第3話 出会い
もう助けられないかもしれない。生きて家まで連れて帰れたとしても、頼れる人はいないし、私にはどうすることもできない。
だって、こんな傷、普通の人なら即死だろう。もしかしたら彼は、見た目に反して恐ろしい力を秘めているのだろうか。
自分よりも何キロも重い彼を、行きに記した足跡を辿りながらに引きずる。私の腕が限界を迎えそうになったとき、なんとか家まで到着することができた。
ベッドはあるが、汚すぎる。仕方なく、床に直接彼を寝かせ、何か応急処置をできる道具がないか、持ってきていた荷物を漁った。だが、何も見つからない。何か、ただの布切れでもいい。この傷跡を塞ぐことができるものなら何でも……
辺りを見渡したが、何も見つかるはずもない。どうすればよいかわからず、あたふたしていると、あることに気づいた。もう、これを実践するしかない。
────数時間が経ったそのとき、彼が目を覚ました。早すぎる。あまりにも早すぎる。
「……君が助けてくれたのか……てっ!」
彼は起き上がった瞬間、困惑の声を上げた。無理もない。目が覚めた瞬間、自分の目の前に、ブランケットを体に包めた下着姿の私がいるのだから。
仕方がなかったのだ。彼の傷口を塞ぐには、私の着ていた服を使うしか。
「いいのか……お前の服、血まみれになっちゃったけど……」
被せていた私の服を、彼は持ち上げた。そのとき、とんでもないものを見た。あの傷口がもう塞がっているのだ。ありえない。
見間違いだろうと、目をグリグリ擦りもう一度見てみたが、やっぱり傷が治ってる。ありえない、本当にありえない。
「服は気にしなくていいわよ……それより、その傷。どういうことよ、なんでもう治ってるの?」
そう聞くと彼は、首を横に振り、私の方を見ようとはしなかった。
「わからない。あの化物に、殺されかけてからは何も覚えてないんだよ。お前が助けてくれたんだろ?」
なるほど。彼は勘違いをしているようだ。あの魔獣に殺されかけたところを、私が助けてくれたと。ま
あ、実際はその逆なのだが。
「逆よ。あなたが私を助けてくれたの。今はまだ安静にしておきなさい。でも、数日経てば出ていってもらうから」
別にここは私の家ではないのだが、自分の家であるような口ぶりで言ってしまった。彼は私から少し逸れた場所を見つめながら、自分の傷口があったところを確認している。
「でも、手当してくれたのはお前なんだろう?ありがとう。何か手伝わせてくれよ!俺もこの場所に着てから、誰とも会って無くてさ」
……誰とも会ってない!?迷子ということなのだろうか。もしかして、私と同じでレーヴェから逃げてきたとか?
「誰とも会ってないってどういうこと?」
そう私が聞くと、彼は即答した。
「その言葉のまんまだよ。本当に誰とも会ってないし、ここがどこかもわからない。変な化物に追いかけ回されるし、ずっと夜だし、逆にここはどこなんだよ」
……待て待て待て、話が整理できない。ここがどこかわからない、ということは迷子なのだろう。それは確実だ。それとあと一つ、ずっと夜、というのはどういうことだ。単にこいつの体内時計が狂っているのではなく、本当にあの本に記載されていた内容が事実なんだとしたら……
「ま、まさか……いや、そんなはずないわよね」
でも少し、彼に興味が湧いてしまった。決して信用しているわけではないし、馴れ合いたいわけでもない。だが、初めて人と出会えたんだ。しかもこんな形で。少しの間、協力してもいいのかもしれない。
「とりあえず、まだ安静にしてて。でも、動けるようになったら、色々と手伝ってもらうから。私はシャルロット・ド・オレヴァンよ。シャルロットでいいわ。少しの間、よろしく」
そう言うと、彼はポカンとした表情で答えた。
「シャルロット……珍しい名前だな。俺は逢坂覚だ」
アイサカサトル……私からすれば、この名前のほうがよっぽど珍しいのだが。
「でも、シャルロットはなんでこんなところに住んでんの?」
「それは……」
そこから私は、今までのことをすべて話した。
レーヴェという国が、アルトラ帝国という国に侵略されたこと。私はそこから船を使い、この国へ逃げてきたこと。すべてを話した。覚は、真剣に聞き入り、声を出さず、ただ頷くだけだった。
「はぁ、何なんだ。この世界は……」
私が話し終えると、彼はため息と同時に言った。
「逆に、あなたはどうしてこんなところにいるの?」
そう私が聞くと、彼は数秒考え込んだ後、答えた。
「それが、本当にわからない。この場所のことは、何も分からない。一つわかるのは、何かから逃げ続けていると、いつの間にか、ここにいた……気がする」
それはもう完全に迷子だ。紛うことなき迷子だ。でも、それなら、少し境遇は私と似ている。さっきまで一人で、正直怖かった。でも彼と出会えて、それが少しマシになった気がする。
自分の力で生き抜くことも必要かもしれない。でも、今は、互いに手を取り合ってもいいだろう。誰かが隣にいることは、こんなにも心強いことだっただろうか。そんな当たり前なことを、今更理解させられた。
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