第19話 奇策
◆ ◆ ◆
『ドオォォォォン!』
ついに、片方の魔獣が地に伏せる。
「やっと一体……」
だが、安心するまもなく、残った一体の魔獣が口を大きく広げながら、私達を追う。
三発目……残る矢の数は二本。
鉄球はまだ残っているが、それじゃこいつにダメージは与えられない。
恐らく、こいつがファフニールだ。さっきの魔獣は、まだ攻撃の通りが良かったが、こいつは違う。
普通の矢は論外で、鉄球すらも弾かれる。唯一通用するこのとっておきの矢も、残り二本。絶体絶命だ……
「シャルロットさん、攻撃が来ます」
「クッ……!」
狙われたのは私。ファフニールの鋭く尖った鉤爪が私の背後に迫る。
その射程外へ飛ぶ。思いっきり足を踏み込み、体を投げ出す。
『ズサァァァ』
間一髪。だが、これも長くは続けてられない。体力もジワジワと削られている。
だけど、私達が傷ついてないから、クライムも能力が使えない。使おうとして、わざと攻撃を食らったりしても、その一撃で殺されるかもしれない。
「クライム!何か策は無いの?!」
「……今、実行しているところです!」
その声からもわかる。クライムにも余裕がない。
だが、実行している……?全くそのようには見えない。私同様、逃げ回っているだけだ。
「私から離れて……あの矢を用意してください!」
クライムの声が私を突き放す。その声に、足はいつの間にかクライムから離れた方に走り、手はその矢に伸びている。
そして、ファフニールの標的が、私からクライムへ移り変わる。クライムが一人でファフニールを引きつける。
どこに誘導してるんだ……だが、覚たちが戦っている方へ近づいてしまっている。もし衝突すれば、互いに最悪だ。
「クライム!そっちは覚達が戦ってるわ!そっちに誘導しては……」
「いや、それが狙いです。シャルロットさんは、追撃の準備を」
……追撃?!何が狙いなのかわからない。
すぐそこで、覚と星華が戦っているのが見える。
それは、まさに異次元。覚にあんなスピードがあっただろうか……星華の攻撃を全て防ぎ、隙を突き、反撃する。あの化物と対等に渡り合っている。
でも、もしそこにファフニールが乱入すれば、すぐに均衡は崩壊してしまうだろう。
だが、クライムはそこに向かって走り続ける。それをファフニールは追う。もう、衝突する……!
クライムに伸びるファフニールの一撃。振りかざすのではなく、薙ぎ払われた手が、サイドからクライムに迫る。
このままでは、覚と星華にもファフニールの攻撃が当たる……いや、そうか。それが狙いか……
「覚くんっ!避けてください!」
覚がそれに気づく。一瞬戸惑ったが、すぐに状況を理解したのか、ファフニールから距離をとった。クライムも必死に地面を転がり、その攻撃を避ける。
そして、星華だけが取り残された。
『バゴォォォンッ!』
振り払われたファフニールの手が星華に直撃する。吹き飛ばされた星華は、残骸の山を何度も貫通し、最終的に街を囲う石壁に打ち付けられた。
一か八かの、クライムの作戦が成功する。
「誘導して、不本意の罪を犯させる……正直、私にとって最悪のやり方ですが……だが、そうしてでも、守りたいと、救われたいと思ってしまった……」
吹き飛ばされた星華の方を申し訳なさそうに見つめながら、クライムがファフニールに近づく。来る……あの能力が……
私も追撃の構えを取る。
「あの日の事件現場!」
そして、再現される、ファフニールの罪。
濃霧が立ち込み、それが晴れたときには、完全にさっきと同じ風景が重なる。
そして、クライムだったファフニールが右手を薙ぎ払う。ファフニールだった星華が、また壁まで吹き飛ばされる。
その一連の事件が再現され終わると、互いに元の姿に戻る。
壁に打ち付けられ倒れ込むファフニールに、私は標準を合わせる。これで、終わらせる。
『ヒュンッ』
放たれた矢が風を裂き、ファフニールの頭部に襲いかかる。
『ドオォォォォン!』
激しい爆発音が、その戦場に響く。この一撃で、流石に……
そ、そんな……まだ、息がある……
「いや、俺がいく」
シュンッと私の横を誰かが横切った。見えなかった。覚だ。なんてスピードだ。
すぐさまファフニールのもとまで到着し、その大鎌を振りかざす。あの時とは違う。確実に、ファフニールの首にその刃が食い込んでいっている。
「アァァァァァァァァァッ!」
『スパンッ』
大鎌が、ファフニールの首を完全に斬り裂いた。勢い余って振り上げられた大鎌は宙に弧を描き、月すら見えないその戦場に、紺青の三日月を描いた。
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