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第8話 恐るべしエルフ顔

「またオークの子供に間違われたら相手の人が可哀想だもの」


 四人で外食に行くと、一人だけ様相の違うぼくは、よくオークの子供に間違われたものだ。

 他者から見れば、見目麗しいエルフが、恐ろしく不細工な子供を連れているのだ。

 誰もが何事かと思い、誰もが理由を考え、誰もが同じような結論に辿り着く。


 ――「奴隷にしたオークの子供に餌を与えているのだ」と。


 そして、エルフ三人とお近づきになりたい命知らずは、ぼくの醜さを引き合いに出し、エルフ三人の美しさを賛美する、という地雷を踏み抜くのがいつものことだった。


 曾祖母たちからすれば、可愛いひ孫を馬鹿にされたのだから、半殺しにする正当な理由になり得るが、ぼくは乱闘騒ぎで渦中の人になるのは凄く嫌だった。凄く目立つからだ。


「ふふふっ、もう誰もオークの子供になんて間違わないわよ」


 母親は、未来から来た猫型ロボットみたいに笑うと、居間から手鏡を持ってきた。


「ほら」


 と、差し出された手鏡を受け取る。


「なぜ、手鏡?」


 渡された手鏡をどうすればいいのか、と一瞬迷ってから、普段通りに鏡を覗いてみた。


「――っ!!」


 鏡から逃げるようにのけぞり、思わず鏡を落としそうになった。


「ふふふっ、初めて自分の姿を鏡で見たにゃんこちゃんみたい」


 母親はさも愉快そうに笑ってるけど、笑ってるけど!


「だ、だれ?」


 ただただ鏡の中に見ちゃいけないものを見てしまった気分だった。

 恐る恐る鏡を覗くと、金髪に、翡翠色の瞳をした男性がいた。

 恐ろしいほどの美形で、ハリウッド映画の若手二枚目俳優かよ、と思った。

 ……誰かは知らないけど。

 しかし、手鏡は、ただの手鏡だった。

 電子機器と繋がっているはずもなく、覗き込もうとぼく以外の何者も映すことはない。


「……ぼく?」


 その結論に達するのに、たっぷり十秒は必要だった。


「なんぢゃ、まだ用意しておらんのか?」


 奥から、花柄のスモックを着たセシルちゃんと、革ジャン革パン姿の祖母が戻ってきた。


「ぼく?」


 二人にも、鏡に映る自分と、素顔の自分を交互に指差す。


「ああ、言っておくが、それは素顔ぢゃぞ? 覚醒で美形になったわけではないぞい」


 セシルちゃんは呆れたように言った。


「え? そっ、そうなの?」


「生まれたときから美形ぢゃったが、わしと、セシリアが猫可愛がりしたせいで、あれよあれよという間に肥えてしまっての。せっかくの美形が贅肉に埋もれてしもうたが、まあ太かろうと細かろうと、可愛いひ孫には変わらんから、まあいいや、とな」


「そ、そうだったのか……」


 どの写真を見てもオークの子供みたいな自分が映っているだけなので、てっきり生まれたときからオーク似なのかと思っていた。

 ……まさか、あの分厚い贅肉の下に、こんな美形が隠れていたとは。


「見惚れるのはあとにせい、ほれ、セリアもエプロンを脱いでいくぞ」


 名残惜しげに母親に手鏡を返し、ちょいとしなを作ってみた。


「ぼくって格好いい?」


「否定はせぬが……格好つけるとかっこ悪くなるぞ? 何事も自然体が一番ぢゃて」


 なかなかに手厳しいセシルちゃんだった。


 自分の顔に有頂天でいられたのは、せいぜい、布団に入るまでだった。

 朝起きると、真っ先に逃れられない現実というものが押し寄せてきた。


「こんな顔じゃ学校に行けない!」


 この顔が嫌でも人目を引いてしまうのは、すでに昨日の放課後に立証されたことだ。

 さらにスジローでのことが極めつけだった

 四世代四人、ボックス席に座ったのだが、何を食べたのか、正直、覚えていない。

 芸能人の誰かにでも間違われたのか、あっちこっちから写真を求められたのだ。

 曾祖母と祖母は慣れた様子だった。

 写真を求められれば快諾し、満面の笑顔で写真に収まる。

 祖母など自分が運営する冒険者ギルドを宣伝していたほどだ。


 わざわざ花柄のスモックに着替え、革ジャン革パンでがっちり武装したのは、こうなることを予想……いや、100%知っていたからに違いない。


 一方のぼくといえば散々だった。


 普段使いの毛玉だらけのトレーナーと、パジャマ代わりのジャージズボン姿で、出し抜けに写真を求められたものだから、全部の写真にぎこちない笑顔で収まることとなった。


「笑顔もクールなんですね! 格好いいです!」


「ラフで素敵な格好ですね! どこのブランドですか?」


 なぜか、ぼくが着ているだけで毛玉だらけのトレーナーがブランドものに早変わり。

 ……ジマムラのバーゲンワゴン品なのに。ジャージズボンもそう。

 適当に組み合わせただけなのに最先端のファッションのように見なされた。


「無口なんですね! 格好いい!」


「クールな横顔も素敵です!」


 気の利いたことのひとつも言えず、ゾンビみたいに「あ~」とか「う~」とか唸って、ただただ言葉に困ってただけなのに、何をしても肯定的に見られた。


(スジローの寿司にはなにかハッピーになるものでも入っているのか?)


 本気で心配したほどだ。


 昨日までだったら、「エルフのペットの糞ダサいファッションのオークが生意気にも人様の食べ物を食べている」と見なされ、嘲笑以外の何も得られなかっただろうに。


「恐るべしエルフ顔っ!!」




お読みいただきありがとうございます

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