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19.『聞きたくない』

読む自己で。

 4月が終わってしまう。

 早い、早すぎる。1日が24時間ではなく36時間くらいあってくれればいいのにと願ったのは、初めてのことだった。

 明後日には校外学習えんそくがあるとはいえ、こんな調子で日々過ごしていたらあっという間に卒業のときを迎えそうだ。


「あたし、麗子、千尋、梨帆、初音――この5人でいいわよね?」

「そうね。他の子と組むのも楽しいだろうけれど、どうせなら親しい子と一緒に過ごしたいわ。特に初音さんは絶対条件ね」

「ははっ、はっちゃんはモテモテだね」

「あなただって初音さんがいてくれた方がいいでしょう?」

「うん、そうだね。でも僕は正直、誰でもいいかな」

「なら梨帆は外すわ」

「嘘じゃないけど、それは酷いと思うなあ……」


 麗は「冗談よ」と言って笑う。麗子も穏やかな笑みを浮かべていた。千尋は……教室ではテンション低いしあまり輪に加わってこないので、いまは突っ伏しているという形になる。

 というかすでに放課後に突入しているんだし帰ればいいんだけど、意外と盛り上がってまだ残っている形となっている。


「さて、僕はちーちゃんと帰るよ、みんな気をつけてね」

「あんたも気をつけなさいよ」

「うん、ありがと」


 不思議な話、教室から出ると千尋のテンションは回復するんだよなあ。それに麗や麗子と対するときも普通になったので、そこも嬉しいと思――ん? なぜ嬉しいのだろうか? あのふたりが怖くないよとわかってくれて嬉しい? ……わからないからそういうことにしておこう。


「お姉ちゃん、今日は私の日だからね?」

「はあ? ……って、昨日はあたしが初音と帰ったのか」

「うん、ずるはダメだから」


 そう、私が真剣にふたりに向き合うと言った結果、どうしてか3人で帰ることができなくなってしまったのだ。こういうところは悪い変化としか言いようがない。

べつにふたりで帰ったところでなにが変わるというわけでもないのに。私だったらむしろ、自分がいない間に決められたら嫌だから付きまとうけどね。


「仲良く3人で帰ろうよ」

「あんたが言うなら」「あなたが言うなら」


 こういうときは美味しいものを食べるに限る。それもふたりで分けられるようなものを。

 ――というわけでコンビニにやって来た私は、ふたりのためにモナカを買った。厳密に言えば分けられるものではないけど、そこはもう半分に割ればいい。


「はいっ、仲良く食べてね!」

「でもあんたは?」

「私は、ふたりが仲良く食べているところを見られればそれでいいよ」

「それなら……、ありがと」


 はい、嘘をつきました! モナカを買ったらね、お金がなかったんだ。

 とにかく、銀金姉妹はゆっくりと食べ始めてくれた。じっと見ていたら食べづらいだろうから私は春の空を見上げる。

 冬と違って夕方なのに暗いということもなく、むしろ気分が上がるくらい素晴らしい青色の空だ。もし私が空を飛べたら、それはもう夜を超えて朝になっても体力が尽きない限り飛んでいたことだろう。で、調子に乗った私が困惑するふたりの手を取って無理やり空中へ誘う――現実にならないかな? はは、なるわけないか。


「ふぅ、アイスはいつ食べても美味しいわね」

「うん、美味しい――お姉ちゃん口の横にアイスついてるよ?」

「あ、本当ね、ちょっと恥ずかしいわ……」


 それでも姉妹と関わり続けるということはできている。これは過去の私を鑑みればすごいことだ。基本的に2ヶ月から3ヶ月しか関わりが続かない子たちばかりを相手にしていたわけだしね。


「初音、ありがとね」

「初音ちゃん、ありがと」


 あの子たちとの違いはなんだろうか? 優しいという点に関してはあの子たちも同じだったけど……。あ、髪色が銀と金、瞳の色が赤と青だから? そんなわけがないか。


「はぁ、初音!」

「ひゃびっ!? そ、そんな大声出さなくてもいるよ?」


 たしかに考えごとをしていたとはいえ、耳元で叫ばれたら困ってしまう。肩を揺するとか、優しく手を掴むとか、気づけせる方法はたくさんあると思うんだけど。


「無視をするんじゃねえわよ!」

「む、無視?」

「はぁ、こいつぶん殴りたいわ。あたしがせっかく……、大人しくお礼を言ったのに」

「べつにお礼を言われるようなことはしてないよ~」


 ふたりが仲良くしていれば目の保養になる。おまけに、麗子が完全完璧妹モードなのも大きかった。あれから頻繁に見せてくれるようになったし、それだけで信用してくれていると気付けるからだ。


「初音ちゃん、お家に行ってもいい?」

「いいよ~」

「ならあたしも――」

「お姉ちゃんはダメ!」

「なんでよ!」


 ああもう自惚れでもなんでもなく私といるとふたりが言い争いになるだけだ。どうすればいいのか――なんて考えるまでもなく答えは出てるよね。つまり、私が決めればふたりが争う必要もなくなるわけだ。

 とはいえなあ、このふたりはどちらも魅力的だし、どちらかを選ぶなんてすぐにはできそうにない。

 麗子はともかく麗は興味ないとか言っていたんだけどな。ただ千尋曰く、それも私のせいらしいし、となると我慢を強いさせてしまっていたわけで……。

 

