第22話 悪夢に魘されて
───たまに、こんな夢を見る。
どれだけ腕を強く振っても前に進めず、その姿を周りから嘲笑される悪夢を。
どれだけ必死に努力しようとも、変われない自分に、ベッドの中で嘆く悪夢を。
そんな悪夢に、俺は魘された。
「……る!……とる!……覚!」
「────はっ!シャルロット……ごめん、寝すぎてた」
ぼんやり広がっていく俺の視界に、シャルロットが俺の体を強く揺さぶっている姿が映り込んだ。
その瞬間、ホッと安心する。あの悪夢がそのまま、現実にならなくて良かったと。
まだ、目覚めたくない……
「早く支度してよ!今日は、あの作戦の決行日でしょ!」
「やっべ、そうだった!」
数日前から画策していたとある作戦を思い出し急いでベッドから飛び起きた。
クライムがこの世界から去ったあの日から、今日で一週間くらいは経っただろう。俺達は休養のため、クライムの家にその間滞在している。
それだけ時が経ってもまだ、星華は目覚めない。目が覚めたとき、星華がまた前を向いて生きれるよう、シャルロットと計画を練った。そして、今日がその決行日だ。
何故、今日星華が目覚めるとわかったのか、それは言うまでもなく、ギデオンの予言のお陰だ。
同じ屋根の下ではないが、ギデオンと幻真も、この街に在中している。その間に、ギデオンからかなり多くの情報を仕入れた。
その中でも特に驚いたのが、あの日、壊滅した街で人の死体が全く無かったのは、俺達より早く到着した星華が、ファフニールの襲撃から、すべての住人を、一人で避難させたからだということだ。
星華は、自分を犠牲にしてまでも、対魔征討軍としての仕事を遂行した。
そんな彼女に助けられた数百人の住人が、今この街に集合している。もちろん、星華に感謝を伝えるためだ。
「覚!多分、そろそろ星華が目を覚ますわよ!」
ついに来たか。
「よし、準備は出来てるぞ!」
そう俺が返事をすると、シャルロットはゆっくり星華の眠る部屋のドアノブを捻った。
部屋に入ると、まさに星華が目を覚ましたところだった。ゆっくりと、かけられた毛布をめくり、上半身を起き上がらせている。
「ここは……お主ら……拙者は、何を……ウッ!」
星華が急に、頭を抑え込み、項垂れこんだ。あの記憶が、フラッシュバックしてしまったのだろうか。だが、思い出すべきなのは、その悪夢じゃない。彼らを救った、その勇姿をだ。
「そうじゃ……拙者は、あの男に……」
そんな星華に、シャルロットが歩み寄り、手を差し伸べる。
「星華、顔を上げて。今日はあなたに見せたいものがあるの」
そう言ってシャルロットは、少々強引に星華の手を引っ張った。寝起きの星華は、うまく体を動かすことができる、引かれるがままに、フラフラとシャルロットについていった。
一階まで降り、そのまま玄関へ向かい、シャルロットは、外まで星華を連れ出した。
外で星華を待ち受けていたのは、彼女に救われた、あの街の住人たち。その中の子どもたちが、星華を見るや否や、彼女のもとへ走り出し、彼女の胸へ抱きついた。
「ありがとうお姉さん!」
一斉に、子どもたちが星華へ泣きつく。子どもたちだけじゃない。大人たちも、順番に星華へ感謝を告げる。その中には、花束などのプレゼントを差し出すものもいた。
星華はその間、表情を崩そうとしなかったが、次第に目元が潤み始め、ズズッと鼻水を啜る音が聞こえた。
それを見て、少し安心した。これほどの人を救った星華を、心の底から尊敬する。これほどの感謝を受け取れば、失われかけていた彼女の自身も、必ず取り戻せるだろう。
後方で腕組しながら、その光景を眺めていた俺のもとに、一人の男が歩み寄ってきた。
「無事、成功したみたいでよかったよ」
「ギデオン、お前のお陰だよ」
「なに、礼には及ばない。だが、覚くん、覚えてるよね?彼女が復活した日、対魔征討軍総司令部へ向かうと言っていたこと」
「あぁ、もちろん覚えてる」
そう、今日はここを去り、対魔征討軍総司令部に向かう日でもある。一ヶ月後に迫る、アルトラ帝国の襲撃を迎え撃つために、対魔征討軍の協力は不可欠。
だが、ギデオンと幻真の二人で向かうのは、何やら問題があるらしく、俺達にも動向してほしいとのことだ。
「彼女が落ち着けばすぐに出発できるように、僕たちは用意しておこう」
「あぁ」
嵐は過ぎ去ったが、またすぐに俺達を襲う。その猶予は、たったの一ヶ月。それまでに俺達は、奴らに対抗するための準備をしなければならない。
あの一瞬戦闘しただけでわかる。アルトラ・アーレントは別格だ。俺の一撃は、確かに奴の胸を貫いていたはずなのに、全くと言っていいほど手応えがなかった。
まず、何故今もアルトラ・アーレントが生きているのか。それも、こいつは知っているのだろうか。
ギデオン・リアド。俺と年は殆ど変わらない。それなのに俺よりも少し大人びていて、どこか信用できない。
これから行動を共にするわけだし、彼を信じないわけにはいかないが……
『仲間のことを、信じ通すべし』
そんなことを考えていると、この言葉が、ふと頭に浮かんだ。誰から言われた言葉だったか、少し曖昧だが、確かに俺は、そうお告げを受けた。
このお告げは、まさにギデオンのことを指していたのだろう。俺も、できることなら信じたい。だって、こいつも俺達と同じで、アルトラ・アーレントに、命懸けで戦った、一人の戦士なのだから。
まだ、この俺の心の中の問に、答えが出せそうにはなかった。
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