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【完結】夢見た世界でガレットを  作者: Pe.com
第三節 贖罪

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第20話 あの罪の贖罪

 恐らく、夢見人の能力によるものなのだろうが、今の覚はまるで別人だ。でも、どんな能力な……


「シャルロット、避けろ!星華が来てるぞ!」


 ……え?


 後ろに振り返ったときには、もう遅かった。


 目の前に、すでに刀を握った星華。クロスボウしかない私にそれを防ぐ術などありはしなかった。ただ、目を固くつむることしかできない。


『ザシュッ』


 き……られ…てない!なんで……


「あ……」


 目に映る、さらなる絶望。私をその一撃から守った男の背中だけが視界を埋め尽くす。


 その男の右肩ごと、奥から白い刀身が抉り斬った。肩から抉られた右手が飛ぶ。私の顔に、血飛沫が付着する。


「クライム……」


 そんな……私を庇ってクライムが……


「ッく……だが……まだだ!……あの日の事件現場(フェイトフル・アビス)!」


 また、クライムが能力を発動する。苦し紛れの反撃。


 そして吹き飛んだ星華の右腕。その腕に握っていた白刀も一緒に宙を舞う。


 これで、星華の暴走、アルトラ・アーレントによる支配から断ち切れる、そう思っていた。


 だが、実際、そうはならなかった。右腕を失ってもなお、その狂瀾に満ちた目が、まだ私達を睨みつけている。


『キンッ』


 駆けつけた覚が、何とかその一撃を防ぐ。片手を失ってもなお、星華のスピードは下がらない。それどころか、上がり続けている。それに乗じて、覚もさらに速くなる。


 間に割って入ることなど不可能で、もう立ち尽くすことしか出来ない。そんな私の隣で、クライムは抉られた右肩を必死に抑え、地に膝をついている。


「クライム……ごめんなさい、私のせいで……」


「……あなたのせいではありませんよ。ですが、もう、まともに戦えそうにはありませんね……何故かわかるんですよ。多分、私はもうすぐに死にます」


「何言って……まだ、治療すれば助かるわよ!だから、動かないで!」


 だが、クライムは立ち上がる。私の静止など気にする様子もなく。フラつきながら、二人が闘う方へ向かってしまう。


「ダメよ!戻って……本当に死んでしまうわよ!」


「……シャルロットさん、ありがとうございました。あなたが、私を救うと言ってくれて……それだけで、私は救われました。私は一つ、重大な勘違いをしてたんです。私はこの罪をなかったことにしたかったんじゃなかった。私はただ、こんな孤独な私に寄り添い、『私は悪くない』と言って欲しかっただけだった」


「なら、まだ……まだ死んじゃだめよ!まだ、あなたの傷は、癒えきってない!」


 クライムが振り返る。今まで、私に見せたことのない、彼の笑顔。それは狂気的なものではなくて、優しすぎる、眩しすぎる、全てに満足したかのような満面の笑み。


「もう、これも必要ありません……なら、今ここで!」


 クライムの左手には、あの武器が握られている。街で魔獣の襲撃にあったときに、使おうとしてやめてしまった、あの武器。クライムの過去で、少年のクライムが使っていた、あの武器だ……


