第16話 救済
かなり、昔に書かれた文章だ。何十年では収まらない。何百年と前に書かれたものだろう。ところどころ判別不可で、綺麗に読み取れるところだけを、覚たちに読ませた。
ここから読み取れるのは、このアルトラ・アーレントという人物が、夢見人であるということ。そして、この能力と名前から判断するに、恐らく彼こそが、大昔にアルトラ帝国を築いた張本人であるということ。
そして、最も懸念すべき点は、この文章を隠蔽しようとした、あのアルトラ帝国の使者が、今もこの国にいるということ。
彼は魔獣を従えていた。もし、アルトラ・アーレントの力が現代にも生きているのなら、最悪だ。
嫌な予感がして、思考が回らない。
武器屋で聞いた、夢顕兵装の話が、頭から離れない。
私は問題無いだろうが、今もなお使用し続けている星華は、もし彼らと接触した場合……!
魔獣を従わせる能力があるなら、より強力な魔獣を求めるはず。なら、あの男性の向かう先も、恐らくファフニールの所……
とりあえず、今さっきあったことを、早口でクライムに説明する。早く伝えなければならない焦りのせいで、逆にうまく口が回らない。
「だいたい、状況は理解しました。すぐに、星華さんを探しましょう。恐らく、そのシャルロットさんの予感は当たっています」
「待て!探すっつても、無茶だろ!」
「……これはあくまで憶測ですが、やはり星華さんの向かった先は、ファフニールよる甚大な被害を受けている街でしょう」
「でも、もしそうだとしたら……ギデオンはファフニールのもとへ向かうなと言っていたんだ!行ったら必ず後悔するって、死人がでるかも知れないって!」
「そうですか……なら、やはりファフニールのいる街へ向かいましょう」
「てめぇ、話聞いてんのか!?」
珍しく、覚が感情的になる。クライムもクライムで、なぜギデオンの予言を聞き入れないのか。人助けを嫌っていたクライムが、なぜそこまで、星華を救うことに執着するのか。
「私はもう、これ以上罪を重ねたくないんです。そもそも、贖罪を果たすため、彼の予言を信じ、覚くん、君の前に現れたのですから」
「……何が言いたい?」
「もう私にできる贖罪は、誰かのために命を落とすことだけなんです。もし、その戦場に向かい、役に立って死ねるのなら本望。私は、幸福など、手に入れてはならない極悪人なのだから」
クライム……
なぜ、そんな悲しいことを言うのだろうか。
私は知っている。私が買い物や料理をしている間、彼はずっと、住人の手助けや、街の見回りを行っているところを。それを、見かけてしまった。
そんな心優しい彼が、たった一度の、それも、彼の意志じゃない罪で、凶悪殺人犯なんて仮面を被って、生きていく必要なんてない。
彼は救われなくてはならないはずだ。誰よりもまっさきに。
「行きましょう、覚。予言を破って死にに行くためではなく、クライムを救うために」
「シャルロット……?!」
覚は知らない。クライムがどんな男か。どんな悲劇に見舞われたのか。
そして、それを知ってもなお、他人には、彼を簡単に救うことはできない。私は理解した気になっているだけで、実際はないもすることが出来ない。
わからない。何が正解で、何が間違っているのかも。
わからない。彼らがなぜ苦しみ、なぜ復讐を果たそうとしているのか。
他人を知らなさ過ぎる私には、これっぽっちもわからない。
でも、それで投げ出したくはない。
彼らが復讐のために生きるなら、私はその痛みへの寄り添い方を見つけるために生きる。
「早く行きましょう!下を向いてたって、何も救えないし、救われないわよ!」
二人はすぐにはついてこない。それでも、私は振り向こうとはしない。
死ぬのが怖くないのではない。今も、足の震えが止まらない。
だが、このまま逃げたとして、恐らくその先にある後悔は、一生私の罪になるだろう。
それのほうが怖かった。
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