第28話 正義の躍動
魔獣が吠える。それと同時に、三本の手が俺めがけて繰り出される。
とっさに木の後ろへ滑り込む。
拳は木に直撃し、その天まで届く巨木が魔獣向かって倒れ込む。だが、それも余った腕で軽くあしらわれた。
この魔獣の厄介なところ、それはこの巨体と手足の多さだ。この巨体は俺らの攻撃にびくともせず、怯んだところを避けきれない反撃が炸裂する。
ジワジワ削るか、一撃に賭けるか……
幻真の能力は不明。あの薙刀は火力があるが、それでもこの魔獣を殺すのには不十分。
でも、持久戦になれば、魔獣の方が圧倒的に有利だ。移動、連戦の疲れで、俺達はすでに限界が見え始めている。
つまり、俺が、決めるしかない。
まずは、その自由を奪う。肉で覆われている部分は、まだ貫けない。でも、その羽根なら……
「幻真!羽根を狙え!そこなら、まだダメージが与えられるはずだ!」
攻撃を凌ぎながら、幻真はこちらを一瞥し、短く頷いた。
その四本の羽根は、遥か上空で羽ばたき続けている。届かない。
だが俺は見た。こいつに乗っ取られた俺自身が、魔獣の顔面付近まで到達していたことを。
「おい、正義の使者。ちょっと力貸せよ」
その呼びかけに呼応するように、さらに強く、このランスは俺の体を侵食した。
力漲る。今なら、どこまででも翔べる。
白い大地に、爪先だけの大きな足跡を刻む。
地面は、込められた力を、全て俺に向け返した。
その力に押し出され、宙に浮く。魔獣を越え、巨木を越え、雲を越えた。
そこから見る景色は、異様な程に、美しかった。
そんな風景が一瞬目に映り込み、俺の体は落下し始める。
四本の羽根を、全て攻撃することは出来ない。でも、片方の二本なら……
いや、待て、この高度があれば、加速した勢いで、魔獣を貫けるかもしれない。
無茶か、ここからじゃ、動き回る魔獣の頭に標準が定まらない。なら、確実に当てられる、大きな羽根を狙ったほうがいいか。
ランスの穂先を標的に合わせ、頭部への一撃必殺を諦めかけていたそのとき、幻真が、木に飛び移りながら、魔獣の羽根を狙っているのが見えた。
常人離れしたスピードで、どんどん木に飛び移り、高度を上げていく。
巨木の頂点に達した幻真は、魔獣の背後から、羽根めがけて跳んだ。大きな三日月を模した薙刀が、左側の羽根を一閃した。
羽根が雪のように宙を舞う。それと同じように、魔獣も地面に落下した。
だが、魔獣もそれで終わらない。すぐさま倒れていた巨木を振り下ろしし、空中の幻真を地面に叩き落とした。
それを映した俺の目には、間違いなく、復讐の炎が宿っていた。
ランスに全体重をかけ、堕ちた魔獣に向けて、急転直下する。
ますます加速する。風を切り、周りの音は聞こえない。
魔獣の姿が大きくなっていく。完全に、捉えた。
『ズドォォォォォン』
気づいた頃には、全身に強烈な衝撃が走っていた。そして、ランスも手も服も、血まみれになっている。
俺が目を開けたその瞬間、魔獣の巨体が、後ろへ傾いていった。そのままそれは、背中から地面に倒れ込み、その衝撃は、俺達に決着を知らせた。
一度、大きく息を吐き出し、幻真のもとへ走る。
「無事か?!」
そこでは幻真が天を仰ぎながら倒れ、血を吐いていた。
「重症だけど、死んではいないわ」
その幻真の傷跡は、決して俺に安心感を与えなかった。自分よりも背の高い幻真を背負い、それぞれの武器を持って、足を引きずりながら、馬のもとへ向かった。
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