勝つための準備
「だいぶ片付いたかしら」
小学校の校門前には黒服の山が築きあげられていた。
その上に優理が脚を組んで座っている。
最初に優理が相手をした黒服たちが全滅すると続けざまにトラックが三台やってきた。
乗っていた男たちは状況の不審さに気付くと全員が全員、臨戦態勢に移行した。
優理は仕方なく相手をし、あちこちに倒れている男たちを道の邪魔だからとホワイトドールを使って一か所に集めていた。
「あと何台くらい来るのかしらね。もうトラックを止める場所もないのよね」
優理が頬杖をついてため息をこぼすと、
「あと二台ですよ」と声がかかった。
「あら撫子ちゃん。久し振りね」
声を掛けられ武者小路は深く頭を下げた。
「お久し振りです。有機君は中ですか?」
「ええ。頑張っている最中だと思うわ」
「そうですか」
と武者小路はブルーシートを見上げる。
「そっちの子は? もしかして転校生君?」
「はい。もっとも今は女の子ですけど」
「女じゃない!」
全力で否定する騎衛瑠に優理はさほど興味を示すわけでもなく、
「ふーん。で? 中には入らないの?」
「ウチは行きません。その必要もないでしょうから。代わりにこいつが中へ」
「わかったわ。任せて」
「え? ちょ! えぇ!?」
淡々と優理は有機と同様に騎衛瑠を空高く投げ飛ばす。
それを見上げながら、
「やっぱり残って正解やったな」と呟く。
「撫子ちゃん、何か言った?」
「いいえ! 何も」
◇◆◇◆◇
【ほんとに良いの? 後悔しない?】
「確認すんなよ。時間が無い」
【……わかった。じゃあ始めるよ。タブレットに繋いで充電してね。あとアップグレードの最中は魔法が全部使えないからね】
「わかってる」
「通信番号0626 ジャスティス・チェイン!」
絵依の周囲に黄金の鎖が顕現する。
「私と戦うつもりか? 大森や小森にすら敵わないのに私の相手が務まるとでも?」
「さあ、やってみなきゃわからないじゃない」
「調子に乗るな!」
横薙ぎに振るわれる右腕。
それをバックステップでかわしながら鎖を幾重にも腕に絡め、その動きを抑え込む。
しかし、すぐに鎖の内側から黒い霧が漏れ出し黒い腕は一度消失し、再構成される。絵依は再度振るわれる右腕を横っ飛びに回避する。
「攻撃が単調ね。男の嫉妬って見苦しいと思うけど」
「黙れ!」
今度は上から覆いかぶさるように平手が落下した。
さらに続けざま、まるでモグラ叩きでもするように黒い腕が上空から絵依へ降り注ぐ。
それを軽々と避けながら絵依は黄金の鎖を権藤へ巻きつけようとするが。
「無駄だ!」
それはいとも簡単に黒い霧に無効化される。
「攻撃は単調だけどやっぱり防御は一級品てことね」
絵依の攻撃の終わり、権藤が防御から攻撃へ転じるその一瞬の間。
権藤は有機を視界に捉えた。
「何をやっている……。まさか! くそ!」
標的が絵依から有機へ切り替わる。
「ちっ! 気付かれた」
有機は権藤の意識が自分へ向いたことを察したが、
「させんぞ無灯!」
巨人の腕が右に続いて左腕も出現した。
左右の揃った巨人の腕はそのまま有機を挟むように迫る。
魔法の使えない有機には身を守る術はないが――
「ガエボルグ! デュアルランス!」
天から降り注ぐ一対の閃光の柱。
それは巨人の両腕に突き刺さり、その動きを封じた。
「騎衛瑠! なのか!?」
闇夜にライトの光に照らされて舞い降りたのは、紫髪の少女。
有機はその姿に戸惑いを隠せない。
その超攻撃力。
魔法の名も、手にしている赤紫の長槍にも見覚えがある。
だが、有機の記憶ではその使い手は美少女ではなく美少年だったはずだ。
「待たせたわね……じゃなくて待たせたな!」
「紫丈……君? その格好どうしちゃったの? もしかしてそういう趣味が……」
「違う! 断じて違うよ! これは色々不可抗力なんだ!」
説明をしてくれるはずの武者小路はそばにいない。
騎衛瑠がしどろもどろしている間に巨人の腕が騎衛瑠の技から解放される。
「学園の制服のようだが、見覚えが無いな。誰だか知らんが、ここに来た以上は処理させてもらう」
「え? マジ? あれでだめなのか?」
「騎衛瑠、気をつけろ。権藤の魔法は一筋縄じゃいかない。今は時間を稼いでくれればいい」
その言葉に騎衛瑠は有機と視線を交わし、有機のタブレットを確認した。
「ふーん、それが秘密兵器? まあけど、倒しちゃっても構わないんだろ?」
そしてすぐに権藤と向き合うと、自信たっぷりにそう告げる。
騎衛瑠は華麗に槍を振り回し軽い演武を披露した。
紫髪のツインテールが風にたなびき、スカートの端からは美しい脚線美が覗かせる。
その光景は少女だからこそ絵になったのかもしれない。
◇◆◇◆◇
そのころ聖央学園では、梓の前にあの男が姿を現していた。
「なんだその格好は。随分と刺激的だな! がっはっはっは!」
「ふん! 別にお前に見せたくてこんな格好をしているわけじゃない。それよりお前の方こそここで何してるんだ?」
「おお! そうだった。権藤先生がどこに行ったか知らないか? 古典の宿題を提出したいんだけど、もう帰っちまったのかな」
「……権藤先生ならもうこの学園にはいないよ。もうここで教鞭を振るうこともないだろう」
「? どういう意味だ?」
皇が怪訝な顔をする。彼からすれば最初の一言は冗談で言ったものの、梓の傷だらけの体とボロボロの制服は、この場で何かがあったことを如実に表している。
「実はアタイも詳しい事情は飲み込めていないんだ」
「? なんだよそれ」
「ただ……アタイにもわかることが一つだけある」
梓が振り向く。皇もその視線の先を追った。
――そこには泣き崩れる赤い髪の少女と寄り添う二人の少年。
中森は武者小路に呼ばれてこの場にたどり着いた。
武者小路は詳しい事情を説明したわけではないし、そんな時間は無かった。
それでも、ボロボロの二人を見た中森は心配や安堵といった複雑な感情が混ざり合ってその場でへたり込むと泣き出してしまった。
その涙を見た二人の少年はそこでようやく深く後悔した。
この涙を流させたのは自分たちだ。
自分たちが弱いから泣かせてしまったのだと。
「もう……バカ……心配したんだから……」
「ごめん、中森さん……」
「ごめんなさいぶぅ」
「もうどこにも行かないで。私を一人にしないで……」
「ああ、約束するよ」
「また一緒にカレー食べるぶぅ。みんなで食べたらきっとおいしいんだぶぅ」
「うん……一緒に食べようね」
その光景を眺めながら梓は思う。
そしてありのままの気持ちを言葉にした。
「生徒にあんな泣かせ方をする男に教師の資格は無いってことさ」