 でも、なんでそんなものを隠し持っていたのだろう……


 クライムが走る。その肩を抑え、血を滴らせながら、覚と星華の戦う方へ。


「覚くん……ごめんなさい……」


「は?!」


 クライムが、星華と刃を交えていた覚を突き飛ばした。


 そして、再び相対する、クライムと星華。だが、星華は速い。決して、クライムの攻撃も、覚の立ち直りも待つことはしない。


『ザシュッ』


 その斬撃は、無慈悲にもクライムを斬り裂いた。右肩から左足にかけて、紅の傷跡がクライムに刻まえる。


 クライムが地面に倒れ込む。だが、その武器は離さない。手の血管が浮き出るくらい、強く握りしめ、それを離さない。


 そして、その先を星華に向ける。


 その光景は奇しくも、あの日の事件現場と、完璧に一致する。


「これが、私の最後の贖罪です……『あの罪(フェイトフル)の贖罪(・アトーンメント)」


『バンッ』


 そこから、鉛玉が打ち出される。それは、数メートル先の星華を捕らえ、その胸部を撃ち抜いた。


 だが、確かに直撃したのに、星華に傷がない。痕もないし、血も出ていない。


 それなのに、星華は地面に突っ伏した。そこに霧が立ちこむ。クライムが能力を使用したときと同じように。


 霧が晴れる。そこで見たのは信じられない光景だった。


 出会った頃と変わらない星華の姿。魔獣のような見た目でもないし、片腕が無くなってもいない。


 まだ、気を失っているが、無事だ。戦闘で追った傷も、全てが回復している。


 でも、こんな力があるのなら、なぜ最初から使わなかったのだろう……クライム自身に撃って、その傷を直すことも出来たはず……


「これで、星華さんを助けるという目標は……達成ですね……ゴフッ……」


 クライムが血を吐いた。肩からも、他の傷口からも、大量の血が地に流れている。


「クライム!早く止血しないと……!」


「いや、もう無理でしょう。私はもう助かりませんから……」


「なら、なんで、その能力を早く使わなかったのよ!」


「夢、見人は……皆さんが想像してい、るよりも……強大な存在です……私も、それに、今、気づ、かされました……」


 クライムの声に、力強さが無くなっていく。

「今の力も……数日前ま、で使えなかったんです……だが、最後に与えられた……理想を……夢を叶える力が……ですが、私がそれを……自分ではなく、星華さんに使ったという、だけのこと……ゴフッ……」


「わかった……!わかったから!もう喋らないで!まだ、助かるかもしれない……早く治療できれば!」


 自分でもわかっている。もう、クライムが助からないことは……でも、そんなの苦しすぎる。だって、こんなにも優しい男が、自分の理想を捨て他人を救ったのに、元の世界に戻れば、また、犯罪者扱いされるなんて、そんなの私が許せない……!


「ハハ……何で泣くんですか、シャルロットさん……言ったはずですよ。私の、夢は、すでに叶ったんです。もう、夢見人として、悔いはない……」


「でも、それでも、あなたが救われてほしかった……!あなたの優しさが、誰にも認められないなんて、そんなの、あまりにも……」


 泣き崩れる私と、倒れ込んだクライムのもとへ覚が歩み寄る。何が起こったのか、まだ飲み込めていないようだ。その瞳に、うっすら浮かべた涙の雫が、戦場の炎と、傷だらけのクライムを映し出している。


「クライム……どうして……それに、何で星華は、無事なんだ……今、銃で撃たれたじゃないか……」


「……詳しくは、私もわかりませんが……この銃は、恐らく、私の願いそのもの、です。撃たれた対象の罪を、許す……というよりも、なかったことにする……恐らく神は、これを使って、あの日を、なかったことにさせてくれようとしたのでしょう……」


 もう、声を出すことすら、クライムはしんどそうであるのに、クライムは笑顔のまま、私達に話す。


「ごめん……俺、勘違いしてたんだ……お前を勘違いしてた……謝らせてくれ……それが、俺の罪だ……」


「いえ……謝る必要なんて、全くありませんよ……だって、あなたも、私を救ってくれた一人ですから……むしろ、ありがとうございます……ガ、ゴフッ」


「もう、もう喋るな!クライム!」


「……覚くん……最後に、お願いがあります……よろしいですか?」


「……グスッ……何だ……?」


「あな、たがあの世界に戻って、来たとき……私に、教えてくれませんか……この結末が……どんなものであったのか……私は、アメリカ合衆国のニューヨークの人間です……ですから、そこに向かえば……」


「あぁ、約束する!だから、安心してくれよ!……俺が必ず、俺達の望んだ結末に、この世界を導くから……だから、それまで……待っていてくれ……!」


 必死に頷く覚に、クライムが微笑む。


「……はぁ、なんて、良い悪夢だ……もう、目覚めのようです。太陽なんて、どこにもないのに、何故か、あの温かさを感じる……フッ、これが私の贖罪なら、あまりにも……美しすぎる……」


 クライムが、スッと息を引き取った。もう、何を言っても返事はない。燃え上がる戦場に、一人の夢見人が息絶えた。


 だが、クライムは負けたわけじゃない。後悔があるわけでも無い。だって、こんなにも幸せそうに眠っている。


 なら、私達が下を向いていてどうする……まだ、ギデオン達は戦っているんだ……


「行きましょう、覚……まだ、戦いは終わっていない」


 下を向いたまま、覚が頷く。涙を拭い、立ち上がる。


「あぁ……!」



ご覧いただき誠にありがとうございます!

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