第5話 初めての魔力
地面が小刻みに揺れていた。
地震? と思った。違った。振動が近づいてくる。
ややあって、どたどたどたっ、と振動に音が重なる。
これは、足音だ。
それも、数十もの団体さんの足音。
「お客さんかの?」
「お客さんかの?」
「邪魔」
目の前で偉そうに腕を組むセシルちゃん妖精を雑に押しのけた、そのときだ。
ゴブリンの大群が、我先にと押し合いへし合い、雪崩れ込んできた。
「きおったか!」
ふんっ、と勝ち気に鼻を鳴らすセシルちゃん妖精。
ちょっと前だったら絶望するしかない状況だったが、
「よし、逃げよう!」
今もそんなに変わりないのでさっさと逃げようとした。
「戯けっ! 覚醒後の記念すべき初陣ぢゃぞ! 遁走する奴があるか!」
「だがしかし!! あの数をどうしろと?!」
「その身に宿る『超高濃度圧縮魔力』は伊達ではないぞ! 全解放にして根切りにしてしまえ!」
セシルちゃん妖精と言い争っている間に、あっという間に半包囲された。
ゴブリン、ゴブリン、ゴブリンの汚き顔でできた壁が悪夢のように立ち塞がる。
「ど、どうすれば?!」
「息を吸うのに教えを請う必要があるか? 腕を振るのにやり方を請うか? ――ただ思えばよい。そして全解放した魔力に意力を通すのぢゃ!」
「なるほど! ……意力とは?」
「ええい! 目の前のケダモノをどうしたいか! 祈り、あるいは呪いぢゃ!」
「どうしたいか――」
そんなのは決まり切っている。
「超高濃度圧縮魔力、――全解放!」
……やってみた!
でろ~、でろ~、で出たから、今度はもっと強めに、でろや! って感じで。
「――っ!」
でた。
七色を帯びた何かが突風となって吹き荒れる。次は、
「ちょ、ちょっと待て、よもやよもや、ここまでとは――」
セシルちゃんが何か言っているようだが、興に乗ったぼくは止まらない。
解放した魔力に、祈りを、呪いを――意力を通す。ただひとつの願い。それは、
「……消えろ」
その場のノリで指を「ぱちぃん!」と鳴らす。
特に意味はない……はずだった。
直後、ぼくを半包囲していたゴブリンの団体さんは七色の粒子となって吹き消えた。
数十、ひょっとしたら数百はいたかも知れないゴブリンが1匹残らずだ。
一体として苦痛に顔を歪めることなく、どこか恍惚とした表情で消えていった。
「……、……、……消えた?!」
自分がしでかしたことに時間差を置いて驚愕が襲ってきた。
にわかには信じられないが……いや、やっぱり信じられない。
本当に? 実は別の場所に移動しただけでした、とか?
「大昔にどっかの映画でみたような光景ぢゃったな」
「ああ、うん、そうだね……」
頭になかった、と言えば嘘になる。まああっちは「灰」でこっちは「光の粒」だけど。
「それにしても、――あ~、やっちまったの~」
顔面を両手で覆い、芝居がかかった仕草で天を仰ぐセシルちゃん。
「……ど、どうなったの?」
「消えた。一文字も違えることなく文字通りな」
「そんな――」
馬鹿な、と続けようとしたところで、がくぅん、と膝が折れた。
あれ? と思った頃にはその場に跪いてしまう。
「な、なんか……すっごく、疲れた!?」
どこが、と問われれば、魔力だ。
魔力が疲れる、ってぼく自身、意味がわからないが、とにかく魔力が疲れた!
「そりゃいきなり魔力全解放すればそうなるわい。ようやくよちよち歩きを始めたばかりの幼子がいきなり百メートルを全力疾走したようなものぢゃからな」
「な、なるほど……」
よくわからなけど、セシルちゃんが言うならそうなのだろう。
「今日のところは、はよ帰ってこい。このダンジョンにはまだオーク共がいるのぢゃろ? その様では連戦はきつかろう」
「そうする~」
否やはない。
魔力が疲れすぎて、ゴブリン同様、オークを消し去る余裕はなさそうだ。
「――あっ!」
ふと気がついた。
「なんぢゃ?」
「い、いや、何でもない」
苦笑いの愛想笑いでとりあえず誤魔化す。
――ゴブリンを消し去れるのなら人間も消し去れるのでは?
ふとそんな疑問が湧いたのだ。
しかしその疑問をセシルちゃんに問いかけることができなかった。
仮に「できる」と答えられたら……。
ぼくはその誘惑に打ち勝つ自信がなかったからだ。
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