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23.『私ですから!』

読む自己で。

「ハツ。お前、藤島と付き合いだしたんだってな」


 月曜日。

 満くんが席にやって来てから、彼に言っていなかったなと遅まきながら私は気づいた。麗子よりも先に言ってあげるべきだったのかもしれない、とも。


「……言うの遅くなってごめん」

「なんで謝るんだよ。俺のはそもそも最初から終わっていただろ?」

「……うん」

「おめでと。ま、こうなるって分かっていたけどな。それかもしくは麗子と付き合うと思っていたけど」

「でも、私は麗に振られたら麗子にって考えはなかったよ? 逆も同じでさ」


 そんな選び方は失礼すぎる。おまけに麗もしくは麗子の側にいたら思い出してしまい集中できないだろう。


「なるほどな。消去法は嫌だということか」

「そうそう!」

「それにあの時点で無理だと察した俺は次の女子を探したんだ。ま。まだ見つかってないんだけどな」

「たくさんいるんだし、きっと合う子が見つかるよ」

「俺な、1回はハツでもいいかなって考えたんだけどさ、お前って女子しか好かないから可能性ないなって諦めたんだよ」


 可愛い女の子とうまく関係を築けず、こちらが四苦八苦していたのを見てきたわけだからね彼も。とにかく、こんなこと初めて言われたので、困惑しつつも「そっか」とだけ答えておいた。


「平田、人の彼女に告白するんじゃないわよ」

「しねえよ、てかできねえだろ。ま、仲良くやれよ」

「あんたに言われなくてもそうするわよ」


 満くんって偉いなあ。私だったら絶対にモヤモヤしすぎて落ち着かなくて、相手に「おめでとう」なんて言えないだろうし、とにかくすごい。


「なに平田が戻っていくのを目で追っているのよ? あのね、麗子にならまだいいけど、他の女や男に同じようにしたら許さないわよ?」

「しないよそんなこと、私には麗がいてくれるんだから」

「どうだか。証拠、見せなさいよ」

「え、ここで?」


 お昼休みだけど、だからこそ周りにはクラスの子たちがたくさんいて盛り上がっている状況――ここで抱きしめだったりキスなんかできるわけがないじゃないか。


「なに勘違いしているのよ淫乱娘、ふたりきりになってからに決まっているでしょうが。それともなに? あんたはここで抱きしめられたりとかキスされたいというわけなの?」

「あ! あはは……」


 私は即答できずに黙った。というのも、バスでされたときに背徳感が気持ち良かったからだ。キス自体の攻撃力と、公開プレイで――やめておこう。だって麗の顔が「うへぇ、こんなのが彼女なんて」みたいな感じだし。


「はぁ、自分の恋人がこんな変態だとは思わなかったわ」

「えぇ……」

「ま、手くらいなら繋いであげるわ」

「ありがと」


 いつも甘えてくるのは麗なのに、なんて無粋なことは言わない。彼女がこう言って手を差し出してくれているんだから明るくそれを握ればいいのだ。

 ただ手を繋ぐというだけでもアピールはできる。指を絡ませて恋人繋ぎにしたりとかね。ちなみに、これで彼女の顔を少しだけ赤くさせられることも気に入っているひとつの要素だ。


「イチャイチャしているんじゃないわよ、ここは教室なのよ?」

「あんたこそ嫉妬するんじゃねえわよ。どうせ家に帰ったらするつもりなんでしょうが」

「当たり前じゃない、双子なんだからきっちり分けないとね。ましてやあなたは私の姉、そこは可愛い可愛い妹に譲ってくれないとね」

「なにが可愛いよ、泥棒猫じゃない」


 おぉ! 取り合いの対象がまさか私になるなんて思っていなかったから、麗には申し訳ないけどかなり嬉しい。しかも麗子はパツキン美少女だ、……やばいね。


「あんた、喜んでいるんじゃないでしょうね?」

「へっ!? そ、そそ、そんなわけないじゃないですかー」

「ここであたしの所有物だって証明しておくべきかしら。そうすれば変なのが寄り付くこともなくなるわよね? 主に金髪の女、とかね」


 麗から牽制されても麗子は涼しい顔で「姉力がないわね」と答えるだけだった。私だったら間違いなく縮こまって「ひゃ、ひゃいぃ!」とかろうじて返事をするくらいしかできなかったことだろう。


「勝負よ!」

「受けて立つわ」

「勝利条件はこの子から『参りました』と言葉を吐き出させること。暴力以外なら好きにしていい、これでいいわよね?」

「ええ、構わないわよ」


 うーん、私はなにも言っていないのに勝手に話が進んでいく。参りましたってどういうベクトルで私は参らせるんだ? なんて考えている内にふたりががばりと抱きついてきた。

 過去の私は限界値を超えてしまい感極まって泣いてしまったんだろうと結論づけていた。そのため、慣れたいまされても幸せしか感じない。というわけで、これで私を参らせるのは不可能ということだ。


