22.『よーしよーし』
読む自己で。
麗が麗子に説明してくれるとのことだったので、まずは千尋に報告をすることにした私はメッセージを送った。
あのふたりのどちらかと付き合ってほしい的なことを言っていたわけだし、一応願いを叶えた形になる――のかな? ちょっと偉そうだけど。
「初音ちゃんおめでと!」
「あはは、ありがと!」
で、どうして我が家に来ているのかはわからないけど、電話か直接のほうが楽なので助かると言えば助かる。
「ね、昨日バスに早く戻ってたよね? そのときになにかあったの?」
「あ……」
「初音ちゃん、隠さないで言ってね?」
……なんでこんなことを吐かなければいけないんだ。千尋は自分で聞いておきながら顔を真っ赤にして、「か、過激だね……」と小さく呟いた。
でもあれは体調の悪さもあって寂しさが込み上げた形になるんだろうと、私はそう考えている。その証拠に、家に帰ってからは1度もされなかったわけだしね。
「麗さんがそんなこと……あ! 急に麗さんが変化したときもされたとか?」
「うん、前の土曜日にね。『我慢できなかったのよ』なんてすました顔で言ってたけど、耳が赤かったからね。面白かったよ」
色白いからこそより目立つというか、バス内でもそうだったからみんなにバレないかと心配になったものだ。私だけの前で晒してほしい、と思うのは早くも自惚れているのだろうか。
「麗子さんや梨帆ちゃんには言った?」
「麗子には言ったよ。梨帆ちゃんにはこれからかな」
「えっとね、梨帆ちゃんに連絡しておいたんだ。だからそろそろ来ると思うけど、あ、来たね! ちょっと出てくるー」
「お願いねー」
しかし、千尋が連れてきたのは梨帆ちゃんだけではなく紗子さん及び麗子もだった。
「おはようございます、初音さん」
「お、おはようございます、紗子さん」
「おめでとうございます。麗のこと、よろしくお願いしますね」
「は、はい」
「ふふふ、それでは失礼します」
って、わざわざこれを言いに来てくれたってことなのか。改めて「ありがとうございます」と言っておいた。
「はっちゃん、おめでとう!」
「ありがと! ねえ、梨帆ちゃんはどうしてこっちに戻ってきたの?」
流されて聞けてなかったことをこの際だからと聞いてみる。
「ま、簡単に言ってしまえば父の転勤が決まったからだね。わざわざ県外の高校を志望したのもそういうことだよ」
「なるほど。本当はこっちの高校が良かったってことなんだよね?」
「そりゃあね、だってはっちゃんやちーちゃんがいたんだから」
「あれ、千尋と昔から仲良かったんだ?」
「まあね。とにかく、おめでとう。僕はちーちゃんとどっか行ってくるね」
「うん、ふたりともありがとね」
ま、私としても麗子とは1対1で話したかったのでありがたい提案だ。ふたりが去ってここは静かになる。ところで麗は帰ったみたいだけど、もしかしてすれ違いになったとかだろうか。
「初音ちゃん」
「うん」
「私は……ちょっと悔しい。素直におめでとうって言えない、かも」
「うん……」
私が麗子の立場だったらなんて考えるのは失礼だけど、私が同じ立場でも似たようなことを相手に伝えたと思う。
「先にビビビッときてたのは私なのに……あのPC室の時からそうだったのに」
「麗もさ、最初は『麗子に近づくな!』みたいなことを言っていたんだよ? 私になんか興味なくて、牽制するために近づいて来ていたんだと思う。そこからも喧嘩とかになって、あんまりそれっぽいこともなかったんだけどね」
頬をバシンッと叩かれたときは本当に痛かった。涙がダバダバ出たし、声も大きく出て恥ずかしかった。しかもそれがバレンタインデーの日というんだから、微妙な話である。だって結局、お母さんからしかもらえていないわけだからね、今年も。
「惚気ないでよ」
「あ、ごめん」
「なんかむしゃくしゃしてきた」
「え、それでどうして私のほうに近づいてく、来るの?」
キスまでしたんだし後悔しているのかもしれないけど、してと頼んでしてもらったわけではないのだから、あんまり乱暴にされても困ってしまう。
「初音ちゃん」
「はい」
「ごめん、後でお姉ちゃんにも謝っておくから」
「え、あ――」
……これは該当するのではないだろうか。まだ付き合い始めてから1日も経っていないというのに、後で私もしっかり言っておかなければ拗れそうだ。
「……責任、取って」
「ど、どうすれば?」
「キスはもうできないけど、手を繋ぐとか抱きしめるとかしてほしい」
「でもさ、それって麗子が辛くなるだけなんじゃないの? それに、麗に聞いてからじゃないと答えられないよ」
「いるよ? 玄関に」
おぅ……またこのパティーン……。
「お姉ちゃん」
彼女が呼びかけると、リビングの扉を開けて碓かに麗が入ってきた。その顔は怒っているようにも、普通のようにも見えるそんな感じで。
「バカ麗子! 人の彼女を誘惑するんじゃねえわよ!」
「お姉ちゃんばっかりずるい! 双子だから仲良く分けるべきなんじゃないの? お姉ちゃんは姉らしくない」
「分けるって、……初音は物じゃないのよ?」
「そうだけど、独占はずるいでしょ?」
1回くらいは麗子にもその感情を抱いたことがある。妹だからって姉を独占してって、妹なんだから当たり前とも言えるかもしれないけれども。
「それに私からのも拒まなかったもん、受け入れたいっていう証だよ」