「ふたりで来てよ、喧嘩するなら来ちゃダメー」

「ほ、ほらっ、初音もこう言っているじゃない!」

「むぅっ、初音ちゃんはお姉ちゃんに甘い!」


 あはは……これは手厳しい。でも仕方ないんだ、我慢してもらうしかない。

 食べ終わったので歩きだし、家に着いたらいつもどおりのおもてなし。とはいえ普通に飲み物を渡してお喋りをするだけ。


「遠足と言ってもサイクルセンターなんてね」

「え、私はちょっとロードバイクに乗ってみたいけどね」

「自転車ねえ、……つまらなくはないんでしょうけど」

「1周5キロで結構上りがキツいって調べたら書いてあったよ、お姉ちゃんなら大丈夫だろうけど」

「うへぇ……好きな人だけ走るとかじゃダメなのかしら?」

「大丈夫だよ! あれは任意らしいし! でも、言っちゃえばそれくらいしかやることないんだよね。だから当日は5周くらいしちゃおうよ!」


 私の発言に「い、嫌よぉ……」と麗が反応する。べつに勝ち負けではないし楽しめればそれでいいけど、梨帆ちゃんと千尋には負けたくない。たかが5キロを遊び感覚で走るとはいえ、私にプライドがあるのだ。


「ちょっとナルシスト気味になっちゃうけど私に勝ったら」

「「私に勝ったら?」」

「抱きしめさせてあげよう!」

「「いい、それだったらここで抱きしめる」」

「ぐぅぇっ、つぶれるぅ」


 ……本当は「キスしてあげる」なんて言おうとしたんだけど、さすがに言えなくて踏みとどまった結果がこれだ。抱きしめられて嬉しい! と喜べればどんなに楽かという話。


「初音って食べたくなるわ」

「へっ? 美味しいにおいでもしてるの?」

「……なんというか、なんでかしらね」


 相手が綺麗な女の子とはいえ、食べられたい願望はない。

 というか、なんか食べるってイヤらしい感じに聞こえるのは、脳内がピンク色だからだろうか。


「初音ちゃん、ちょっとおトイレ借りてもいい?」

「うん、どうぞー」


 ああ、私のハーレムよ……。


「やっとふたりきりになれたわね」

「べつにいつも一緒にいるでしょ、大人げないよ」

「あの子にも優しくするからじゃない。あんたが悪いのよ、あんたはあたしだけを見なさいよ」

「す、すごい発言してるってわかってるの?」


 興味ないと口にして私を無自覚に傷つけていた彼女はどこにいったんだ。そりゃまあこう言ってくれて嬉しいけど、変わりすぎてて少し怖い。


「麗、興味ないんじゃなかったの?」

「麗子だけには負けたくないのよ」

「なんだ……麗子に勝ちたいだけなんだ」


 うーん、残念だ……。


「……なによ、あたしに好きになってほしいの?」

「麗子に勝つためだけに抱きしめられるとかされてたら複雑だし、勘違いしちゃうよ」

「勘違いねえ」


 いまこそ戻ってきておくれ、麗子よ。……でも全然戻ってこない。


「あんた、あたしが好いてると思ってる?」

「……いじわる」

「……はぁ、正直に言っておくけど――」

「いい! 聞きたくない!」


 向き合うと言っても怖いものは怖い。離れられるくらいだったら言われないでそのままのほうがいい。そうしたらそういうことだって勝手にこっちで納得できるから。何回も希望を絶たれるのは嫌なんだ。


「叫んでたけど、どうしたの初音ちゃん」

「あ、麗子……ううん! なんでもないよ! ちょっと麗が怖い話をしてきて恐ろしくて聞きたくないって叫んだんだ。そうしないとやめてくれないから、さ」

「そうそう、お姉ちゃんっていつもそうだから」

「こ、困るよね! いやほんとに……」


 消去法で麗子を選ぶなんてことはしたくない。麗がハッキリ言ってきたら麗子へも意識を向けるのはやめる。そこで麗子がどう反応するかはわからないけど、彼女のためを考えたらそれが1番いい。

 この機会を逃したら可能性はもう全くと言っていいほどないだろう。が、だからって他人に迷惑をかけてまで付き合いたいとは考えてはいないのだ。


「まあいいわ初音、あんたが聞きたくないと言うなら黙っておいてあげる」

「麗……」

「はぁ、今日のところはもうこの話は終わりよ」

「うん……」


 いいのか悪いのかわからない。ついでに言えば麗の気持ちもわからない。

 本当に麗子に勝ちたいという気持ちだけでキスなんかするかな? それとも、外国人レベルでキスとは普通にするものなの? あ、このふたりに限って言えばそうなのかも。じゃあ、あれはなんてことはない行為、か。


「帰るわ」

「……気をつけて」


 うーん、微妙に悲しい。べつに今回は喧嘩になったとかではないけれど、複雑なのは否めない。


「初音さん、なんの話をしていたの?」

「私を好きかどうかって話をしてたんだけど、いやもう怖くて聞けなかったの」

「なるほど、あなたは麗が好きなの?」

「そういうことじゃないけど、自分に興味がないって言われたら今度こそダメになっちゃうから」

「姉も素直じゃないわよね。でも、あまりマイナス思考をしない方がいいわよ。私も帰るわ、今日もありがとう」

「うん、こっちこそ! いつもありがとね!」


 麗子は優しいな。麗も要所では優しいけど、基本的に近いようで遠いような対応をされるからなあ。


「ま、今度の遠足で体を動かせばモヤモヤも消えるよね」


 運動不足だったしそろそろ動かないといけないしね。

 で、試しに腕立て伏せをしてみたけど、たった3回しただけで体力が尽きましたとさ。

これもう麗って決まったようなもんだよなあ。

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