第17話 決戦
外に出た。雪はますます深く降り積もり、足取りも視界も悪い。月も星も見えない。風が強く吹付け、雪が私の顔を横殴りする。
それでも、私は、前へ進む。
「ごめん、シャルロット。俺も、闘うよ」
そう、どれだけこの世界が暗くても冷たくても、私は一人ではなかった。
「馬車を借りましょう。そうした方が早く着く」
そう、どれだけこの世界が理不尽にみちようと、それが私達に牙を剥こうと、立ち上がることができる。
「シャルロットさん……ありがとうございます」
わかり合えないこともある。その痛みを知って、私はまた、強くなれた。
『パカラッパカラッ』
猛吹雪の中、馬が力強く私達を運ぶ。だが、この三人の中に、馬車を操縦できる人はいなかったため、助っ人を呼んだ。
「目的地までは連れてくが、俺はすぐ引き返すぞ」
そう、武器屋のマスターだ。片道だけという約束で、馬車の操縦を引き受けてくれた。
マスターの操縦する馬車はとてつもないスピードで、風を切り、音を置き去りにし、疾風迅雷の如く進み続けた。
『ドオオオオオオン!』
遠くから、激しい衝突音が聞こえてくる。それと同時に、地面は激しく揺れ、馬が思わず急停止する。
「キャア!」
マスター含め、乗っていた全員が地面に投げ出された。雪が積もっているお陰で怪我はない。
「二人とも、ここからは走って向かいましょう。これ以上の接近は彼が危険です」
「マスター、本当にありがとう!戦いが終われば、絶対にお礼に行くわ」
そう言うとマスターは誇らしげに笑い、投げ出されたバックの中から、何やら木箱を手に取り、私へ渡してきた。
「礼には及ばねえ。この国の危機なんだ。嬢ちゃん、そのクロスボウでは満足出来ないって言ってたろ?それ、持ってけ」
木箱の中には、もう一台のクロスボウと、鉄球。そしてただならぬオーラを放つ五本の矢が入っている。
「そのクロスボウは、その鉄球を装填して使え。その五本の矢は、いざというときに使うんだ。それじゃあ、健闘を祈る」
真剣な面持ちで私達を見るマスターに、私達一同は一礼し、戦場へ向かって走り出した。
すでに誰かが戦っている。早く向かわなければ、また死人がでる。
この戦いに、一番乗り気でなかった覚は、すでにその大鎌を構えて、誰よりも早く走る。
その後ろに、クライムと私は必死に喰らいつく。
そして、ついに街へ到着する。
すでに見えてはいたが、建物は燃え、もう街の形を保っていない。だが、人の死体も見当たらない。すでに、避難は済んでいるのだろうか……
燃え広がる炎の中心へと足を進める。そして、徐々に見え始める、四人の人影と、二匹の魔獣。
二人の人影と、二人と二匹の影が、睨めあっている。その隣には、すでに殺された魔獣が一匹。
「ギデオン・リアドと、さっきの女の人……」
そう、相対していた二組の内、一組はさっき森の中で出会った、ギデオンと女性だった。
その奥に、森で出会った、あの魔獣を連れていたフードの男性。そして、目に映したくなかった、予想はしていた最悪の悪夢が、炎を背に映り込む。
「星華……クソッ、やっぱり間に合わなかった!」
星華はすでに、夢顕兵装で魔獣に侵食されかけていた体を、アルトラ帝国の力で支配されているようだった。
顔は星華のまま、幼いままだ。だが、あの無邪気さも、正義に満ちた眼差しも、全てが失われている。
その代わりに、頭には二双の角が生え、牙が伸び、その姿は魔獣に近づいている。
構える二頭の刀は、以前よりも禍々しい光を放っている。
だが、まだ救える。ここにいる全員がそう確信している。
「なぜ俺の予言を無視したんだ……殺されるんだぞ……このままじゃ、お前たちも」
そうか、死ぬかもしれないのか、私……でも、とっくに覚悟は出来ている。
死ぬための覚悟じゃない、戦い抜く覚悟を!
もう誓ったから、逃げないって!
「ギデオンさん、私達はもう引きませんよ。諦めて、共闘をお願いします」
「クソが……どこで俺は間違えた……どこで俺は、未来を選び違えたんだ……!?」
「二匹の魔獣は、私とシャルロットさんで引き受けます。残りは、皆さんにお願いしますよ」
大鎌を構える覚が、ギデオン達の一歩前に出て、星華やその男性、魔獣たちを見上げる。
「俺は星華を助け出す。それが俺達の目的だからだ」
「……なら、僕たちはアルトラ・アーレントを……行くぞ、幻真!」
そして、ギデオンと、幻真と呼ばれたその女性が、フードの男性に攻撃を仕掛けた。
だが、今確か、ギデオンはその男性のことを、アルトラ・アーレントって……
どういうことだ……彼は大昔の夢見人のはず……なのに、何で……
「シャルロットさん、考えていることは同じでしょうが、今は戦闘に集中しましょう。いいですか、絶対に私から離れないでください」
クライム……わかった。今それを考えるのは止そう。
星華を救い、生きて帰る。それが、私達の目的なのだから。
そして、戦いの火蓋が切られる。
ギデオン、幻真と、アルトラ・アーレントと呼ばれた男。
覚と星華。
私、クライムと、この二匹の魔獣。
それぞれの戦いが、今ここに始まる。
覚……どうか無事で……!
「シャルロットさん、離れた場所まで奴らを引きつけて戦いましょう。ここは、あまりにも次元が違います」
「そうね……でも、どうやって引き付ければ……あ!」
このクロスボウを使えば、奴らを引きつけられる!
二台貰ったクロスボウの内、鉄球を装填できる方を構える。
(ここだ!)
放たれた鉄球は、目にも止まらぬスピードで、一体の魔獣の顔面に直撃。その瞬間、ギロッとその魔獣の鋭い目が私に突き刺さる。
そして、その魔獣は私達の方へ、大地を抉りながら走る。
それにつられ、もう片方の魔獣もそれに続く。
「うまく、引き付けれましたね。このまま距離を取りましょう」
そのまま、魔獣から目を離さないようにしながらを誘導を続ける。
遠くからは、すでに覚たちが闘う音が聞こえてくる。
大地は収まること無く揺れ続け、衝撃波がここまで空気を裂いている。
これが、本当の戦争。
炎に囲まれているのに、背筋が凍り、体が震える。
『ヒュンッ』
だが、それでも戦わなくては……
魔獣の顔に、放たれた鉄球がクリーンヒットする。
また、クロスボウを構える。
今度はたった五本しか無い、とっておき。
これで一体、仕留めきる。
魔獣は倒壊した家屋や燃え広がる炎を気にせず、一直線に私のもとへ向かってくる。
その動きは単純明快だ。
『ヒュンッ』
その矢は、この薄暗い大地を照らし出しばがら、完全に標的を捕らえた。
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