第18話 覚醒
◆ ◆ ◆
『ドオオオン!』
後方から、激しい爆発音が聞こえてくる。恐らくシャルロットたちだ……
だが、他人の心配をしている暇は無い。
「再戦だな、星華」
「逃げ……ろ……覚…このままでは……お主を殺してしまう……」
ここまで変貌してしまったのに、まだ僅かに自我が残っているのか。
この状態の星華を、どう助け出せばいい?
この二刀の夢顕兵装の影響で魔獣化しているのなら、もし破壊することができれば……
ただ闘うだけでは埒が明かない。まずは、それを狙ってみよう。
星華が刀に手を掛ける。俺も、この武器を構える。まずは大鎌の形態。突っ込んで来た所で、変形し、意表を突く……
一瞬、時が止まる。
『チャキンッ』
来る……!
『────プシャ』
クソが……あまりにも速すぎる。変形する時間なんて無い。
だが、今の一撃で気づいた、星華の弱点。速いが、一撃一撃があまりにも軽い。
それに、あの神速の一撃を放った後、大きな後隙がある。
いける。勝てない勝負じゃない。
『カチャンッ』
今度は別の刀。恐らくあれは、さっきのとは違い、超高火力の一撃。当たれば死。だが避ければ、その隙を突いて反撃できる。
星華がゆっくりその刀を抜く。そこから放たれる光は神々しいのに禍々しい。
止まっていては、あれをまともに喰らってしまう。 瓦礫の後ろなどに隠れながら、星華の周りを走り回る。
焦れ……これで少しでも星華の気が紛れ、手先が乱れれば……
走り惑う俺のほうに、星華は迷うこと無く刀を振り払った。
見誤った。この一撃は、あまりにも……
『ドゴォォォォォォン!』
「…………ガハッ……オエッ……」
何とか、直撃は避けることができた。でも、範囲が広すぎる。完全に避けることなど不可能だ。
このままじゃ、絶対に勝てない。それだけは嫌だ。
俺も、理解しなくてはならない。俺がなぜ、夢見人になったのかを。俺はこの夢で、何を叶えたいのかを。
それを自ら理解し、俺が夢見た力を手に入れなければ、こいつには勝てない。
思い出せ、逢坂覚。
あの日の屈辱も、絶望も。それらを打ち砕くために、何を願ったのかを……
また、あの神速の攻撃が来る。
この戦いにはタイムリミットがある。星華の体が魔獣に完全に侵食されるか、あまりの力に星華の体が持たないか、そのどちらかが訪れても俺の負け。
時間は無い。迷っている時間は!
『チャキンッ』
「落ちろぉ……『無明の……流星!』」
その瞬間、また星華が視界から消える。気づいたときには、もう俺の背後に。
『ピュシャ!』
見えもしない無数の斬撃に、すでに俺は切り裂かれている。遅れて気づいた俺の体が悲鳴を上げる。
「ガァァッ!」
俺が死んでも負け。こいつが死んでも負け。
敗北した自分は、こんなにも想像できるのに、勝ち筋は一向に思い浮かばない。
だって、こいつは俺よりも速い。俺よりも一撃の破壊力も高い。それなのに、こんな俺がどうやって勝つ?
『チャキンッ』
『────ピュシャャン!』
無理だ。あいつが隙を見せたところで、反撃をする余裕が俺には無い。
服は切り裂かれ、血まみれの体が露出する。今は辛うじて耐えているが、次の一撃は、内臓まで届く。
『敗北』
その二文字が脳裏に浮かぶ。圧倒的強者に、どれほど歯を食いしばっても、勝つことの出来ない現実。才人に、積み重ねてきた努力を打ち砕かれる屈辱。
今まで、何度も味合わされてきた。
だが、今回のこれは、少しわけが違う。
俺が負ければ、次はみんなが殺される。信じて送り出してくれたあいつらが。
これまでの、誰にも期待されず、何も背負わずして味わったそれとは訳が違う。
初めて、誰かに託された。俺にしかこれは出来ない。
だったら、相手が誰だろうと、俺がどれだけ弱者だろうと、泥臭く、戦い抜く。
これは、あの地獄への復讐のためじゃない。この夢を守るためのに見つけた、そのために与えられた、俺の力だ。
見つけられた気がする、俺の夢を。
『夢反剋上』
俺の理想が脳内に溢れる。
強者への下剋上。俺の夢見たその瞬間が、何もかも叶う気がする。
星華が刀に手を掛ける。しかも両刀。
『チャキンッ、カチャンッ』
星華が、静かに光る黒刀を右手に、雲を裂く光を放つ白刀を左手に、俺に斬りかかる。
それが見える。
これ程度なら、この大鎌だけで十分だ。
『キンッ』
初撃を刃で受ける。
『ガンッ』
二撃目も……三撃目も……!
目で追える。それに合わせられる。
スピードも、力も、すべてがこんな俺と拮抗している。
今ならいける。星華の攻撃の隙を突き、武器の形態を長槍へ変形させる。
急にリーチが変わり、理性のない星華が動揺する。
『シュパッ』
長槍の先端が星華の脇腹にかすれる。直撃はしない。かすれただけ。だが、初めて星華にダメージを与えることに成功した。
「何故じゃ……何故、貴様が……拙者の攻撃に……」
突然、スピードも力も、格段に上がった俺に、星華は驚きが隠せていない。
『夢反剋上』
恐らくこれは、格上の強者との戦闘時にのみ発動する、俺の能力。強者への憧れではなく、自分を見下されたことへの嫌悪感から生まれた、俺の夢。
この能力の詳細を、完璧に把握したわけではない。
でも、圧倒的強者を目の前にして、何故か胸の高鳴りが止まらない。今までは羨み、憎しみを抱くことしか出来なかった俺が。
自分の願いを知れて、心底気持ちがいい。
強者になれたからではない。というか、強者にはなっていない。これは弱者の願いだ。逆転を夢見た俺が思い描いた理想そのものだ。
「さぁ、始めようか、下剋上」
ご覧いただき誠にありがとうございます!




