元雇い先一家の夜逃げのせいで、職も住家も失い筋肉痛の腹筋だけが残され、すっかり魔王の存在なんて忘れていた。


旅立ちの日から2年たったある日、私の中では存在自体を忘れ去られていた魔王が何を思ったのか全軍を私の住んでいた王都に差し向けたのだ。

王都は半壊滅状態で多くの人が怪我をしたが、城から派遣された魔道士のおかげで奇跡的にも死者は出なかったらしい。

だが、そんなことは問題ではなかった。


私はそれはそれはぬいぐるみが大好きだった。

昔は別段そういうものが好きだったとかではないがあるお店で一目ぼれして以来、その店の目の前を通るたびにガラス越しに眺めるのが習慣になった。

たくさんいるぬいぐるみたちの中でも、一番目立つところに置かれていた大きな猫のぬいぐるみは私の憧れでいつかお金を貯めて絶対に買うんだ、と夢を見ていたのに。

親友だけにしか言わずに心の中で育てていた淡い夢は今ここで砕け散った。


その腹いせに仮面とマントなんていう変装ともいえないような姿で単身魔王の元へ行き、たった一つしか使えない私のつたない魔法でズタズタにしてやった。

抑えきれない怒りから湧き出る高笑いとともに一方的に好き放題やらせてもらった。

最終的には店の再建費用を出し、魔王の配下に特製ぬいぐるみを作らせてプレゼントしてくれると約束してくれたので、心が優しく広い私は慈悲の心で許してやった。

すっきりした私が王都に戻ってくると、魔王が降伏宣言をしたという話が入ってきて、今の騒ぎにつまりは凱旋パレードに至るのだ。




回想終わって王都に戻る。

約2年の旅を終えた一行の姿を一目見ようと集る人を見ていると、突然上から聞きなれた声が聞こえてきた。


「アルビオラ!」


声のしたほうへを目を向けると親友のエリーナが部屋から手を振っていた。

いつの間にかエリーナの家の前にやってきていたらしい。


「エリーナ!また『視て』るの」

「そうだよ、うちに上がってく?」


うん、と返事をしてエリーナの家に入る。

一階部分では八百屋を営んでいるため一言だけご両親に声をかけて、迷惑にならないようさっさと上りなれた階段を上がって迷わず部屋へ向かう。

いつ見ても変わらないシンプルな部屋の窓からエリーナはパレードの様子を眺めていた。

私は枕元においてあるクッションを手にとって彼女の隣に座った。

外を見てみると既に一行はエリーナ宅の近くまでやってきていた。


「うはー、やっぱり勇者様ご一行は美形揃いだよ」

「昔からかっこいい人が好きだったもんね」


美形は宝だ、と豪語する親友は右手の親指と人差し指で輪を作りその中を通して一行を眺めている。

これはエリーナの『遠視の魔法』で、そうすることにより遠くのものがハッキリと見えるという魔法だ。

正直に言うと、こんな時以外では使いどころのなさそうな魔法なので私的には正直いらない。

そんなエリーナは私が魔王に八つ当たりしたことを知っている。というか口を割らされた。

『遠視の魔法』で集めた情報や私の様子から得た推測で、誘導尋問をかけられて見事に引っかかってしまったのだ。

ただの友達と侮っていたことが仇となった瞬間だった。

話をしてしまえば後は気が軽くなるもので、今となっては共通の話題が一つできて楽しいな程度にしか考えていない。

まあ、そもそもそこまで頑なに話すまいとしていたことでもないので、あんまり気にしていなかったということもあるけれど。



するといきなり悲鳴が聞こえた。 びっくりして見てみるけれど、何が何だかさっぱりわからない。

というかむしろ戦闘民族でもない、ただの一般市民の私が状況を把握できる方がおかしい。


「あっ、魔族だね。意外とかっこいいかも」


目を凝らしている私の横で呑気な声が聞こえてくる。

エリーナが『視て』いる方向に目を向けるものの、あまりの遠さでよく見えない。

けど、エリーナにはハッキリと見えているようで、その魔族の感想を教えてくれる。

美形だ何だと話す親友の「可愛くて虐めたくなる」発言で完全に脱力させられた。

けどま、勇者一行の揃っているパレードに突っ込んできても瞬殺されて勝ち目はないでしょ、たったの一体っぽいしね。

私に実害はないと踏んで無視しようと思ったのに。

無関係だって思ったのに。

耳に入ってくる言葉はそんな私の安らぎを綺麗に打ち砕いてくれた。


「なんか大きな箱持ってるね、誰かにプレゼントするのかな?」


『魔族』で『大きな箱』で『プレゼント』

その3単語で一気に事態を把握した。

近づくにつれてハッキリと見えるようになるその姿にだんだんと喜びがこみ上げてくる。


「わ、私のぬいぐるみ!」


魔族の大きさと比較して確信を持てる箱の大きさに、ちゃんと魔王は仕事をしたのだと安心した。

今日が期日だったので、遅れたら直々に受け取りに行こうと思っていたけどその必要がなくてよかった。

後は現物を受け取って完成品を見るだけ。 心が躍りだす。


「あれが例の……。 でも、いいの?」

「えっ何が?」


喜びで緩む頬をそのままにエリーナが指す方を見てみると大変なことになっていた。

それもそのはず、魔王討伐を祝ったパレードに魔族が乱入したのだ。

人々は大混乱に陥って慌てふためいているし、騎士たちもだんだん集まり始めている。

何より恐ろしいのは―――――――













勇者が剣を抜いていた。





これはマズイと直感で感じた。 プレゼントごと魔族をぶった切るつもりなのかもしれない。

わたしの特注のぬいぐるみが破壊される。

ずっと憧れていた大きな猫のぬいぐるみはつぶされて。

次に楽しみにしていたぬいぐるみは姿も見ないで?



―――――そんなのは許さない。 勇者だろうがなんだろうが絶対に。



私は八つ当たりしに行った時の姿に変装し、自身に魔法をかけてエリーナの家を飛び出した。

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