↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信奈の野望 元自衛官が異世界転移  作者: M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/61

姉川の合戦前夜

姉川の合戦前夜にドローンの偵察で敵情が判明しました。

敵の本陣は、陣幕の中で、小型ドローンの映像が灯りに揺れている。姉川対岸の敵陣が、鳥瞰で浮かび上がる——戦国ではあり得ない視座だ。


信奈


地図を押さえ、映像に目を釘付けにする。


……なるほどね。本陣は二重構え、兵糧は右翼奥。しかも夜営の警戒が薄い。


本来なら一夜掛かりの偵察が、一刻で手に入る。信奈の頬が上気している。


氏治を見上げ、悪戯っぽく笑う。


ねぇ氏治。あんたの空飛ぶカラス、もっと近くへ行かせなさいよ。あいつらの寝顔まで見たいわ。


声は軽い。だが指先は地図の一点——朝倉の旗印を、正確に押さえている。


声を落とし、挑むように氏治を見る。


それとも明日の朝、あたしが先陣で突っ込んでやろうか?どっちが面白いと思う?


氏治


いつも通り、迫撃砲を打ち込みましょう。味方の損害は減らして


地図を指で叩き、満足そうに頷く。


当然よ。「見えないところから落とす」——あんたの原則そのまんまね。兵を大事にするのは、大将の務めだわ。


陣幕の外では、夜風に篝火が揺れている。明日、この静寂が轟音に変わるまでの猶予は、あと数刻しかない。


氏治の袖を軽く引き、声を潜める。


だから今夜は、もう一つだけ仕掛けたいの。あいつらの本陣の裏に、偽の狼煙を上げる。混乱してる間に、あんたの砲弾が降ってくる——どう?


金色の瞳が悪戯っぽく細まる。だがその奥にあるのは、明日の朝に流れる血への覚悟だ。


さらに声を落とし、氏治だけに聞こえるように。


……もちろん、先頭には立たないわよ。あんたの言う通りにする。だからちゃんと、あたしを勝たせなさいよね。


陣幕の内側は、篝火の明かりと小型画面の青白い光が交錯している。対岸の敵陣は、鳥の目でしか見られないはずの形で、静かに息をしている。

氏治は映像を一度止め、信奈が押さえている地図の一点——朝倉の旗印のすぐ裏——を指でなぞった。

「偽の狼煙、やりましょう。ただし本陣の真裏ではなく、半町ほど西へずらす」

声はいつものように低い。感情を乗せない。乗せる必要がないからだ。

「真裏だと、すぐ『これは敵の工作だ』と気づく者が出る。西なら、浅井の右翼が『朝倉が動いた』と誤認しやすい。混乱の幅が広がる」

画面を再び動かし、夜営の篝火の間隔を示す。警戒が薄い、という信奈の読みは正しい。だが薄い警戒は、一度崩れれば一気に穴になる。

「ドローンはもう一段近づける。寝顔までは不要です。歩哨の交替時刻と、本陣幕の隙間から漏れる人影の数だけで足りる」

信奈の袖を引かれた手を、そっと戻す。引き抜くのではなく、ただ元の位置へ。

「先陣は出さない。約束通りです。砲は夜明け直前、狼煙が上がってから三十呼吸置いて落とす。兵糧の位置は映像どおり右翼奥——最初の斉射はそこへ」

金色の瞳が細まるのを、氏治は見ている。悪戯と覚悟が同じ場所にある目だ。

「勝たせます。ただし、勝たせるのはあたしを、ではありません」

地図の端を軽く叩く。

「織田を、です。信奈が先頭に立たなくていい勝ち方を、今夜のうちに全部並べておく。それが原則です」

陣幕の外で、夜風が篝火をひとつ揺らした。対岸ではまだ、誰も知らない。空にカラスがいることも、裏から狼煙が上がることも、その直後に空から鉄が降ってくることも。

氏治は画面を暗くし、声をさらに落とした。

「狼煙の担当は、今夜のうちに三人だけに伝える。それ以外は眠らせておけ。明日の朝、轟音が始まるまで——あと数刻、この静寂を使います」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。