第14話 狂言回し
辛うじて勝利することが出来たが、今の魔獣はかなり強敵だった。彼の連れていた他の魔獣も、同様の力を持っているのだとしたら……
恐らく、星華やクライムでも、対処しきれないだろう。
何が目的でこんなところに……
そう思って、彼がいた場所に目をやると、木造の小屋?の残骸が、白い大地に倒れ込んでいた。
見たところ、ついさっき、彼が破壊したのだろう。そうでなくては、その上に雪が積もってないのはおかしい。
「覚!ちょっと来て!」
その倒壊した小屋のところまで、覚を連れてくる。
「なにこれ……小屋かなんかか?」
「今の男は、恐らくこの小屋を壊すためにわざわざこんな所まで来ていたのだと思うわ。……少し、怪しくないかしら?」
「見た感じそんなことないけどな……」
覚が、残骸を周りへ投げ飛ばしながら、何かないか探っている。だが、覚一人の力でどかし切れるほど、その残骸は少なくないし、軽くもなかった。
覚の息があがり、膝に手をついて休憩していたそのとき、一瞬、焦げ臭い臭いが私の鼻に入り込んできた。
だが、近くで焚き火をしている人などがいるはずもない。
そして、次の瞬間、覚が持ち上げようとした残骸の下から、ボッと炎が溢れ出す。
「アッツ!何だよ急に……」
思わず覚も離れた所まで退避する。炎はまたたく間に残骸全てを飲み尽くし、この森の最深部で大きな火柱が立った。
炎は下から溢れ出してきた。あの男性が、元から燃やしていたのか、何か細工を仕掛ていたのか……
燃え上がるその炎を、ただただ覚と見上げていた。
何か手がかりを掴めたかもしれない分、その消失感は大きかった。
『パチパチパチ』
(今度は何……?!)
背後から、何者かが手を叩く音がした。その炎に目を取られ、全く気づくことが出来なかった。
「いやぁ、関心したよ。この短期間で、少しは強くなったな。夢見人、逢坂覚」
そこにいたのは、かつて覚と一戦交えた夢見人、ギデオン・リアドと、その背後に、高身長の女性が大きな薙刀を保ちながら立っている。彼の仲間だろうか。
「何の用だ……?」
「今の魔獣と男を見ただろ?俺達もあいつを追っているのさ」
「なら教えて!あの人は、一体何物なの?!」
ギデオンはそんな私を見て、手に持っていた一冊の本を、私に向かって投げ飛ばした。
日記帳、どろうか……アルトラ・アーレントという人物のものらしい。アルトラ……
「あいつは、その日記帳を隠蔽するために、わざわざこの国まで、従える魔獣どもを連れてやってきていんだ。それくらい、やつにとって、その内容は誰にも知られたくないものなんだ」
「だったら、何であなたがこれを持ってるの!?」
「前にも教えただろう?俺の能力は、未来を知ることができるものだ。ここにやつが来ることも最初からわかっていた。だから、先回りして、これを回収しておいたのさ」
それなら、私達が襲われる前に助けに来てよ、と思いつつも、私達が勝てると知っていたのだとすると、無駄な介入をしなかったことにも納得してしまった。
「僕たちは、すぐに向かわなければいけないところがあるんだ。その内容は、後でしっかりと確認しておくといい」
ギデオンは早くも、私達に背を向けた。
未来を知っているこいつは、私達以上に、やらなくてはいけないことが多いらしい。
今ここに現れ、この日記帳を私達に手渡したのにも、何か意図がある。それを、私達は読み取らなくてはならない。
「ギデオン、あのことは伝えなくていいの?」
初めて、その女性が口を開いた。冷たいけど優しさのある、そんな声。
「あぁ、そうだった。君たち、これからファフニール討伐へ向かうつもりなんだろう?やめておけ。君たちが到着したときには、すでにファフニールはいない。行っても後悔するだけだ。最悪、君かクライム、お嬢さんの誰かが死ぬよ。そう、クライムに伝えといてくれ」
「ちょっと待ってくれ」
再度背中を向けた二人を覚が引き止める。
「一つ、教えてほしい。その戦いの結末は、お前たちの望んだ結末で終わるのかよ……もしそうじゃないのなら、俺達にも何か……」
「フッ、望んだ結末だって?残念ながら、『今』の僕にはその保証をすることはできない」
それだけ言い残し、二人は降りしきる雪の中へと姿を消した。
「覚、信じるの?あいつのこと……」
まだ覚は、地面を見つめている。唐突にそんな助言をされても、誰だって真には受け止められないだろう。
「とりあえず、戻ってクライムにあったことと、この日記帳について知らせよう」
そう言って、覚は来た道を戻りだす。
私はその隣を歩きながら、少しその日記帳を覗いてみた。たった数ページ。だが、その内容は、確かに私達の運命を、大きく動かしうるものであった。
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