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【完結】夢見た世界でガレットを  作者: Pe.com
第二節 星降る夜

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第5話 強者たち

目が覚めると、そこはいつもと違う、ボロボロの天井。あぁ、そうだ。俺、あの少女、シャルロットに助けられたんだった。今日は確か、食料のために街を探すって言ってたっけ。


 今にも崩れそうな床から起き上がり、自分の上半身に付けられた大きな傷跡をそっと手の平で撫でる。もう痛みはない。自由に動ける。自分の頬をパンパンッと叩き、目を完全に覚まさせる。誰かとともに行動するのだから、それなりに責任が伴うはずだ。


「よしっ」


 フーッと息を吐き出し、俺はシャルロットのいる一階へ向かった。


 すでにシャルロットはバッグに荷物を詰め込み、出発する準備ができている。昨日洗った服をしっかり着ているため、やっと堂々と目を合わせて会話することができる。


「さ、行きましょ」


 俺に背を向け、淡々と言い放つシャルロットに少し冷たさを感じつつも、その背中を見守るように、後ろをついて行った。


 雪は止んでおり、星空が見える。それでも、依然として極寒で、このボロボロのウィンドブレーカーでは、もう寒さを凌ぐことはできなくなっていた。


「本当に、夜のまんまなのね……」


 シャルロットにとっては、これがこの国で初めての目覚めのはず。驚くのも無理は無いだろう。


「まさか、あの本に書いてたことが本当だったなんて……」


 ボソボソとつぶやきながら、冷たい大地の上をひたすら歩き続ける。必要最低限の会話しかせず、雑談などはほとんど無い。それはあまりにも淋しいので、何か質問してみることにした。


「な、なぁ、シャルロット。その、レーヴェってどんな国だったの?」


「いい国よ、自然豊かで。それに、魔獣なんかもほとんどいなくて、平和な国だった」


 即答。別に冷たいわけではない。


 シャルロットもご傷心だ。そっとしておいてあげよう。


 二人の足が雪を踏み固める音だけが静かに響いている。あの凶暴な動物、シャルロットは魔獣と呼んでいたあれとも、出会うことはなかった。


「そろそろ休憩しないか……」


 途中から、荷物持ちをやらされていたので、俺の足の方が先に限界を迎えた。膝に手をつき、一度歩くのをやめる。そんな俺を、何も持っていないシャルロットがこちらを一瞥する。


「ごめんなさい、全部持たせちゃって……交代しましょうか?」


 俺は首を振って差し出す手を払い除け、また立ち上がる。


 互いに人と関わるのがうまくないのか、絶妙に気まずい空気に阻まれながら、二人、別々に歩いた。


 そうしている内に、シャルロットはどんどん突き進み、その背中が遠くなっていく。はぐれたら一巻の終わりだ。限界ながらも、必死に足を前に動かした。


 やっと追いついた……とホッとため息を付いたそのとき、シャルロットの足がピタリと止まった。


 体力的に限界なのかと思ったが、なぜシャルロットが足を止めたのかがわかった。人がいる。こんな森の中に。明らかに人、男性だ、魔獣じゃない。


 人がいるということは近くに街があるはず。話を聞こうと、その銀髪の青年に近づいた。シャルロットの前に立ち、警戒は解かないように、その青年へ歩み寄る。でも、なんだか怪しい。こんなところで一人でいるなんて、まるで俺達を待ち伏せているみたいだ。


「あの、すいません。この近くに……」


 かなり近づいたそのとき、その青年が左手にナイフを握りしめているのが見えた。


「シャルロット!できるだけ遠くに……っく」


 判断が少し遅れた。そのナイフが俺の喉元へ迫る。


 人との戦闘は初めてだ。そのせいで、剣を抜くのを、少しためらってしまう。だが、後ろにはシャルロット。戦わなければ、その結末は言うまでもない。


 『キンッ』


 錆びかけた剣を抜き防御の体制に入る。俺の首が狙われているのは明らかだった。それを防ぐため、首前に剣を持ってくる。


(よし、防げる……!)


