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ジーニアス ―白銀のガントレット―  作者: 出金伝票
第4章 ジーニアス――天才とは
42/46

突入

 有機はあたりを見回す。

 不自然に人通りが少ない住宅地の通りに不自然な数の黒服の男たち。

 数は一〇から一三人。

 夜道に黒ずくめは識別が難しく、正確な人数は判別がつかない。

 そんな彼らが有機に気が付いた。向こうにしても有機がただの通行人には見えないらしく、警戒の目で有機を見ていた。


「来るなら来いよ。俺は逃げも隠れもしない!」

【通信番号0412 魔法『閃光の右腕トゥウィンクル・ライト』を起動します】


 闇が数秒退き、有機の右腕に白銀のガントレットが纏われる。

 同時。黒服たちが一斉に有機を攻め立てる。

 そのすべてが大森や小森たちのように強化した魔法を使用していた。

(なるほど、確かに速くて強いな……一対一ならまだしも、この数を相手だときついか?)

 有機の持つ必殺の右腕。

 多対一の戦いでも魔法の性能と有機の戦闘センスをもってすれば引けはとらない。

 だが、相手も普通ではない。

 一人をなぎ倒し、また一人と地面に叩き伏せる。

 そうしてまた一人を殴り飛ばした瞬間、男の一人が有機に覆いかぶさった。


「残念だったな少年!」

「ちっ!」


 身動き取れず、さらに仲間ごと倒す勢いで他の黒ずくめの男たちも押し寄せてくる。

 だが、有機と男たちの間を引き裂く形で巨大な白い手が差し込まれた。


 ――それは巨大なテディベア。


「この魔法は……」


 有機の知っている魔法。

 少なくとも彼の周囲で、この魔法の使い手はただ一人しかいない。


「ゆう君待たせたわね。大丈夫? 怪我はない?」


 言いながら巨大な白いテディベアの腕が有機にしがみついている男を引き剥し、ポイッと宙に投げ飛ばした。あまりにも無情な力に呆然と有機はテディベアの肩に乗った母親を見上げた。


「別に待ってないけど、どうして母さんがここに……」

「ふふ! 息子のピンチには駆けつけなくちゃと思ってね。町内会の情報網を甘く見ないことよ?」

「また町内会かよ……父さんは?」

「仁さんはお留守番。彼、基本的には臆病だから。それにお母さんだってゆう君にいいところ見せたいじゃない?」

「は、はあ……そうですか」

【クーマー!】

「さあさあ、私の可愛いローランの力、見せてあげるわね!」


 魔法『ホワイトドール』

 無灯優理の意のままに動く全長五メートルの巨大なクマのぬいぐるみ。

 その巨体から繰り出されるパンチはアスファルトを砕き、そのボディは男たちの魔法を受けても傷一つ残さない。


「無茶苦茶だ……」


 有機は次々に蹴散らされていく敵の男たちを憐れんだ。彼らも何かの志があって戦っているのだとしたら、可愛いクマのぬいぐるみに蹂躙されたら立ち直れないだろう。


「こら! なにぼさっとしてるのよ。先に行きなさい! こんなところで無駄足踏んでる場合じゃないんでしょ?」

「んなこたわかってるよ! だけど入口がみつからないんだ。トラックの進入経路も綺麗に封鎖されてる」

「ということは魔法で出口を作っているのね。なら話は簡単じゃない!」


 優理の手の合図でローランと呼ばれた白いクマが有機を掴む。


「え?」


 そして、振りかぶる。


「このシートに魔法を無効化する性質はない。なら、恐れることはないわ」


 振り回す。


「ちょっと待てって!」


 次の瞬間には有機は天高く舞い上がっていた。


【あちゃー、私の予想は外れちゃったみたいだね。粒子を遮断するんじゃなくて音波を遮断するのかな。だから音で索敵してたムシャちゃんが見失っちゃったんだ。でも、それじゃ基地として機能しないんじゃ……】

「そんなことより今のこの状況! まずそっちだろ!」

【じゃあ、オートで起動するよ?】

「頼む!」


【通信番号0002 魔法『空気跳躍エアロ・ジャンパー』を起動します】


 有機の足が緑の光を纏い、有機はなんとか空中で体勢を立て直す。

 眼下では母親が笑顔で手を振っていた。


「がんばりなさい。好きな女の子くらい自分で守らなきゃね」


 その声は有機には届かない。届けるつもりもない優理の独り言。

 息子がどんどん大きく、力強くなっていくことが嬉しくもあり、また寂しくもあった。


【通信番号0003 魔法『人魚捕縛シレーナ・コヘール』を起動します】


 有機は空を駆け降りながらガントレットを一基の照明器具目掛けて振りぬく。

 クモの巣状の水の糸が照明器具を絡め取り、ターザンもしくはアメコミのヒーローのように眩しいライトの光を浴びながら校庭に着地した。

 目の前には数人の黒服と、その中心には権藤、そして両手両足を縛られた絵依の姿。


「有機!」


 絵依は思わず叫んだ。

 見たところ外傷の様なものはない。まずはそのことに有機は安堵した。

 今度は間に合った。

 もう青木のときのようなことには絶対にさせない、と気を引き締める。


「ふ、もうここを見つけたか。さすがに優秀だな」


 権藤は素直に感嘆しているようで、有機を見て笑った。

 そこには敵意の様なものがまるで感じられない。


【ねえねえ、せっかくだから名乗りでもあげたら? こんなことでもないと言う時ないでしょ?】


 ミクと呼ばれるAIはワクワクしているような口調でそんなことを口走り、有機が「ちょっと黙ってろ」と言うとミクは悲しそうに【はい。ごめんなさい】と返事をし、そのまま静かになった。


「通信省外郭機構『セブンコード』の名において、第三特権を行使する。コードナンバー3・無灯有機はこれより異常の排除にあたる」


 言いながら有機は黄金の七芒星魔法陣が表示された携帯の画面を権藤に付きつける。

 魔除けや調和の意味を持つ七芒星。

 組織設立当時、大臣を務めた男の願いから生まれた彼らを表す記号である。


【結局言うんじゃん!】


 ミクのツッコミが廃校の校庭に響き渡った。


短くてすみません。

でもキリが良かったのでしょうがないんです。

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