第12話 夢顕兵装
私の中で、この旅への覚悟が定まり、与えられた三日間の準備期間が始まる。
一つ、クライムに言われたことがある。
それは、星華から与えられた武器は、この街に置いていけ、ということ。その真意をクライムは教えてくれなかった。ただ、星華が何か私達を貶めようとしているわけではないということも教えてくれた。
だが、武器が無くては、夢見人の覚も、流石に戦えない。そこで私達は、武器を求め街の武器屋へ向かった。
この街は決して広くはないが、お店はかなり充実しており住みやすい街だ。戦いが終われば、この街を拠点にしようかとも考えた。
『ガランガランッ』
武器屋に到着し、ドアノブを捻り入店する。店内はまさしく武器屋で、剣や弓矢、槍、盾など、あらゆる武器が揃っていた。
「いらっしゃい!兄さん達、見ない顔だな」
マスターが奥から勢いよく挨拶を飛ばす。今回は、怪しげな少女ではなく、マスターの名に相応しい、屈強な男性だったので少し安心した。
「いや、わけあって武器が必要で……俺みたいなやつでも使いこなせる、手軽な武器を売ってくれないか?」
覚が自信なさげに、手を合わせながらにお願いした。マスターは少し悩んだ後、棚や、並べられた武器の中を探し始めた。
そして、ある一つの武器を手に取り、覚の手のひらの上へ、ドサッと置いた。
「これ……ただの鎌じゃん」
そう、それはただの鎌だった。ただの農具だ。このマスターは、覚を愚弄しているのだろうか。
「鎌じゃねえよ!俺が設計した、超戦闘向けの大鎌だ!貸してみろ!」
覚の手から、自ら渡したその大鎌を奪い去り、キンッと一振り。その瞬間、鎌のように折れ曲がっていたその刀身は、槍のようにピンッと伸び、武器としての性質が変化した。
「どうよ!このボタンを一押しすれば、瞬く間にフォルムチェンジできる!これこそが、俺が編み出した、最強の武器だ!」
ブンッブンッと狭い店内でそれを振り回すものだから、自分に当たらないかヒヤヒヤする。
そんな私と対象的に、隣にいる覚のその目は、今までにないくらいに輝いている。
「か、かっけえええ!」
覚は、まだまだ子どものようだ。だが、少し安心した。時折暴走したり、死んだような目で悲嘆に暮れていたりするものだから。
「シャルロット!見てくれよ!まさに変幻自在だ!」
その武器を手に取った覚が、それを振り回しながら、満面の笑みでこちらを見つめる。そんな覚に、苦笑いを浮かべ、軽くあしらった。
「ところで嬢ちゃんは、何か武器はいらないのかい?」
「わ、私?!私、動けないから……遠慮しておくわ……」
数歩後ずさりながら断ったが、マスターの勢いは止まらない。私の返事がどうであれ関係なかったのだろう。また陳列された武器の中から、一つ手に取った。
「遠距離武器の方が、嬢ちゃんには良さそうだな。なら、このクロスボウだな」
そう言って差し出してきたのは、普通のクロスボウだった。正直、少し拍子抜けだ。だって、星華のくれたあの武器は、あれほどまでに強力だった。それなのに、ただのクロスボウって……
「私は以前、魔法が使える杖を持っていたのだけど、それに比べて、少し物足りないわね……」
「ハハハッ!言ってくれるなお嬢ちゃん!……って、ちょっと待て。それ、もしかしてだけど『夢顕兵装』じゃないよな……!?」
クロスボウを握るマスターの表情が変わる。それと同時に、店内の雰囲気も、険悪なものになった。
「『夢顕兵装』って何よ?」
「いや、俺も見たことはないし、噂でしか聞いたことないんだが、魔獣から剥ぎ取った素材で作った武器に、何らかの方法で、素材元の魔獣の能力を顕現させる、夢のような武器だ」
聞いてみたが、私も知らないものだった。だが、心当たりはある。星華が愛用している、あの二刀の刀だ。よく考えてみると、あんな力、ありえない。私が使っていたあの杖も同様だ。
それに星華は、あの刀を使用した直後、魔獣と混在したような容姿へと変貌していた。それが『夢顕兵装』を使用する副作用だとすれば、全部辻褄が合う。
「いいか、嬢ちゃん!?もう絶対に、その杖に触れるな!これも噂でしかないが、『夢顕兵装』を使用すればするほど、魔獣に自身を取り込まれていくらしい!だから、もう絶対にそれに近づくな!」
マスターの声が、さらに激しさを増した。その迫力に、私は頷くことしか出来ない。押し付けられるようにして受け取ったクロスボウを抱え、コクコク頷いた。
そのまま私達は会計に向かった。金額はかなりのものであったが、まだまだお金に余裕がある。新しく手に入れた二つの武器をそれぞれ抱え、店を出た。
外では雪が降り始めており、視界が悪い。風も、私達の不安を煽るように強く吹いている。
「さっきの話が本当なら、星華が心配だな。あいつ、ボソッと呟いてたんだ。侵食がかなり進んでるって、これのことだったのか」
「そうね……もし、自我を奪われた星華と戦わなければならなくなったら、多分私は、何も出来ないもの……」
肩に降り積もる雪が、いつもより冷たい。覚はそれをパッと払い除けてくれ、私の一歩前を歩き出した。
「提案なんだけどさ……」
「何よ?」
「この武器試したいから魔獣倒しにいかない?」
「は?」
まったく……何を言い出すかと思えば……
この三日間は休養期間であるというのに、そんなことしてて怪我すればどうするつもりなのだろうか。
「多分だけど、今の俺じゃ、クライムの足を引っ張ってしまう。だから、ほんの少しでも、戦いに慣れておきたいんだよ!」
「わかったわよ……でも、絶対に怪我しないでよね!」
覚はニッと笑い、足早に、森林の方へ歩き出した。あの日、魔獣が出没した以外、ここら一帯は、他の地域とは比較的平和だ。そこまで強力な魔獣はいないだろう。
気づけば数十メートルの差が覚とついている。その差を埋めるため、私も少し駆け足で進む。この極寒の地にとって、丁度いいウォーミングアップだ。
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