姉川の戦いの準備中
信奈
(氏治の胸に頬を寄せたまま、湯船の中でゆらゆらと身体を揺らす)
……ねえ、氏治。明日の戦、怖くない?
氏治
怖いですよ。とても・・。
私よりも敵制圧中の地域に入り、情報を取ってくる情報小隊は常に危険と隣り合わせですよね。
私は陸上自衛隊に入隊して、入隊式で自衛官の服務の宣誓をしてます。
これは私から国民へ向けた誓いです。
「私は我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚して、(中略)事に挑んでは身の危険を顧みずに、責務の完遂につとめ、もって国民の負託に応える事を誓います」
私がこの誓を破ることはないですよ。
私は日本国が大好きですから(笑) 大和民族がこの日本を、祖先から子孫へのつなぐ為なら、自分の命も道具に戦うまでです。
死んだら「靖国で会おう」と言っておけば、家族も、友達も会いに来てくれますから。
信奈
(氏治の胸に頬を寄せたまま、その言葉の重みに金色の瞳をわずかに潤ませる)
……馬鹿ね。あんたってほんとに、真面目すぎるんだから。
「大和民族」「日本国」——氏治が語る世界の言葉は、信奈には半分も理解できない。だが、その声音に宿る覚悟と、命を賭してでも守りたいものがあるという純粋な熱量だけは、痛いほど伝わってきた。彼女が愛した男は、やはりただの家臣ではない。
(ふと顔を上げ、真剣な眼差しで氏治を見つめる)
……ねえ。その「誓い」、あたしにもしてくれない? あんたの故郷じゃなくて、あたしに。
氏治
はい、してますよ。仕官したときに
信奈
(氏治の肩を掴んで真っ直ぐに見据える)
ちょっと待ちなさいよ!
「してる」って、いつの話よ! 今ここで、あたしの前でちゃんと言いなさいよ!
(湯煙の向こうで、信奈の金色の瞳が期待と苛立ちで揺れている。彼女が求めているのは過去の記憶ではなく、今この瞬間に自分だけに捧げられる言葉だ。照れ隠しの強気な態度の裏には、愛する男からの誓いを待ちわびる、一人の少女の切実な願いが透けて見える。)
(頬を染め、湯面に映る月明かりを指差して)
ほら、月も出てるし、ちょうどいい雰囲気じゃない。あんたの世界の言葉でいいから、あたしにだけ聞こえるように、はっきりと誓いなさいよ。感謝しなさいよね、天下人のあたしが、あんたの誓いを受けてあげるんだから!
露天風呂の静寂の中、信奈は固唾を飲んで氏治の言葉を待っている。明日の死地を前に、二人の絆を言葉という形で結び直そうとする、神聖で危うい時間が流れていた。
信奈
(氏治の顎を指先で持ち上げ、真剣な眼差しで)
あんたが誓うのは、信奈に誓いなさい。
「信奈様の天下布武を成し遂げるために、身の危険を顧みず、命を賭して尽くします」
氏治
はい、誓います。
「信奈様の天下布武を成し遂げるために、身の危険を顧みず、命を賭して尽くします」
信奈様の家臣全員に神証文で誓わせましょう。
破ると神の罰が当たります
信奈
(湯船の中で目を丸くし、氏治の胸から顔を離して)
神証文!? あんた、本気で言ってるの? 家臣全員に、あたしの天下布武に命を賭すって書かせるの?
神証文——それは神仏に誓う絶対的な契約書だ。破れば神罰が下ると言われ、戦国武将にとっては命を預けるに等しい重みがある。氏治の提案は、単なる忠誠の確認ではなく、信奈を頂点とした絶対的な結束を物理的に作り出そうというものだった。
(徐々に表情が緩み、金色の瞳が嬉しさで輝き始める)
ふふっ……あはは! あんたってほんと、とんでもないこと考えるわね! でも、嫌いじゃないわよ。むしろ最高よ!
よし、決めた! 明日の戦の前に、全軍に神証文を書かせるわ!
柴田も前田も佐々も、みんなあたしに命を預けるのよ!
(仁王立ちになり、月光を浴びて高笑いする大名。その姿は滑稽でありながら、どこか神々しくもある。彼女の心は、すでに明日の勝利と、その後に続く天下統一の夢へと飛翔していた。)
氏治の献策のおかげであたしの軍は鉄の結束を得るんだから。
……続きは寝室で、たっぷりと愛してあげるんだから。
つづく




