24.『そういうもの』
読む自己で。
「梨帆ちゃん、私と付き合ってください!」
私は精一杯、一生懸命に彼女へと気持ちをぶつけた。
初音ちゃんは頑張ってくれた。私が頼んだ依頼を完了させてくれた。
だったら自分も頑張るべきだろうと判断しての告白だった。
頭を上げると、驚いた感じの彼女の顔が見える。
が、すぐに「ありがとう」と口にし表情を改めた。
「ごめん」
「……だよね、言ってくれてありがと!」
そりゃそうだ。
だって告白した理由は、私にも優しくしてくれるから、だ。
なので届くわけもないし、元から受け入れられることはないとわかっていた。
どうやら他の子にも告白される予定らしいので、私はひとりで校舎から出る。
「初音ちゃんはうまくいったのになあ」
あんな綺麗な子たちふたりから好かれて、そして実際に片方の子――姉を自分の彼女さんにしてみせた。
スゴイ、ヤバイ、リア充爆発しろー! ……なんて言うつもりもないけど複雑なのは否めない。
「おーい、赤崎ー!」
「あ、ストーカー男さん」
まだ残っていたんだ。教室からは早々にいなくなったから帰ったのかと思っていたけど。彼は「って、藤島だな? あのやろうっ」と叫び、不名誉なあだ名をつけた藤島さんに怒っているようだった。
「冗談だよ。それでどうしたの?」
「ああ、お前に用があるんだ」
「でしょうね」
自分の立ち位置くらいわかっている。初音ちゃんや藤島姉妹、梨帆ちゃんと違って周りに人はいないから。
「言っていいか?」
「どうぞ」
「本当にいいのか?」
「ど、どうぞ?」
「ふぅ。俺さ、お前が好きだ」
言われた瞬間、かばんを落としてしまった。
は、いや、え、と困惑するしかできない。
――違う。初音ちゃんから聞いていたけど、平田くんは女の子をどんどん好きになるらしいし本気ではないだろう。先程の私みたいなものだ。
そう考えたらすぐに冷静になった。誰に対しても落ち着きなく接するというわけではない。自分がこうと決めたら、とことん冷徹になれる。
「ごめんなさい。平田くんのことをよく知らないし、知れば知るほど好きになれないと思うから。簡単に言っちゃうと、女の子をどんどん好きになるような人は信用できないってことだよ」
ましてやいまは失恋中だ。ここで受け入れたらどんだけ最低やろうかって話だろう。
「驚いた、赤崎がそこまではっきり言えるやつだったとはな」
「私だって言うときは言うよ」
「そっか。ま、答えてくれてありがとな! じゃあな!」
「うん、じゃあね」
彼が去ってからぺたりと地面に座る。
「すごいなあ平田くんは」
振られてもあれだけ明るく振る舞えるんだから。
私ではとてもじゃないけど真似できなさそうだ。
「千尋さん?」
「え、麗子さん 麗さんと初音ちゃんは?」
「ちょっと用があるらしくて今日はひとりなの。一緒に帰りましょう」
「うん、帰る!」
「ごめんよ、ちーちゃん」
僕は2階の空き教室からふたりを見ていた。
ひーくんからちーちゃんに告白するって聞いていたし、僕には好きな人がいたから断るしかできなかった。
同情で付き合ってはほしくないだろう。僕だってそんなので付き合いたくなんかないし。
「転勤なんてなければ……」
たらればなのは分かっている。けど、今回ばかりは少し憎く感じた。
あれがなければ、と考えてしまうのは実に人間らしいと言えるだろう。
「はっちゃん……」
知り合ってからはいつも一緒にいたから、それが当たり前という認識になってしまっていたんだろう。
父から転勤で引っ越さなければならないと聞いた時は、それはもう落ち着きなく彼女の家へ駆け込んだりもした。勿論、事情は一切話さず、ただ会いたかったからとだけ口にして。
スマホを持っていたのにわざわざお手紙でやり取りをしようと決めた。そして実際に向こうに行ってからも続けていたわけだったのだが……。
やり取りを重ねる度に会いたくなって仕方がなかった。それでも9月頃まで続けて、けど限界がきて10月に恋人ができたと嘘をついて手紙のやり取りを一方的に終わらせた。
「なにやってんのよあんた」
「あ、れーちゃん……」
彼女が側にいるとあまり穏やかな気持ちではいられない。
憎んでいるわけじゃないが、ずるいと感じてしまうのは避けられなかった。
「あんた、本当は初音のことが好きだったんでしょ?」
「なっ、……よく分からないことを言うね」
「ここにはあたしとあんたしかいないわよ」
「は、はっちゃんは?」
いつもは一緒いるのに別行動なんて珍しい。
おまけに、はっちゃんが誤解したら嫌だったからその姿を探した。
「麗子と先に帰らせたわ」
が、結果はこんなのである。
常に僕の何手か先を進んでいるわけか。
「……まあ、大切だったしね」
「譲る気はないけど、抱きしめるくらいならしてもいいわよ?」
「そ、そんなことをしてたら……捨てられないじゃないか」
「いいじゃない捨てなくても」
……自分がはっちゃんに選ばれたから余裕ということだろうか。僕なんて相手にもならないからアピールされても痛くないと、そういうことだろうか。
「できるわけがないよ、はっちゃんが好きなのはれーちゃんなんだから」
「あっそ。ま、あんたが納得できるならそれでもいいわ」
「あっそって……れーちゃんがいなければ!」
「あたしがいなければ選ばれてた?」
「……いや、そんなことはないと思う」
関わり続けていられたなら、なんて想像すら無駄だ。
僕は離れて、身勝手に手紙のやり取りまでやめてしまった。
その時点でこちらから切ってしまったようなものだ。そうでなくても細かった糸をね。
「一生関わんない人間もいるし、興味を持った時には誰かに奪われている――それって怖いわよね。なにもせずに負けなんて嫌よね」
「はっちゃんの隣にいる権利を手に入れた君に言われると複雑だよ」
「付き合い始めたらゴール、というわけではないのよ? 今の状態でもあんたはライバルらし、他の人間だって同じことよ。勿論、負けたくはないし負けるつもりもないけど、全力で振り向かせようと頑張ったらいいんじゃないの? 恋人として言うべきではない言葉かもしれないけど」
「酷なことをするなあ」
なんとも甘い話だろうか。まさかのまさか、彼女の恋人からこんなことを言われるなんて思いもしなかった。
「そういうものでしょ?」
「……でも、この気持ちを簡単に捨てられないし、諦めるのは一生懸命になってからでもいいよね」
「そうね。梨帆、あたしはあんたも潰していつまでも初音の横にいる権利を勝ち取るわ」
「じゃあ言わなければいいのに」
「苦労して手に入るからこそ魅力的なんじゃない」
ああ、凄いな彼女は。
格好いいな、藤島麗という女の子は。
僕も、少しくらいは似たような存在でありたいな。
初音ちゃんがほしいな、諦めたくないな。
頑張って、みようかな。
遅いかもしれないけど、届かない可能性がほぼ100パーセントだけど。
迷惑にならない範囲で、そしてちょっと自分勝手になって。
「決めた?」
「うん、ありがとう」
「はははっ、いい顔になったじゃない」
どういう顔をしているんだろうか。
でもどうでもいい。
遅いアタックを初音ちゃんに向けてするだけだ。
麗がしているのは残酷な行為だけど、どうせならやりきった後に諦められた方がいいかなと。
振り向く可能性が0というわけではないし。ま、創作だからうまくいっているけど、現実だったら……だ。




