第8話 死刑執行人
そこから、二人を看病する日が続く。
一日目、小さいながらも街には商店があり、生活のために必要最低限のものは買い揃えることが出来た。そこで食材を買い揃え、久しぶりに、まともな料理を口に通す。乾パンしか食べてなかった私にとって、それはご馳走に近かった。
二日目、まだ二人は目を覚まさない。クライムは、外へ出かけ、しばらく姿を現さなかった。何をしているのかは、私にはわからない。数時間後には返ってきたが、どこに行っていたのか、教えてくれることはなかった。
そして三日目、とうとう、目を覚ました。しかし、覚ではなく、星華のほうが。
「どこでござるかぁ……ここは……」
まだ寝ぼけていて、状況を把握しきれていない。部屋にはクライムもいるし、安全ではあるだろうけど、この状況を知った星華が、大人しく納得するとは、到底思えない。
「ん……そこに居るのは……貴様、クライム!何故ここに!?」
「あなたがそこの少年に殺されかけていたので、助けてあげただけですが。あと、一応武器は預かってます。万が一、あなたが私達を攻撃すれば、すぐにこの武器を破壊します」
容赦のないクライムの脅し。これにはたまらず星華も唇を噛む。
「そうだったでござる……!完全に思い出した!拙者はこの夢見人を始末しようとして、それで……」
どうやら、そこまでしか覚ええいないらしい。
そう言えば、あの戦闘中、星華の姿が明らかに変化していたような……頭には二本の角が生えてたし、尻尾も生やしていた。まるで魔獣のような見た目だった。魔獣を殲滅する部隊の幹部が魔獣のような姿になるとは、少し皮肉というか、本末転倒のように感じる。
星華は思ったより、私達にどうこう言うことはなかった。というよりも、言うことさえ出来ないのだと思う。今もなお、突き刺された胸部を、そっと撫でている。
とうとう目覚めた星華の動向を、しばらくクライムと監視していたそのときだった。
「ワォーン」
外から、何かの鳴き声が響く。犬のようだが、そうではないことを、その場にいた全員が理解した。そして、その後すぐに、
「キャアアアアアアアア」
と女性の叫び声が聞こえてきた。驚いて星華が飛び上がろうとするが、体が痛くて動け出せていなかった。
「っっっっっっ、民の危険に駆けつけることもできぬとは……」
「あなたは休んでて!私が行ってくるから!」
部屋の片隅にかけておいた杖を握りしめ、部屋を飛びだし、猛スピードで外へ向かった。
だが、その頃にはすでに遅かった。巨大な魔獣。獣人型の、私より数回り大きな魔獣のシルエットが月に映し出されている。狼男……ワーウルフというやつだ。女性の腕を噛みちぎり、今まさに、その体を八つ裂きにしていた。
そんな光景に、私も後ずさりしてしまう。その女性と、これからの私の未来を重ねてしまい、その想像をするだけで身の毛がよだつ。杖を握りしめるだけで、何も出来なかった。
『スタッ、スタッ、スタッ』
そんな私の後ろから、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「あまり人助けは好きではない、むしろ嫌いですが。今回は仲間の危機なので参上させていただきましたよ。シャルロットさん、あなたはお下がりください」
クライム……決して急ぐ素振りを見せず、遅れて参上するところが、まさしくこいつだ。だが、助かった。クライムがいなければ、私も殺されていただろうから。
その左手には、なにやら武器を握っている。私の知らない武器。見た感じ金属製のその武器の先を、クライムは一瞬、魔獣ではなく、殺された女性の亡骸に向けた。
だが、しばらくの間硬直した後、その武器を静かに下ろした。
クライムが、深い溜息を着く。何がしたかったのかは、私にはわからない。
「最悪です。こんなところで能力を使わされるとは」
そう言ってクライムは魔獣に近づいた。
「あなたが犯したその罪を、そっくりそのままお返ししましょう」
その言葉と同時に、またあの光景が繰り返される。クライムがみるみる内に、その相対していたワーウルフに姿を変え、逆にワーウルフはさっき殺された女性の姿へと変わっていた。
「ワォーン」
クライムだったはずのワーウルフは遠吠えし、そのワーウルフだったはずの女性の腕をがっちり捕らえた。女性は口を限界まで広げ、助けを求めて泣き叫んでいる。だが、それを無慈悲にも、そのまま顔、手、足に噛みつき、切り裂き、八つ裂きにした。さっきの光景がもう一度、完全再現された。
それは罪を犯したものへの、復讐者からの罰。自らが与えた非情な過ちを、自らが身をもって体感させられる狂気じみた罰。
女性が完全に息絶えると、互いに元の姿に戻り、そこには引き裂かれたワーウルフが散らばっていた。
「そろそろ、理解して頂けましたか?私の能力」
「相手が犯した罪の再現ってこと……」
この能力はあまりにも不気味だ。やられているのが味方なら、それがたとえ、本当は敵であるとわかっていても、それが残虐されるところを、もう一度目撃しないといけないのだから。
「まぁ、だいたいそんなところです。私はあの方を家族のところまで送り届けた後、埋葬の手伝いをしてから帰るとします。まったく、これだから人助けは嫌いです」
クライムは女性の亡骸をできるだけ丁寧に集め、住宅地の方へ歩いて行った。その背中は何だかもの悲しく、生きる希望を失った男の背中のようだった。
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