 そう確信したのもつかの間。俺が構えた剣と、青年のナイフがぶつかりかけた瞬間、そのナイフがピタリと止まった。辺りの音が消える。


「なっ」


 その超人的な反射速度に対応できない。次の一手が遅れてしまう。青年は今度、俺の横腹めがけナイフを突き刺そうとした。


(あっ……間に合わない……)


 次の瞬間に、俺の横腹から内蔵がこぼれ落ちる姿が想像できた。もう終わりか。俺はギュッと目を閉じた。


 が、いつまで経っても、その痛みがやってこない。 

「あれ……?」


 そっと目を開けると、青年はまたナイフを、俺の肉に触れかけたところで止めている。なんなら少し触れるくらいのところで。その剣先の一ミリだけ、俺の横腹に食い込んでいる。それを見て、俺の手から完全に力が抜けた。地面へ剣が落ちさり、弱々しい金属音が響く。


「よっわ。弱すぎんだろ」


 青年は勝利を確信したのか、俺の弱さを罵倒し始めた。なんなんだこいつ。急に俺等に襲いかかってきて……


 シャルロットは木の陰に隠れている。だが、バレているだろう。もう俺達の運命は、こいつに握られている。


 抵抗することができず、ただ何もしないでいると、青年は、俺の脇腹からナイフを離した。なんのつもりだ……でも、反撃しても勝てない。どうすれば……


「すまないね。ちょっと、今の君の実力を実際に見ておきたくて」


実際に……?でも、この口ぶりからして、俺達がここに来ることを予測していたんだろう。


「俺達に何のようだ」


 相手は格上だ。気分次第で俺達を殺すことができる。考えて行動しなくては。


「君たち、道に困っているんだろう?だから、教えてあげようと思ってね」


「なんで俺達がここに来ることを知っている?」


 そう俺が聞くと、その青年はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「教えてあげようか?なんでわかったのか」


 俺が頷く。


「僕は夢見人の一人、ギデオン・リアドだ。僕の右目が宿した能力、『予知夢』のお陰で、君たちがここに来るのがわかったってわけ」


 そう軽々しく自己紹介をしてきたが、わかったのはこいつが、俺と同じでまだ厨二病を患っていることだけだった。夢見人?予知夢?俺にはさっぱり理解できない。


 そのとき、木陰に隠れていたシャルロットがこっちへやってきた。


(馬鹿……まだ隠れてろよ……)


 だが、どっちにしろ場所は割れている。いざとなれば、全力でシャルロットを守ろう。その覚悟だけを心に留めた。


「あなた、夢見人について知ってるの!?」


 シャルロットが走ってきながら青年、ギデオンに問いかけた。シャルロットはその『夢見人』について、何か知ってるのか……


「知ってるも何も、僕が夢見人だからね。まぁ、僕だけじゃないけど。てか、彼が夢見人だって気づいてなかったのかい?」


・・・ん?彼って誰のことだ?


 俺が辺りを見渡してみても、ここには俺ら三人しかいない。そんな俺を、ギデオンが呆れた顔で指さしている。


「君以外に誰がいるんだよ。アイサカサトル君」


「……まじか」


俺が、その夢見人?でも、別に俺は特別な力とか何も無いし……


それに、こいつはなんで俺の名前知ってるんだよ。それも、夢見人の能力なのか?


「嘘……サトルが、夢見人……?それに、ほんとに実在するなんて……」


 隣でシャルロットが震えている。恐怖というより動揺している感じだ。まあ俺みたいな一般人が、そんな特別なものなのなら無理もないか。


「他に聞きたいこともたくさんあると思うけど、僕は君たちの味方ではない。君を殺すときが来るかも知れないし、協力し合う日が来るかも知れない。後者であることを祈っててくれ」


 そう言って、颯爽と立ち去ろうとしている。


「ちょ、ちょっと!ここから一番近い街はどこだ?それだけでも教えてくれ!」


 聞くと、ギデオンは苦笑いを浮かべながら答えた。


「ごめんごめん、忘れてたよ。ここから北東方法に進めば、この国一番の街、対魔征討軍総司令部があるよ。運が良かったね。じゃあ、グッド・ラック」


 そのまま彼は行ってしまった。何だったのだろう……イマイチ彼の目的が理解できぬまま、会話を終えてしまった。


 シャルロットは、うんともすんとも言わなくなってしまった。そんなにも俺が、その『夢見人』だったことが衝撃的だったのだろうか。いや、夢見人が存在したことに驚いているのか?


 ここにいても仕方がないので、ひとまず、ギデオンの言う、『対魔征討軍総司令部』とやらに向かうことにした。またまた厨二病ネーミングであるが、本当にそんなところがあるのだろうか。


 示された方角は北東。そっちに向かって、ひたすら歩いた。道中、一切魔獣と遭遇しなかった。ここに来て、もう十日以上経つと思うが、ここまで遭遇しなかったのは初めてだ。まさか、ギデオンが……流石に考えすぎか。


 しばらく歩いたが、シャルロットからは何も言ってこない。ここまで無言だと、こっちが不安になってくる。


「大丈夫か、シャルロット。気分悪い?」


「い、いえ……少し驚いただけよ……」


 とりあえず声が聞けて安心した。シャルロットにも色々と思いがあるのだろう。今、それを詮索するのは野暮だと思った。

 

