17.『銀色のおヒゲ』
読む自己で。
うん、寝れないゾッ!
私は飛び起き――ゆっくり体を起こして、ベッドから下りた。
まるで男の子になったみたいにドキドキしてしょうがなかった。こんな状況で寝られるわけがない。だから、私は王女様たちから逃げることにしたというわけ。
部屋にいてもつまらないので1階に向かう。
リビングの電気を点けてソファに座って、テレビを点けてつまらなくて消して。
退屈と戦っていると階段を下りてくる音が聞こえてきた。母だろうか? そうこう考えている内に足音の主がここに現れる。
「あはは、どうしたの? トイレなら廊下だよー」
「横、いい?」
「うん、それはいいけど」
彼女は横に座ってなにも言わなくなった。私は彼女の髪の毛を腕に巻いて遊ぶ。いいにおいがしてもっと近くでかぎたくなるくらいだった。
「初音」
「ごめん。もうやめ――んっ…………え?」
「……ごめん、我慢できなくなったのよ」
なんで、なんで……私に興味ないって何度も言っていたのに。あれから喧嘩とか普通に会話していただけなのに、彼女はどうしてこんなこと。
「え、ちょ……どうして……」
「だから我慢できなくなったって言ってるでしょ」
「……まあいいけどさ、麗が後悔しないなら」
「どうかしらね」
言葉とは裏腹に彼女の顔はとてもスッキリしたものだった。そのおかげで私もあんまりモヤモヤを抱え込まずに割り切ることができて安心した。
「柔らかかったわ」
「や、やめてよー」
「はつねぇ……」
「え、ちょっ、顔が蕩けてるよ?」
「あんたとしたい」
「だ、ダメだって! お母さんや麗子が来たらどうするのっ?」
「……別にいいじゃないそんなこと、死ぬわけじゃないんだから」
何回もすることじゃないし、せっかく割り切ることができたのに意味がなくなってしまうじゃないか。なにより完全にふたりきりというわけではないのだ、屋根の下に他の人がいる以上、駄目に決まってる。
「あの子は1度寝たらあまり起きない子よ、だからいいでしょう?」
「だからって……」
「そうだよ、そんなことしちゃダメだよお姉ちゃん」
「れ、麗子……なんであんた……」
しかも麗はただ「したい」と言っただけなのに、「そんなことしちゃダメ」なんて――これはもう盗み聞きどころか盗み見をしていたということだ。
リビングの扉は麗が来てから開いたままだった。その裏――階段の1番下の段に座っていれば会話の内容及び見ることだって容易である。
現在の時刻は2時になろうというところだ。もし私がされる前にチェックをしていたら、それはもう恐ろしい光景のように感じたかもしれない。
「お姉ちゃん、めっ!」
「「か、可愛い……」」
「そういうことを言ってもらいたいわけじゃないの! ああもう……初音ちゃんの初めてを奪っちゃって……」
「も、もしかしたら過去に梨帆とかとしているかもしれないじゃない!」
「そんなわけないよ! 初音ちゃんができるわけないでしょ!」
「ぐはっ!?」
吐き気が込み上げてきたと言っていた彼女の気持ちがわかった気がした。どうしようもなくなるとこうなるんだ。また私は新しく学んだ、嬉しくないけど。
「こら、初音を馬鹿にするんじゃないわよ」
「……ごめんなさい」
「ふぁ……眠いわ、寝てくるわね」
「おやすみー」「おやすみなさい」
私は寝られる気がしないので適当にリビングにて時間つぶし。
とはいえ、なにができるというわけではない。番組だってつまらないし、この時間にまさか食べ物なんて食べるわけにもいかないし。
「初音さん」
「ん?」
麗子の髪の毛で遊んでいたのが悪かったのだろうか? 私は大人しく髪から手を離して彼女のほうを見る。
うん? やけに真剣な顔をしているけれど、なんかこのパターンは見覚えがあるぞ?
「少し寒いから手を繋ぎましょう」
「あ――うん、いいよ? はい、ぎゅー」
「ふふ、少し力が強いわね」
まあそりゃそうだ、麗子まで求めてくるわけがないじゃないか。大体、麗だってよくわからない雰囲気に流されてしてしまっただけだ。
「いいわよ、好きにしてて」
「あはは、じゃあ髪の毛で遊ぶー。えと……見て見て? 金色のおヒゲー」
「あははっ、面白いわ!」
「麗子、普通の状態に戻って?」
普段のこのしっかりしている感じも好きだけど、やっぱり素の彼女のほうが好きだと言える。偽っていないということだし、無理もさせていないから。
「いえ、それは無理ね、ごめんなさい」
「えぇ、残念……」
「麗を真似たこの喋り方よりも好きなの?」
「麗子が無理しているのは嫌だからさ。あ、先に言っておくけど、これはみんなにも当てはまることだからね。私と接するときに偽ってほしくないんだよ」
信用されていないみたいで嫌なんだ。妹モード=信用されていないというわけでもないだろうが、やめてくれたら私は喜ぶ。自分勝手と言われても構わない。もちろん、無理強いはしたくないけどね。
「なるほどね。……んん……初音ちゃん、これでいい?」
「うん、ありがとっ!」
この姉妹――親子は揃って魅力的な笑みを浮かべる人たちだ。私も笑ってだけで魅力的だと感じてもらえるくらいの女になりたい。そして、綺麗と接していると、なぜかそれができるんじゃないかって無根拠な自信が湧いてくるんだ。少なくとも麗や麗子、梨帆ちゃんや千尋にはそう感じていてほしかった。
「初音ちゃんの前髪、ちょっと長いんじゃない?」
「あ、伸びてきちゃったかな? 11月からもう髪の毛を切ってないからね」
「こうして押さえておでこを出すのもいいかもね」
「つるつるさには自信あるよ!」
「あはは、こうやって覗き込んでたら自分が映り込みそう」
「そこまでじゃないけどねっ」
ぜひともみんなに触ってほしい部分だ。いやまあ、満くんとか男の子には触ってほしくないけど。
「肌、綺麗だよね。頬とかも柔らかそうで」
「あ、くすぐったいよぉ」
「あと、こことか」
「唇はみんなそうでしょ?」
麗のも柔らかかったし、麗子のだって同じだろう。べつにキスをしたというわけではないものの、母の唇が柔らかいことを知っている。
「そうかな? 私の触ってみて?」
「えと、んー、柔らかいよ? ぷにぷにしてる」
「でもさ、初音ちゃんの方が柔らかいよ」
「べつに競っているわけじゃないからね、だから気にする必要――」
「……はぁ、ごめんね初音ちゃん」
直前のがあからさますぎたからあれだけど、会話の流れで奪われるというのもなかなかどうして悪くない気がする。……と、考えてないとやっていられなかった。
今日はなんだろう、そこまでフェロモンが出ていたのだろうか? 綺麗なふたりからそうされてしまうくらいには――とにかく千尋ふうに言えばヤバい!