「初音さんも変わったわよね、私達が抱きしめすぎたせいかしら」

「なんかつまらないわよね、初音らしくないっていうか」

「そうだ、両頬にキスをするというのはどう?」

「え……流石に教室では嫌よ。だって初音はすぐに蕩けた顔になるし、見せたくないじゃない?」


 そもそもこんな会話をし、実践している時点であまり意味はないと思う。抱きつかれて慌てないだけで、気分はふわふわしているんだし。


「帰ってからに決まっているじゃない、淫乱娘はあなたの方ね」

「うぎゃあああ!?」

「わっ!? こ、声が大きいよ麗……」


 みんな見ているし恥ずかしい。彼女が叫んだりして迷惑をかけた場合、私が責任を取らなくちゃいけなくなる。多分、彼女とはそういう存在であるべきだろう。


「い、淫乱とか欲しがりじゃないわよ!?」

「とりあえず皆に謝りなさい」

「皆、ごめん! はぁ……」

「先生が来たわね。続きはまた放課後にしましょう」

「そうね……」


 麗子はしっかりと、麗はトボトボと席へと向かった。

 自業自得だけど、少しだけ可哀そうなんて感じたのは彼女バカなんだろう。




 明日からGWなのでお菓子とかを買い込んで家へと帰った。

 もちろんあのふたりも付いてきているわけだが、どうしても言い争いに発展して困るので、ふたりで手を繋がせたらすぐに落ち着いてくれた。やはりなんと言っても姉妹なわけだし、落ち着くんだろう。


「お菓子はもう食べる?」

「まだいいわよ」

「じゃあ後で食べよっか」


 私は麗に膝枕をして、いつもみたいに頭を撫でて。その私の頭を麗子が抱いているため、幸せな柔らかさに全身が包まれているようだった。

 さて、ふたりを連れてきたのはいいけどなにをしようか。勝負はどうなっているんだろう。引き分けということで話が片付いたわけではないことは、さっき歩いていたときにわかったわけだし……。


「ふたりとも勝負はいいの?」

「なんかどうでも良くなったわ。こうしてあんたの太ももに頭を乗っけて寝られればそれでいいわね」

「私も初音さんを抱きしめられていればそれでいいわよ。初音さんに迷惑をかけたくはないわけだしね」

「あはは、ふたりが仲良くしてくれて嬉しいよ」


 私もふたりと触れられているだけで嬉しいんだけど、今度は物足りなさを感じてしまった。欲求不満――淫乱娘、なんだろうか。


「ふぁ……初音さん、少しあなたの部屋で寝てきてもいいかしら? 実は昨日あまり寝られなくて寝不足なのよ」

「あ、うん、いいよ! 遠慮なくベッド使っていいからね!」

「ありがと」


 麗子は彼女ではないけど、彼女の妹なんだから大切にするべきだろう。だというのに気づいてあげられなかった。その点だけは微妙と言える。


「麗は大丈夫?」

「大丈夫よ、やることないから20時には寝たからね」

「会いたいとか……思わなかった?」


 金曜日から土曜日にかけてお泊りをしてくれた。おまけに、日曜日の朝に帰ったのにまた来てくれた。でも、私は寂しくて仕方がなかった。24時間ずっといたいと思ってしまった。


「だから早くに寝たんじゃない」

「……そういうのずるいでしょ」


 自分と会いたいから早くに寝てくれるとか愛しすぎてやばい。

「あんたが聞き出したんでしょうが!」と彼女には怒られてしまったけど。


「麗、私もずっと麗といたい」

「はぁ? どうしたのよいきなり」

「離れないで。帰らないで。ここにいて」

「……純子に迷惑がかかるじゃない。それに麗子を放置はできないわよ」


 そっか、麗はちゃんと考えてくれているんだな、お母さんの負担とかを。

 だというのに私はどこまでも自分勝手、自分の理想の生活を追い求めてしまっている。


「ごめん、ワガママだった」

「大丈夫よ。住んでいる場所が違くても、あんたがあたしの彼女なんだから」

「うん、ありがと」


 でも、一緒に住めたら楽しいと思ったんだけどなあ。お金が必要じゃない世界ならいいのに。だけどそんなことは有りえないから、いまはただ彼女の彼女になれたことを嬉しく思おう。


「早いわね、もう5月になるのよね」

「うん。あのときに出会えてなかったら、ずっと私たちは関わらないまま終わっていただろうね」

「そんなことない、って即答できないのがモヤモヤするわね。けど、今みたいにクラスが一緒になっていたら変わっていたんじゃない?」

「そうかな? クラスにいる綺麗な双子、という印象から変わらなかったと思うけどね」


 自分の立場的に近づくこともできず足踏みをする。

 周りの子たちと同じような状態のまま2年生が終わり、3年生、卒業というルートから外れることはなかったような気がした。

 あのときの私が散歩をしていて本当に良かったと思う。そういう点で言えば、満くん以外に決まった子たちと関わる習性がなくて正解だった。


「1度会っただけであたしはああなったのよ? 同じクラスにいれば変わったでしょっていうか、そんなこと気にしても意味ないのよ! どんだけあたしと交わりたくないのよ」

「違うよ、なにがあるかわからないから面白いなってこと! 私は麗と友達になれて嬉しかったし、こういう関係になれて幸せなんだからさ! 麗こそ、そこを疑わないでよね」

「疑わないわよ。あたしも同じだもの」


 そこで彼女が目を閉じたので初めて自分のほうからしておいた。

 彼女の唇はほんとに柔らかくて、唇でだけではなく指でも触れたくなるくらいの魅力がある。


「そ、そういうつもりじゃなかったわよ?」

「ううん、一方的なのは嫌だから。麗がしてくれたら私も返す、こう決めて生活をしているからさ」

「ふっ、なるほどね。あんたらしいわ」

「私ですから!」


 他人に迷惑をかけない範囲でこれからも麗を求めよう。

 顔を赤くして、でもなんでもないように振る舞おうとする彼女を見つつ、私はそう思ったのだった。

一応、ここで終わりかな。

文字数稼ぎで申し訳ない。早くに気にならせたり、好きにならせたりしたらダメ。

会話、喧嘩、会話、喧嘩、のワンパターンだからなあ。


とにかく、読んでくれてありがとう。

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