第8話 地下の儀式場
「さあ、桃源導師様。こちらへ」
「い、いや、ちょっと待って!なんで普通の家に隠しドアなんてあるんですか!?地下って、一体何があるんです!?」
俺が狼狽していると、信者の女性たちはクスクスと笑い声を上げた。
「導師様ったら、お可愛らしい」
「初めてですから、無理もありませんわ」
「さあ、導師様。私たちがご案内いたしますわ」
女性たちに背中を押されるようにして、俺は半ば強制的に隠しドアの奥へと足を踏み入れさせられた。
地下へと続く階段は薄暗く、空気がひんやりと冷たい。
先頭を歩く妙子さんが、ふいに低い声で何かを呟き始めた。
「……ああ、大いなる桃源郷よ。現世の苦しみから抜け出し、永劫の楽園へと至る道……」
それは、ただの独り言ではなく、お経のような祝詞のような、狂信的なお祈りだった。
妙子さんの異様な呟きに呼応するように、後ろを歩く信者たちもブツブツと祈りの言葉を口にし始める。
「……至誠を捧げよ。霊気を巡らせ、調和を生み出さん……」
背筋に冷たい汗が伝った。
先ほどまで「駅前のケーキが美味しい」と笑い合っていた主婦たちの面影は、そこには全くなかった。
彼女たちの瞳は薄暗い階段の中で異様な光を放ち、その声は閉鎖空間に不気味に木霊している。
日常の空間から、カルト宗教の狂気へと一気に引きずり込まれるような感覚。
俺の常識人としての直感が、けたたましい警鐘を鳴らしていた。
(ヤバい。やっぱりこれ、ただのご近所サークルなんかじゃない……!)
引き返そうと後ろを振り向いたが、信者の女性たちが階段を塞ぐように立ち塞がり、妖しい笑顔で俺を見つめている。逃げ道はない。
「さあ、桃源導師様。我々の聖なる地下室、儀式場である『桃源の間』へ」
妙子さんの声に導かれ、俺は暗い地下室の奥へと、一歩、また一歩と足を進めるしかなかった。
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薄暗く、冷たい空気が漂う階段を下りきった先。
分厚い防音扉のようなドアを妙子さんが押し開けると、そこには異様な空間が広がっていた。
「ここが……地下室……?」
そこは、二十畳以上はあろうかという広い空間だった。
壁は一面、真っ白な防音材で覆われており、窓は一つもない。密室特有の、少し息苦しいような空気感が肌にまとわりつく。
だが、俺が最も違和感を覚えたのは、その部屋の『用途』が全く読めないことだった。
広い空間の中央には、体操競技で使うような分厚く大きなマットが、ただ一枚だけデンと敷かれている。
そして、そのマットをピンポイントで照らすように、スポットライトが天井に吊るされているのだ。
(……なんだ、これ?)
俺は完全に面食らっていた。
宗教の地下施設、旧儀式場である『桃源の間』と聞いていたからには、てっきり不気味な神像や、血なまぐさい祭壇があって、それに向かって頭を下げたり祈祷をするのかと思ったが違うようだ。
お香の匂いも、お供え物もない。ただ、中央の巨大なマットだけが、無機質なスポットライトに照らされている。
まるで、部屋の中央にステージを置いたライブ会場のような、ひどくアンバランスな空間だった。
「桃源導師様、どうぞ中央へ」
妙子さんに促され、俺はおずおずとマットのそばまで歩み寄った。
すると、信者の一人が壁のスイッチパネルに手を伸ばし、パチリ、パチリと照明の明るさを調整し始めた。
「桃源導師様は初めてなので、少し暗めでいいかしら」
彼女がそう言うと、天井のメインライトが落ち、マットを照らすスポットライトだけが妖しいオレンジ色に変わった。
部屋全体が、まるでホテルの寝室のような、妙に生々しく艶めかしい雰囲気に包まれる。
「あ、あの……ここで、一体何をするんですか?礼拝っていうか、お祈りなら、一階のパイプ椅子でも……」
俺が困惑しながら振り返った、次の瞬間だった。
――バタンッ!
最後尾にいた信者さんが、地下の分厚い扉をしっかりと閉め、内側から鍵をかけた。
ガチャン、という重々しい金属音が密室に響き渡る。
「え?」
それを合図にしたかのように、信者の女性たちが一斉に、自らのブラウスのボタンに手を掛けた。
シュルリ、と衣擦れの音が響く。
バサッ、バサッ。
何のためらいもなく、女性たちが突然、次々と服を脱ぎだしたのだ。
「…………え?え??えーーー?!」
あまりの唐突な展開に、俺の口からは間抜けな声しか出てこなかった。
瞬きをする間に、彼女たちのスカートが床に落ち、ブラウスが放り投げられる。先ほどまで上品に紅茶を飲んでいた女性たちが、あっという間に下着姿になっていく。
色とりどりのランジェリー。露わになる大人の女性たちの白い肌。
「ちょっ……!ストップ!ストップ!!何やってるんですか!?」
「何って……『至誠』を捧げるための準備ですわ」
下着姿になった信者たちは、恍惚とした表情で俺を囲い込むように距離を詰めてきた。
むせ返るような香水の匂いと、女性特有の熱気が俺に迫る。
「さあ、桃源導師様も。どうぞ、お召し物を」
「私たちにお手伝いさせてくださいませ」
信者たちは、俺のシャツの裾やベルトに手を伸ばし、俺にも脱衣を要求してきた。