 そうしている内に、少しずつ辺りの雰囲気が変わってきた。遠くから、人の声が聞こえる気すらする。


(まさか……)


 そう思い、少し早足でその方へ向かうと、木々の間から少しずつそれが姿を現した。中心部に、黒塗りの大きな城砦が聳え立つ大きな街が。


「着いた……着いたよシャルロット……!」


 俺がホッと一息着くと、シャルロットも同じようにできる限りの息を吐き出した。


 その街は大きな城壁で囲まれており、門からしか中に入ることができなかった。怪しまれないように、堂々と胸を張り、その下を通過した。多少は怪しまれたかも知れないが、無事に入れたし問題なし。


 中では、たくさんの人で賑わっていた。今までシャルロットとギデオンとしか出会わなかったから、この風景は新鮮というか以外だった。この世界にも、こんな場所があったなんて。


 いろいろな店があり、ここなら何でも揃いそうだ。とりあえず、情報収集するために、一番近くにある鍛冶屋へと足を進めた。


「なぁ、シャルロット。対魔征討軍って何?」


 シャルロットの表情が、街に入って少し穏やかになったのを見て、ずっと気になっていたことを聞いた。


「対魔征討軍は魔獣の討伐を専門とする組織よ。世界中にその支部があって、各国の平和を保ってるの」


「へぇ、めっちゃいいやつらじゃん」


 なら、この街にいさえすれば安全は確保されているってわけか。なら、安心して過ごせる。旅の始まりにうってつけの場所だ。でも、そんな組織、聞いたことがない。ここはやっぱり……


 鍛冶屋に到着し、そのドアノブをひねり中へ入ると、そこにはたくさんの刀が飾られていた。


(刀……?こんなところで……?)


 でも、ちょうどいい。この錆びかけた剣よりも、この刀の方が扱いやすいだろう。日本人の血が騒ぐ。


「いらっしゃいませなのじゃぁー」


 かなり遅れて、入店の挨拶が返ってきた。かなり珍しい語尾だな。今どきその語尾の人はほぼいないと思うが……


 店奥から、ゆっくりと店主が現れる。その姿は、想像とは全く違っていた。背はシャルロットよりもさらに小さく、恐らくは女性。まさしく少女だ。髪は肩にぴったり付くぐらいの長さで、ボロボロの布切れを纏っている。


「あの……すいません。おすすめの刀ってありますか?」


 もちろん、シャルロットに許可はとっていないが、お金は十分あると言っていたし大丈夫だろう。


 少女は並べられた刀から、俺へのおすすめを探し始めたが、中々決まらない様子であった。


「先日、対魔征討軍の兵士たちが遠征に向かってな。そのときにほとんど売ってしまったのじゃよ。もし、魔獣の素材をとってきてくれれば、武器を無償で作ってやるが、どうする?」


 その問いかけの返答は、中々に難しいものであった。一人なら、承諾したかも知れないが、今はシャルロットもいる。彼女を危険に晒すわけにはいかない。


「今、ここより少し離れた場所で、ファフニールという魔獣による被害が出ておる。素材の調達と思って、その魔獣を討伐してくれんか?軍の奴らも手を焼いておるのじゃ」


 そう言われても、そいつを倒せる実力は、俺には無いだろう。危険すぎる。


「もし討伐してくれた暁には、刀だけでなく、もっと凄まじい報酬を授けられることが、対魔征討軍から約束されておる。どうじゃ?」


 ……ちらっとシャルロットの方を見ると、彼女は少し悩んでいた。問答無用で却下だと思っていた分、少し驚いてしまっった。恐らく、その報酬が何か気になったのだろう。


 そして、シャルロットもこちらを見てくる。これは明らかな『GO』サインだ。まじか、こいつ。


「な、何人か、その対魔征討軍の兵士が協力してくれるんなら、その魔獣の討伐を引き受けるよ」


 条件付きの承諾。さぁ、どうなる……


「おぉ!それはもちろん、このわしが手伝わせていただこうではないか!わしも一人で討伐に挑むのは少々不安だったのじゃ!」


 ……いやぁ、こいつあんまり戦力にならなそうなんだよなあ。てか、こいつも対魔征討軍なのか?全く雰囲気無いんだけど……


「えっと……あんた何奴?」


 俺が控えめに質問すると、その少女は目を輝かせ、武器を置いてある机の上に飛び乗りながら答えた。


「わしは対魔征討軍第七席、雨嵐星華じゃ!東部支部を収める、我軍の主戦力である!」

ご覧いただき誠にありがとうございます!

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