第24話 悪魔の取引
外では相変わらずの雪景色。だが、この街の街灯は明るく、奥までハッキリと見渡すことができる。
出口の先で、ギデオン達が待っていた。また、俺達の戦いが、幕を開けてしまう。
「よーし、じゃあ早速、魔獣狩りを始めよう。最初のターゲットは、カウニータ・ウニア周辺の海を支配する、シーサードラ厶トだ」
ギデオンが口にした、シーサードラムトという魔獣の名前。なぜか聞き覚えがある。海を支配するという特徴からも、恐らくはシーサーペイントの、この世界での呼び名なのだろう。
あ、そういえば……
「俺、武器ないんだけど……」
「え、マジか……」
武器がなければ、強くなったとはいえ、流石に魔獣とは戦えない。
てか、ファフニールの討伐に協力したら、とっておきの武器を譲渡する的なことを、星華が言ってた気がする。
それを思い出してしまい、どんな最強武器が手に入るのだろうと、居ても立っても居られなくなり、気づけばまた、対魔征討軍総司令部の中へ走り込んでいた。
勢いよく扉を押しのけ、星華のもとへ辿り着く。
「お主……どうしたのじゃ?まだ拙者に何か……」
完全にあの約束を忘れ飛ばしている星華に、あの約束をしたことを話した。
「そ、その件なのじゃが……拙者が無断で総司令部の武器庫から盗み出していたその武器が、実は夢顕兵装だったのじゃ……じゃから……その……渡せないでござる……」
何でそんな危険物を適当に管理してんだよ……いや、こいつが無理やり奪った可能性も無きにしもあらずか。
シャルロットに渡したあの杖も、勝手に盗み出した夢顕兵装のひとつなのだろう。
この後の星華の処遇が心配になってきた。
「申し訳ござらぬ……」
また、星華が頭を下げる。
武器は最悪、街の鍛冶屋で調達すればいい。だが、俺はこの世界に来て、どうしてだろう、何故か、力に貪欲になった気がする。
夢顕兵装が危険なものだとわかっていても、それを手にとってみたくてしかたない。たとえそれが、我が身を滅ぼそうとしようが、今なら跳ね除けられる気がする。
だから……
「なぁ、星華。立場上、お前がそうすることは出来ないことは知ってるんだけど、それでも、俺に夢顕兵装を譲ってくれないか?」
「……正気か、お主……お主がもし、完全に侵食されれば、誰も止められなくなるでござる」
「あぁ、それも承知の上だ。だが、それでも俺には力が必要なんだ。だから、頼む……」
「そう言われても……」
星華が頭を抱える。だが、こいつは盗んできた武器を適当に他人に押し付けるような軽率なやつだ。
恐らく、頼み込めば、案外渡してくれるだろう。
「頼むよ、絶対にうまく使うからさ!」
「うぬぬ……」
かなり考え込んだあと、星華がコクっと頷いた。
「良いか、誰にも言うんでないでござるぞ」
「あぁ!」
こんな簡単に受け渡していい代物ではないと思うのだが、星華はチョロかった。
対魔征討軍からの目線を避け、星華に連れられた。向かった先は、初めて星華と出会ったあの鍛冶屋。
その部屋の奥には星華が隠し持っていた武器が多数収納されていた。かなり、異質な武器が立ち並んでいる。
そこから、星華は一つ、武器を取り出した。それは、極限まで細く削られたかのような細さの槍、いや、この形状はランスという表現の方が正しいかも知れない。
漆黒の穂先に光が反射する。グリップ部分の後端には馬の尻尾のようなものがついており、どこか和風というか、中華のような静かなる華やかさを感じる。
それを星華は俺に手渡した。
「これは、拙者が討伐した魔獣の素材を用いて作られた、思い出深い夢顕兵装じゃ。この魔獣は、人に害を成さない、むしろ、悪を滅する魔獣だったのじゃが、拙者が誤って討伐してしまったのじゃ。じゃから、大事に使ってやってくれ」
とんでもないことを、しれっと暴露してきた気がするが、今はとにかく、俺にのしかかるようなこの武器の重さで潰れてしまいそうだった。
なんだ、これ……大きさは二メートルくらい。大きいが、これほどまで重いか……
あまりにも重厚感に、この武器を扱う資格があるかどうか、試されている気がした。
その冷たいグリップ部分をギュッと握りしめた。これを持ち運ぶのは、少々骨が折れる。そんなことを考えるたびに、この武器が問いかけてくる。
『貴様はそれほどまでに、惰弱な愚か者かのか……?』
声は、さらに冷たい。一切の感情を持たずに、ただ俺に問いかけてくる。全身の身の毛がよだつ。
「やってやるよ……」
冷や汗が頬を伝いながらも、俺はいつの間にかそう言っていた。
「ありがとう、星華!」
俺は星華にそう言い残し、最後に少しだけ振り向いて、笑いかけた。
「ご武運を……!」
星華のその一声が、重たい武器を手に持つ俺の背中を、強く押した。
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