第35話 刻一刻
「幻真……!援護を!」
かつて栄え、今は廃れた城趾で火花が散る。
「覚君!尻尾だ!尻尾を切り落とせば、その魔獣の装甲が一気に剥がれるはずだ!」
ギデオンはその眼で、魔獣の全てを見透かし、俺達に戦いに活路を開く。
俺もそれに答えてランスを握り、奮戦する。
鎧を纏う魔獣の背後に伸びる、一本の尻尾。そこを狙うためには、俺が背後に回り込むために、僅かな隙が必要だ。
その俺の思考をギデオンが読み取り、短剣を握り、一気に魔獣へ接近する。
魔獣の眼が光り、怒り、ギデオン向けて大剣を振り払う。
だが、俺はすでに、お前の背後に迫っている。
「貫け」
崩れた建造物を利用し飛ぶ。上空から、全体重をランスにかけ、大地を貫通する勢いで落下する。
砂埃と魔獣の尻尾が宙を舞う。
魔獣の手がピタリと止まり、装甲がガタガタ動き出す。
ギデオンの言った通り、尻尾が切断された瞬間、魔獣を覆っていた装甲が崩れ落ちた。
その隙を、ここまで何匹も魔獣を殺してきた俺達が見逃すわけがない。
背後からは俺のランス、正面からは幻真の薙刀が、魔獣の命を抉りとった。
魔獣が地面に伏せ、息を止める。
「これで、やっと……」
「うん、終わったね」
俺達はついに、二十体の魔獣を殲滅した。実際に俺達を殺したのは十三体で、残りは対魔征討軍による別働隊が討伐した。
というのも、森林での一戦で俺達より早く撤退したギデオンとシャルロットは、宿を探すよりも先に、一度総司令部に戻り、別働隊の編成を要請していたらしい。
あの一戦で主力が二人も先頭不能になり、流石にまずいとギデオンも踏んだのだろう。
対魔征討軍も、克服帰光のための訓練の一環として、快く引き受けてくれたようだが。
そんなことがあって、あの日は俺達よりも宿に来たのが遅かったらしい。
「あー、疲れた疲れた。今日はもう休みたいけど、残り四日だし、ちょっとでも総司令部向かって南下するかぁ……」
ギデオンが自分の肩を揉み、あくびしながら言った。
「あぁ、その前にシャルロットと合流しなきゃね」
そう、シャルロットは五日前の戦闘で怪我を負い、今は宿屋で療養中だ。流石に魔獣との連戦はシャルロットには酷だったのか、日に日に動きが悪くなり、ついにやられてしまっった。
そこまで重症ではないので、すぐに復活できるとは思う。
俺達は馬に跨り、いつもより急ぎ足で馬を夜空の下を掻き進んだ。
「覚……!おかえりなさい!」
キッチンで作業しているシャルロットが、扉の向こうで待っていた。右手にはまだ、あの戦いで負った傷跡を覆い隠している包帯が巻き付けられている。その傷がまだ痛むはずなのに、俺らの帰りを待ち、懸命に料理するシャルロットの姿に心打たれた。
「傷の方は大丈夫なのか?」
「まだちょっと痛いけれど……明日は私も出るわ!久しぶりに星華に会いたいもの!」
自信満々に俺を見上げながらそう言うシャルロットに返す言葉に、一瞬詰まる。だって、今もなおその傷跡を片方の手で抑えている。でも、否定するのも、シャルロットの覚悟を傷つけてしまいそうで憚られた。
「まぁ明日の調子次第にしろよ……今日は早めに寝て、しっかり回復してくれ」
その言葉を聞くと、シャルロットは少し頷いて料理に戻った。
しばらくして、ガレットが四人分長机に並べられる。もう何日も連続でガレットを食べ続けているわけだが、それでも飽きない。どんどん磨きがかかってきており、初めのひとくちが毎日の楽しみになっている。
『バリッ』
香ばしい匂い漂う部屋に、外側の生地をかじる音が響いていく。「これだよこれ!」と言わんばかりにがっつくギデオンと、静かに頷きながら一口一口丁寧に食べる幻真の姿が、なんとも微笑ましいというか、なんというか……
すごい、幸せだった。これが嵐の前の静けさであることは重々承知だが、この幸せが、これから先もずっと続いてほしいと思った。
いや、この幸せを守るために、俺も必死に戦わなければ。
みんなとは違う表情でガレットを貪る俺を、不思議そうにシャルロットが見つめていた。
翌朝、ランスを握り外に出た。寝て起きてもまだ星が輝いているこの世界に来て、多分二ヶ月くらい。この旅も、佳境を迎えている。
馬に飛ぶ乗るように跨り、先頭で雪景色を掻き進む。
「何急いでるんだよ!行き方も知らないくせに!」
ギデオンが俺の隣に並びながら叫んだ。すぐに幻真とシャルロットもそれに追いつく。辺り一面の雪景色に浮かぶ、四人の人影。信じられるのも、頼りになるのも、それだけだった。