「やれやれ、どうしてここまで常識のない妹に育ったんだか」
「お父さんからは期待されているよ?」
「それをあたし達の前でも披露してもらいたいものね」
やはりお父さんが厳しい人だったか。いや、最初こそ紗子さんが厳しいかなと思っていたのだが、物腰が柔らかいし、なにより迷子になるような人が厳しいわけないのだ。
もしかしたら堅苦しい人なのかもしれない。とはいえ、それで迷子になるようだったら逆に可愛くないだろうか? ギャップがあるというか、そんな感じで。
「初音、ホイホイ受け入れていたら許さないわよ?」
「わ、私から求めたわけじゃないよ」
「だったらすぐに拒みなさいよ」
そう言われても突撃気味にされたら私の反射神経じゃ避けるのは無理だ。ましてや、頭を掴まれてされたら抵抗する間もなくされてしまうだけ。
「はぁ、これはもう24時間一緒にいないと浮気されそうね」
「それじゃあ一緒に住む? 私は大歓迎だけど」
「んー、けど麗子をひとり残すというのも心配なのよね」
わかる、わかるよ麗! いまだってこちらを複雑そうな顔で見ている彼女を放っておけないもん。……それに手を繋ぐとか抱きしめる程度だったら減るものじゃないわけだし? そこはまあ麗と話し合いつつでなければならないけれどもね。だけど、せっかく私のことを気にしてくれたわけなんだし、私もなにかしてあげたいという気持ちがあった。
「お姉ちゃん、手を繋ぐぐらいだったらいい?」
「……突っぱねてキスされるくらいだったら、手を繋ぐ程度で満足してもらった方が精神的に楽よね」
「あと、抱きしめたい」
「初音が抱きしめるのではないなら別にいいわよ」
「奪いたい」
「それはダメに決まっているじゃない!」
姉力か余裕か、どちらにしても麗子には厳しくできないんだなと笑う。麗子もまた信用して甘える妹という感じで、微笑ましかった。
「もうGWよね、あんたなにか予定あるの?」
「うーん、家でゆっくりダラダラ過ごすかな~」
「そんなんでいいのって言おうとしたけどあたしも同じね。でも、今年はここでゆっくりしようかしら」
「うん、そのほうが嬉しいから来てね」
「「麗子は?」」
「行く!」
めっちゃくちゃいい笑顔だ。たかだかお休みの日に、我が家に来るというだけでここまでテンション高くなってくれるのは嬉しい。が、麗子といると麗に怒られる頻度が上がりそうで少しだけ怖かった。
とはいえ、まだ2日間は学校はあるので、いまから恐れていても仕方がない。ましてや今日は日曜日、心もゆったりとさせておけばいいだろう。
「ちょっとおトイレ行ってくる!」
「行ってらー」
これはこういう形で気を使ってくれているのかもしれない。前は気づけなかったけど、いまだって出ていく前にウインクしてたし。
麗子の代わりに麗が横に座って、いつもどおり体重を預けてきて。そこからも同じで、彼女の頭を撫でるだけ。
「これだけ長いと洗うの大変じゃない?」
「そうね。けど、麗子がしてくれるから」
「む、一緒に入っているんだ?」
「あんたが嫉妬できる立場ではないでしょ、他の子とキスするような最低な人間なんだから」
「不可抗――……素直にしたいって言えばいいのに」
「自惚れね、いつからこうなってしまったんだか」
変わったのはふたり――そして主に彼女のせいなんだけど。他人事みたいに言われるとおかしすぎて笑いそうになるからやめてほしい。
「麗子っていい子よね、しっかり空気が分かってるっていうか」
「うん、確かにね」
「あたしも、そんな人間になりたいわ」
「え? 麗は十分優しいし、空気読めてるって思うけどな」
「……だって嫉妬するじゃない。それに……初音を独り占めしたいのよ」
「あはは、同じこと考えてるの嬉しいな」
って、この言い方だと少し語弊があるかもしれない。そのため「私も麗を独り占めしたい」と付け足しておいた。
「そうだ、私はあなたが初めての彼女だけど、麗はどうなの?」
「1度も付き合ったことはないわよ? ただ、告白は何度もされてきたわね、男子からも女子からも。興味がないのに告白されるのはそれはもう酷というものよ」
「断るのも大変だしね。相手の悲しそうな顔を見たら、引っ張られそうだし」
「あたしにそういう感情はなかったけどね。好きじゃないから振る、ただそれだけだったわ。でも、それが凄く面倒くさくて、紙に書いて机の中に突っ込んたこともあったわね」
「も、もうちょっと考えてあげないと」
相手が同性だろうが異性だろうが、告白するというのは勇気のいる行為。
だというのにその相手の子から冷たく適当に対応されたら、最悪の場合はトラウマになるかもしれない。頑張れば頑張ったほど、悪影響は大きいだろうから。
「過去のことはどうでもいいじゃない。それに今のあたしは、あんたが好きなんだから構わないでしょう?」
「こ、怖いなあ。もし麗が私のことを好きじゃなかったら、紙で告げられていたと考えたらね」
「だから、んなこと考えなくていいのよ」
「そっか、そうだよね! いまの私の彼女は麗なんだから」
「そうよ。というわけであたしをとことん甘やかしなさい」
こういうところはギャップがあって可愛い。
「よーしよーし」
「子ども扱いされているのがむかつくけど、まあ我慢しておくわ」
次の作品では主人公を複数好かせない……。




