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20.『何度も何度も』(麗

読む自己で。

 校外学習の日がやってきた。

 現在はサイクルセンターへ移動しているバスの中、ということになる。


「麗、喉乾いてない?」

「大丈夫よ」


 問題なのは、どうにもテンションが上がらないこと。サイクルセンターの人には申し訳ないが、自転車で走ってどうするのよって話。

 そりゃ、スポーツタイプの自転車に乗る機会ってのは全然ないから新鮮なのかもしれない。でも、そこまで楽しみじゃないし、なにより坂を登りたいなんて思ってもいない。

 おまけに微妙に体調が悪い。ついでに言えば天気も悪い。こんな状況で明るい状態の彼女に付いていけるだろうか。変な遠慮をしたらまた口喧嘩になって距離を作られないだろうか。……不安だからバス内でなるべくスタミナ回復をしておくか。


「初音、ちょっと寝るわね」

「あ、うん、じゃあ静かにしてるね」

「ありがと」


 ――って、思っていたのに。

 初音は静かにしていてくれていたけど周りが賑やかなのもあって、全く寝られなかった。だからって責められるわけではないから、気持ちがなんとも曖昧なものになる。休めなかったという事実が、体調をより悪化させた。

 チケットが配られセンターへと入場。後は自由なのが、まだ幸いと言えるだろうか。


「麗、寝られた?」

「大丈夫よ。それより自転車に乗るんでしょう?」

「うん、行こ?」

「手、繋ぎましょう」

「あはは、甘えん坊なんだから。いいよ、ぎゅ、っとね」


 甘えん坊というより、自分だけだと行かないでベンチで休みそうだったからだ。

 というか麗子、梨帆、千尋はどこに行ったんだろうと見回したら、向こうはよくわからないおまけ程度のアトラクションの待機列に並んでいた。どうでもいいか。

 で、色々と説明を聞いたり高さを調節したりして、あたし達は自転車を持ってコースまでやって来た。


「えと、時間制限とかないのよね?」

「うん、ゆっくりで大丈夫だよ。ちゃんとヘルメットをかぶったら、これで準備完了! よいっしょ! ま、サドルは1番低くしてあるしいまさら乗れないようなこと――待って、ハンドルが低いよぉ!」

