第23話 作戦会議
「それじゃあ、出発ね」
シャルロットが荷物をパンパンに詰めたバッグを背負いながら、俺の方へ振り向き、馬車に乗り込んだ。この街ではもう俺達はちょっとした有名人で、かなりの人が、俺達の見送りにやってきていた。
風はほとんどなく、雪が静かに降り積もっている。馬車は見送り達に囲まれており、何だかここを発つのが寂しい。
手を振って俺達を見送る人々に手を振り返していると、馬車はその白い大地を駆け始めた。
一つの馬車に、俺とシャルロット、星華、ギデオンと幻真が乗っているため、少し窮屈で、気まずい空間が展開されている。ここから数十分はこのまま移動するわけだし、どうにかしたい。
「……教えてほしいのじゃが、クライムはどうなった。拙者が、あの戦いで、どんな罪を犯したのか」
その静寂を破ったのは、以外にも星華だった。そこから、シャルロットが、優しく諭すように、何があったのかを星華に伝えた。
すべての話を聞き終え、また、車内が静寂に包まれる。星華が何を考えているのか、俺には健闘もつかない。
だが、これがクライムの望んだ結末なんだ。俺達は、彼に未来を託された。それは、俺もシャルロットも、星華も、受け止められているはずだ。
「お主ら、これから対魔征討軍に、協力を持ちかけるつもりなのじゃろう?なら、拙者が間を取り持とう」
その声を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。
どうやら、俺達の作戦は、うまく成功したようだからだ。
『パカラッパカラッ』
俺達を引く二頭の馬が、降り積もる雪をものともせず、俺達を目的地まで連れて行く。連れて行かれるがままに、俺達はその場所まで辿り着いた。
結局、ほとんど会話もせず、かなり気まずい空間だった。ギデオンがたまに何度か話しかけてきたが、その会話もあまり弾まなかったのだ。
ギデオンから聞きたいことは山程あるのだが、あの車内でそれを聞く勇気は俺にはなかったらしい。
馬車を降り、周りを見渡した。目に映り込んだのは、一度見たことがある、栄えた街並み。
そう、俺達は戻ってきた。星華とクライムに初めて出会ったこの街に。まぁ、クライムと出会ったときの記憶は俺にはないのだが。
星華を先頭にし、その後ろをついていく。住人達の中には、星華の帰還を喜ぶものや、俺達を不審がるものと、様々だった。
そうして、対魔征討軍総司令部の入口に到着する。入口の大きな扉に、星華は小さな手をあてた。
「もう遠征組は帰還しておるのだろう?ギデオン」
「あぁ、間違いない。数日前に、すでに帰還しているよ」
ギデオンが答えると、星華は力いっぱいにその扉を開いた。
ギギギッと音を立てながら開くその扉の前にして、俺の頬に汗が流れた。中からの緊迫感が、俺の鼓動を速める。
扉が開いた。開けたすぐそこに誰かいるというわけではなく、たくさんの部屋に分かれた、超大型の建物だ。
広すぎる……何部屋あるんだこれ……天井がありえないくらい高く、ロビーは走り回れそうなくらい広い。その想定外の大きさに、思わず声を失った。
「こっちでござる」
また、星華に連れられ進んでいく。その先にあった扉を星華が開いた。
その部屋の中心には、円卓とその周りに椅子が並べられており、月並みではない、星華と同等か、それ以上のオーラを放っている人物が数名着席している。
だが、それにしても空席が多い。俺達のために開けているわけではなさそうだ。
恐らく、そのレーヴェでの遠征で……
「ギデオン・リアド……朧幻真……!?星華、よく戻った。だが、この状況を説明しろ!」
座っていた一人の男性が、声を荒げて星華に問うた。それを見て、隣りに座っていたもう一人の男性が静止する。
「要件はすでに、君から聞いている、ギデオン・リアド。一度、着席したまえ」
その重厚感、威厳のある声が、俺にのしかかる。さり気なく席に着き、できる限り息を潜めた。
「空席が多いようだけど、やっぱり僕の予言をしん……ングッ」
話し始めたギデオンの口を、幻真がすぐさまに抑え込んだ。言わないほうが良いことを口にしようとしたのだろう。その幻真の流石のスピードには、未来が読めてもギデオンは抗えていなかった。
「今回の遠征について、君の要望を聞き入れなかったこと、素直に反省している。だからこそ今回は、あのことは水に流し、私達と戦ってほしい」
その男性は、俺達に頭を下げた。あまりにもすぐさま謝罪されたので、ギデオンも、流石に戸惑っている。
「いや、僕の方こそすまなかったね。もう少し良い方法があったかもしれない。だから顔を上げてくれ」
この感じ、互いの協力は得ることができそうだ。互いの目的が完全に一致し、片方ずつでは何も出来ないこの現状では、こうするしかないのか。
「これからの二十日間、僕達はアルトラ帝国の襲撃に備え、準備を進めないといけない。そこで、対魔征討軍と、それ以外で別れて、これから言う計画を遂行して欲しい」
全員の視線が、ギデオンに集中する。
「まず、対魔征討軍の人達には、夢顕兵装使用時の、副作用の克服。君達が克服帰光と呼んでいるやつだ。で、僕達夢見人は、この国に巣食う、強力な魔獣の殲滅を行う」
「何で?」
思わず間抜けな声で聞いてしまった。
「アルトラ・アーレントの力は、もはや神の域に達している。たとえ離れた場所にいる魔獣でも、その影響を及ぼすだろう。だから、それを未然に防ぐためだよ」
残り二十日間でそれを……少し不安だが、俺も強くなった。あの頃とは違う。十分に戦える。他のみんなもいるんだ。俺がビビっていられない。
「俺達よりも、対魔征討軍の夢顕兵装の方が問題だ。それはたった二十日間で、克服し切れるものではないだろうからね。現状、それを成し遂げているのも、総司令官と星華ちゃんだけだろうし」
「……拙者が?!」
星華が驚く。あの一戦を経て、あの力を自分のものにできたということか。だとしたら、かなりの戦力になるはずだが……
星華自身もその自覚がないのなら、またあの支配と暴走が繰り返されないか、少し不安が残る。
「心配要らないさ。星華ちゃんは、もうその力を思う存分使いこなせる。だから、問題はそれ以外だ」
ギデオンがそう言うのなら問題ないのだろう。なら、俺は自分のできることに集中しなくては。
「総司令官も、この方針で大丈夫?」
「あぁ、異論はない。私にできる最大限を尽くそうと思う」
「なら、決まりだな。決戦の三日前までには、俺達ももう一度、この街へ帰ってくるよ」
そう言うと、ギデオンは早くも席を立った。
「それじゃあ行こうか。もう、ゆっくりしている時間は無いからね」
もう出発するのか……まだ、知りたいことがたくさんあるのに。
立ち去るギデオンの背中に幻真も付いていく。遅れないように、俺とシャルロットもその姿を追いかける。
「覚、シャルロット……」
だが、それを、星華の声が一度妨げた。二人揃って星華の方へ振り向き返ると、そこでは、星華が深々と頭を下げていた。
「世話になったでござる……」
その姿に、シャルロットは笑顔で手を振った。
「またね……!」
その光景を眺めながら、少し寂しさを感じつつも、俺は対魔征討軍総司令部を後にした。
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