第30話 運命の裏切り者
「選ばなかった未来……?」
「あぁ、信じられないと思うけど、僕と幻真、シャルロットは一度、その世界で出会ってる。もっとも、そのことを覚えているのは、過去に戻れる幻真だけだけどね」
なら、ギデオンと幻真、シャルロットは、この戦いをもう一度経験しているということなのか……なら、シャルロットはすでに二人のことを知っていて……いや、それはない。言動から判断するにそれはありえない。
「な、なら教えてくれよ!その世界はどうなった?!」
「僕から説明するよりも、幻真からの方が詳しく聞けるんじゃない?」
ギデオンが幻真へ視線を送る。幻真はガレットを頬張っており、それを一度ゴクッと飲み込むと、落ち着いた声で話始めた。
「私の能力は、数秒前に世界を巻き戻す能力。でも、夢見人は死ぬ直前、望んだ夢を叶えるための力が与えられるの。私に与えられたそれは、あの全ての始まりの日を、やり直すことだった」
◆ ◆ ◆
私は、あの世界で一度地獄を見た。
過去に戻っても、忘れることはない。嫌でも目に映り込む、背けることができないほどに広がる、死体の大地。
その日私達は、アルトラ帝国に、敗北した。
──────────────────────
私は夢見人になり、一人この国を彷徨っていた。雪の降りしきる中、太陽の昇らないこの国で、一人、ただ歩いた。
それから数ヶ月経ち、ここでの暮らしにも慣れ始めていたとき、森の中で、ある青年と出会う。
彼こそがギデオン・リアドであり、後の私のパートナーであった。
彼は私と同じ夢見人であり、数秒前に遡るだけの私の能力と対象に、未来に干渉する能力だった。
彼は右目に『予知夢』、左目に『正夢』と名付けられた能力を宿していた。
それぞれ、『予知夢』は、断片的な未来を予測することができる能力、『正夢』は、視界に映し出したものの本質を見通す能力。
そんな彼が予言したのは、この国の崩壊だった。
数カ月後に現れる、アルトラ帝国という国によって、この白い国は灰燼に帰すと。
ギデオンは、この国を救うために戦うと言った。
私はそれに、間髪入れずに賛同した。夢も忘れ、何の目的もなかった私にとって、彼は羅針盤のような存在だったからだ。
そこから私達は、その未来を変えるため、日々奮闘した。
そんな旅の中で、私達はもう一人の仲間と出会う。
彼女はシャルロットと名乗った。アルトラ帝国に祖国を滅ぼされ、この国へ逃れたらしい。
シャルロットは戦闘面での活躍は少ないものの、その温かな立ち振舞で、私達のぎこちない空気感を和ませる、精神的支柱であった。
この三人で、私達は戦った。来たるべきその日まで、やれる限りの準備をした。
だが、私達は一つ、絶対に変えなければならなかった運命を、取りこぼしてしまった。
いや、必死の思いで努力したが、変えられなかった。
それが、対魔征討軍のレーヴェ遠征だ。
言葉では、当然彼らを止められなかった。その結果私達が出たのは、武力行使により、無理やりにでも止める、横暴な策だった。
しかし、私達は見誤っていた。彼らの個の強さを。三人では、全く持って話にならなかった。
その中でも、総司令官フェルヴィナント・フォン・トラオム、彼の戦闘能力の高さは常軌を逸していた。
そこで私達は成すすべもなく敗北し、遠征を止められなかったどころか、対魔征討軍との関係も、悪化させてしまった。
こうなってしまうことは、断片的な未来しか知り得ないギデオンの能力では知ることが出来なかったのだ。
私達は何もかも失った、どん底の状態で、対魔征討軍の帰還と、刻一刻と迫る、アルトラ帝国の襲撃を待つことしか出来なかった。
そして、アルトラ帝国がこの国へ侵略を開始したその日、一瞬にして、この国は戦火に飲み込まれた。
対魔征討軍が応戦し始めたのは、襲撃されたその日から。私達の信用は地に落ち、ギデオンの予言など、聞き入れようとはしなかった。
結果、逃げ遅れた住民は、大量の魔獣に惨殺され、この白い大地が、一日にして紅に染まった。
対魔征討軍の兵士も、応戦したところで変わらなかった。遠征ですでに削られた彼らでは、何万もの魔獣の軍隊の前では、まともに戦うことすら出来なかった。
私達も戦った。必死に薙刀を振るい、必死に短剣を指し、必死に弓を引いた。だが、もうどうにもならなかったのだ。
まず最初に、シャルロットが死んだ。
今でも覚えている、下半身を食いちぎられたシャルロットの絶望に染まった、あの表情を。足元に転がってきたそれが、私を見上げたときに感じた、あの吐き気、言葉にすらできない、あの無力感を。
そして、ギデオンも死んだ。
夢顕兵装により魔獣化し、アルトラ・アーレントに支配された対魔征討軍の少し縁のあった少女にその目を潰され、そのまま胸を貫かれ、地にひれ伏した。
私は二人を回収し、必死に逃げた。もうこの国には誰一人として生き残りはおらず、戦っても無駄だった。
背中を何度も斬り刻まれ、血反吐を吐きながら走った。
そうして私は、森の中の岩陰の中に身を潜めた。だが、私自身も、もう死ぬことを確信していた。
木々の隙間から見える、その絶望の炎を見上げながら、私は考えた。
どうすれば、この未来を変えられたのか。どこで私達は間違ったのか。
そして、どうすれば、私達は救われるのか。夢見人になってもなお、こんな苦しみを味合わされる理不尽に、心の底から拒絶した。
あらゆる後悔を洗いざらい吐き出し、二人の絶望に満ちた寝顔を眺めながら、決意を固める。
もう一度、この世界に、この結末に復讐してやると。それに相応しい復讐者と共に、この運命を、裏切ると。
ご覧いただき誠にありがとうございます!