「危ねえわよ、こっちちらちら見てないで集中しなさい」

「う、うんっ、あ、でも、ママチャリ乗るよりも楽しいかも!」


 単純でいいわね初音は。

 乗ってみると碓かにハンドルの位置が低いが、怖いということは一切なかった。

 後ろで走らせると気づいたらいなくなってそうなので、初音に先を走らせ追っていく形に。

 上りがあると言っても緩やかで、しかも勝負をしているわけではない。特に問題なく彼女の後ろを走って――いたのだが。


「はぁ……なにをやっているのかしら」


 頭痛とかダルさを抱えながら自転車に走らせる、上るというのは苦行だ。

 あのあまり運動能力が高くない初音にさえおいていかれ、気づけばあたしは自転車から降りてゆっくりと歩いていた。

 そして歩くとなると自転車の存在が途端に邪魔になる。もう放置して適当に歩きたかった。


「麗ちゃーん!」

「……あんた、わざわざ戻ってきてくれたの?」

「ご、ごめんね? 楽しすぎて全然後ろ見てなかったからさ! 気づいたらいなくて慌てて戻ってきたよ」

「別にいいのに……」


 少し心細さがなくなったけど、初音が楽しんでいるのを邪魔だけはしたくなかったんだけど、と内心で溜め息をつく。


「ちょっと自転車さんごめんね」


 どうしてわざわざ自転車を置いてこっちに来るんだろうか。


「ねえ麗ちゃん。お熱、出てるんでしょ」

「はぁ? そんなわけないじゃない」

「だから喉乾いてないかって聞いたんだもん。でも結局、寝ることもできなかったようだからさ」


 なんでこいつこういう時ばかり鋭いんだか。もっと違う場面でこの鋭さを発揮してもらいたいものだ。


「この場所はちょうど中間地点だよ? だから早く戻ろ? 雨も――あ……」

「最悪……」


 とはいえ、このままここに突っ立っていてもびしょ濡れになるだけ。少しずつでも歩いていくしかないか。


「自転車さんは私がふたつ押すからさ、麗ちゃんは歩くだけでいいよ」

「……頼むわ」


 最高に冷たい雨が染みる。冬じゃなくて春で本当に良かった。

 ただ、あたしのせいで濡れることになった初音に申し訳ない。あたしが乗れていれば全然問題なくスタート地点まで戻ってこれていたはずなんだ。


「……うぅっ」


 雨と音によってバレることがないのが救いなのかもしれない。体調が悪い時ってどうしてこう涙脆くなるのだろうか。


「戻ってこれて自転車も返したけど、びしょ濡れだね」

「……ごめん初音! あたしのせいでっ……」


 目的がなくなったら尚更、それが酷くなった。

 建物の屋根の下で自分より小さな体を抱きしめて、何度も「ごめん」と謝って。


「大丈夫だよ、元から天気が悪かったんだから」

「けど、さ……初音が濡れることはなかったかもしれないのに」

「えへへっ、麗ちゃんとお揃いー」

「バカ……風邪を引いても知らないわよ」

「もう初夏だけどちょっと寒いね、でも大丈夫だよ」


 暖かいと感じてしまっているあたしはクズだろうか? この子を抱きしめる口実ができたと喜んでしまう自分がアホらしくて仕方ない。


「麗ちゃん、もうバス戻ろ?」

「え、一応他にもまだあるわよ?」

「これ以上麗ちゃんに無理させたくない。まだ集合時間まで全然あるけどバスに直接戻る形になっているし、運転手さんに頼めば大丈夫だよ」


 正直、ありがたかった。

 入り口近くにいた教師に事情を説明し、運転手にも事情を説明し、あたし達はかなり早くにバス内へと入らせてもらった。中は暖かいようだ。

 濡れたまま座るのは申し訳なかったけど、許可されているので座らせてもらう。


「はぁ……疲れたわ」

「お疲れさま。ごめんね、無理やり付き合わせて」

「謝るんじゃねえわよ、あたしが悪いんだから」

「ううん、わかっていたのに走らせた私が悪だから……」


 こちらのことを考えてくれるのは嬉しい。が、マイナスな考えをされるのは嫌なんだ。どうしてもっと、寧ろこちらを責めるような言い方をしないんだろう。


「そういえばハンドタオル持ってきているんだ、髪の毛とか顔とか拭いてあげる」


 なんで自分のより先にあたしのを拭くんだか。

 とにかく髪を拭いてくれて、顔も上から順番に拭いてくれる。


「濡れているところはありませんか、お姫様」

「貸しなさい、あんたのも拭いてあげるわ」


 あたしは初音の頭にタオルをかけて、そのまま拭くのではなく――をした。

 まだ戻ってきている人間はあたし達だけだ。彼女を窓際に座らせているし、左横のバスに誰かが戻ってきているとしても、自分が壁になっているため見えないはずだ。


「……はぁ、もうバカ」


 どうしてあたし、こんなにドキドキしているんだろう。

 体調の悪さとかどうでも良くなった。体の熱さはどんどんと増していくけれど、止められなくて何度も小さく柔らかな唇を求めていく。

 あたしが止まったのは恐らく10分くらい経った頃、バス内にドタドタという音が響いてからだ。その流れで段々と他のクラスメイトも戻ってき始めたため、流石にできなくなった。

 初音にはそのままタオルをかぶせておく。だって横を通る人間に蕩けた顔を見せるわけにはいかないから。例えそれが麗子や梨帆、千尋だったとしても同じこと。


「麗、先に戻っていたのね」

「まあね」

「初音さんは……どうしたの?」

「ちょっと自転車ではしゃぎすぎたみたいで、休憩中なのよ」


 自転車を押してくれたのもあるし嘘は言っていない。


「容易に想像できるわ。あ、学校に着いたらファミレスにでも行きましょう、そういう話をしていたのよ」

「分かったわ」


 梨帆や千尋とも数言会話をして、なんとかバレずに乗り越えた。


「……麗ちゃん」

「……うん」

「……何回もやりすぎだよ……」

「だってあんたが……いや、ごめん」


 覗き込むと、彼女の方が風邪なんじゃないかってくらい顔が赤くて。

 心配するフリをしてもう1度、口づけをしておいた。周りに人がいる状況でするというのがヤバかった。


「……今日はもうやめて……」

「……うん」

「これ以上されたら……立てなくなっちゃうよ」

「そうしたらお姫様抱っこで運んであげるわよ、お姫様」

「もう……」


 なーにをやっているんだあたしは。体調の悪さが上限に達してイカれたしまったのかもしれない。

 嫌われなきゃいいけどなと考えつつ、学校に着くまで静かに座って待ったのだった。




 賑やかな店内。

 BGMは控えめではあるが、他の人間の喋り声が頭に響く。

 ただ、変にバレると面倒くさいので、適当にドリンクバーを注文し無難にやり過ごすことに集中する。

 ちなみに、あたしが頼むまでもなく初音が横に座ってくれたので地味に嬉しかったりするのだが、彼女がずっと手を握ってくるため色々な意味で落ち着かない時間となっていた。机の下でしているからバレないわよね? このことに関してはバレても問題ないのが問題ではあるけれども。


「麗子、あんたも自転車に乗った?」

「いえ、それが乗ろうとする前に雨が降ってきたものだから」

「そう、それは残念だったわね」


 3人と一緒にいたらあの流れにもなっていなかったわけだし、あたしはちっとも残念だなんて思わなかった。


「初音ちん、なんかやけに静かじゃない?」

「そうだね、はっちゃんらしくないね。さっきからずっと、れーちゃんの手を握っているようだし」

「麗と初音さんは雨に濡れたみたいだし寒いのではないかしら?」

「なるほどね」「あ、なるほどー」


 ば、バレバレじゃない……。それでもなるほどで済んでしまうのが嬉しいような寂しいようなである。


「っくちゅ!」

「麗、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。ただ……ちょっとあたしも寒いし、初音と帰るわね」

「そうね、風邪を引いても困るわけだし。気をつけるのよ?」

「うん、あんたらもじゃあね」

「ばいばい、れーちゃん」

「じゃあね、麗さん!」


 お世話になったので彼女の分のお金を置いて店から出る。


「雨よね……」

「麗ちゃん、私の家のほうが近いよ?」

「……それなら初音の家に行くわよ」

「うん」


 ここで誘ってくるってどういうことだ? 普通、あんなことがあった後で誘うものだろうか。これではまるで――期待しているかのよう。

 だって初音がバス内で言っていたんだ。「今日はお母さんはお友達の家にお泊りに行っているから」と。だから、あの家にはあたしと初音のふたりきりということになる。


「麗ちゃん?」

「な、なんでもないわ。それより今日、泊まってもいい?」

「お風呂に入ってもらうつもりだし、元からそのつもりだったけど」


 なによこいつ……どうしたらいいのあたしは。

 自分なりに考えてみたものの、家に着くまで結局なにも出てきやしなかった。

女の子同士の恋愛がピュアに思うのは、二次元でしか見ていないからか。

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