「おやすみなさい!」
「あ――行っちゃった」
まさかふたりがキス魔というわけではないだろうし、これはもうそういう風に考えてもいいのだろうか。
「というか、余計に眠れなくなったじゃんか」
いま頃、あの子たちは私のベッドで転んで悶え中? 悶えたいのはこちらのほうだとわかってほしいが。
「初音ちゃん、まだ起きてたの?」
「うん、なんか寝られなくて。お母さんも同じなの?」
「うん、娘が綺麗な子にちゅうされてたら誰でも寝られないよ」
「うぇ!?」
ど、どこで見てたんだお母さんはっ。
机の下? キッチン? それとも向こうの廊下から? どれにしても恐ろしいとしか言いようがない。
「モテモテなんだね、初音ちゃんは」
「そうかなあ? あのふたりはテンションがおかしかっただけだよ」
「それこそ、そうかなあ? ま! 今日はお母さんの部屋で寝よう!」
「うん! 寝る!」
これはなんとも理想的な展開だろうか。
この点だけは、あれをしてくれて良かったと心から思った。
「初音」
「……ん」
「起きなさい」
私は静かに体を起こす。
目をこすって確認してみると、赤色の瞳と目が合った。
「おはよ、麗」
「……おはよ。もう10時過ぎているわ、早くリビングに来なさい」
「え……、まじか……」
差し出してくれた麗の手を握ってリビングまで連れて行ってもらう。
するとすぐにどうやらお母さんと麗子がいないということに気づく。
「麗、お母さんたちは?」
「あたし達の母に会いに行ったわ」
「紗子さんにか、意外と交流があったりするんだよね」
「そうね」
となると家の中に彼女とふたりきりか。
とりあえず洗面所で諸々を済まし、そこからリビングのソファに座って彼女を誘う。彼女も特に拒むことなく座ってくれた。
「昨日――あ、今日か、金色のおヒゲを作ったから銀色のおヒゲを作ろうと思ってね。こうやって、見て? 銀色のおヒゲー」
「やめなさい」
「ちぇ、麗子はやらせてくれたのに」
髪から手を離して深く腰掛ける。
うーん、私は特に気まずいとかないけど、彼女のほうはどうやら引きずってしまっているようだ。ちらりと確認してみると、どこか硬いそんな横顔が見える。
「あんた、麗子ともしたんでしょ」
「うん、自分の意思じゃないけどね」
「誰とでもするようなやつなの?」
「自分の意思じゃないって」
私的には麗子の唇のほうが柔らかいと思ったけどな。麗子的にはこちらのほうが柔らかいとか言っていたけども。嫌な気分にはならなかったものの、直前に麗ともしていたので複雑なのは確かだと言える。
「初音、夜中のは魔が差したのよ。だから、まあ、勘違いは……」
「あはは、わかってるよ? おかしくないと私になんてしないもん」
「まあ……」
多分、麗子も麗に張り合おうとやっただけ。あぶない、また勘違いして自爆するところだったぜい。
「そういえば麗はどうして残っているの?」
「……あたしは今日も泊まっていくからよ。純子に許可をもらっているし別にいいでしょ?」
「うん、それは全然いいけど」
「そうと決まれば後はゆっくりするだけね」
「いつもしているけどね」
ぎこちない雰囲気になったりしなくて本当に良かった。もしそうなっていてもやりようはいくらでもあるけど、仲がいいのに越したことはない。膝に頭を預けてきた彼女の頭を優しく撫でて、それから私は目を閉じる。
この温かさに触れているだけで心が落ち着く。彼女のにおいを嗅いでいるだけで少しだけぼうっとするそんな感じ。
「麗、気分はどう?」
「普通よ」
「そっか」
ま、ちょっとだけでも心地良さを彼女が感じていてくれれば、私はそれでいい。
書きづらい……。
こうメインの存在が気になりかけてちゃいけないんだよなあ、まだ。
そういう点では早く書きすぎてしまった。あと、抱きしめとかキスとか好きね、自分。
それと、句読点の位置が困る。




