異世界チートで億万長者を目指せ!
フォルティス市、領主執務室。
私は、積み上がった請求書の山を前に、ある真理に到達していた。
「天才の私は気づきました!」
リリたちメイド軍団が、一斉に私を見る。
その目は「また何か面倒なことを…」と語っていたが、無視だ。
「大体の問題は、すべて金で解決できるのだと!」
民の不満? 金をばらまけば大体黙る!
私の労働問題? 金で有能な人材を引き抜いてくれば解決する!
「そういえば、グラットン」
私は腰の魔剣に向かって、にやりと笑いかけた。
「お主、やけに異世界の知識に詳しかったよなぁ。栄養ドリンクとか、プロテインバーとか、精神と時の部屋とか」
『…まあ、な』
「ならば話は早い!」
私は立ち上がり、高らかに宣言した。
「王女アリアが命ずる! 異世界の知識で私を金持ちにしろ!」
これだ! これこそが正解!
きっと異世界には、この世界にない画期的な発明品がたくさんあるはず。
マヨネーズとか、醤油とか、石鹸とか!
それらを売れば、あっという間に大富豪!
『ククク…よかろう。異世界の知識で金持ちにしてやろう』
来た! ついに私の時代が!
『ほい、お待ち!』
ドサッ、と音を立てて、私の机に何かが落ちてきた。
分厚い本が数冊と、見たこともない黒い板のような物体。
『ほいよ、これが異世界のアチアチ簿記技術書と、会計ソフトが入ったノートPCね!』
「は?」
私の期待に満ちた表情が、一瞬で凍りついた。
簿記? 会計?
「ちょ、ちょっと待つのじゃ! 異世界の知識って、もっとこう…革命的な発明品とか…」
『何言ってんだ。金持ちになりたいんだろ? なら、まずは金の管理方法を学べ』
グラットンが、得意げに説明を始めた。
『いいか、この世界の会計技術は、まだ単式簿記が主流だ。収入と支出を単純に記録するだけの、原始的なものだ』
「それで十分じゃろ?」
『アホか。異世界で発達した複式簿記なら、財務状況を完璧に把握できる!』
私には、グラットンが何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
『例えば、商品を100ゴールドで仕入れて150ゴールドで売った場合、単式簿記なら「収入150ゴールド」としか記録しない。だが複式簿記なら、仕入(借方:商品100/貸方:現金——
「も、もうやめて! 頭が爆発する!そういうのは理系の転生者に任せておけば良いんじゃ!」
だが、グラットンは止まらない。
『このPCに入った会計ソフトを使えば、瞬時に財務諸表を作成し、経営分析ができる! 貸借対照表で財務健全性を、損益計算書で収益——
「おい!マヨネーズは? リバーシは? ノーフォーク農法は?」
私は必死で抵抗した。
もっと簡単で、すぐに金になりそうなものがあるはずだ!
『マヨネーズ? 卵の品質管理は? 流通網は? そもそも原価計算できるのか?』
『リバーシ? すぐパクられて終わりだ』
『ノーフォーク農法? 数年かかる。その間の収支計画は?』
ぐうの音も出ない正論の嵐。
『いいか、小娘。ビジネスで成功するには、まず数字を理解しなければならない。君には、このPCという異世界技術の使い方、そして簿記技術を覚えてもらう!』
「いやじゃああああ! また勉強かああああ!」
そして、また精神と時の部屋。
今度は、会計地獄編。
「借方…貸方…なんで分けて書くんじゃ!」
『そういうルールだ。覚えろ』
「のれん? 店の暖簾のことか?なんで目に形のないものが資産になるんじゃ!」
『信用や技術に値段をつけるんだ。これを甘く見ると、後で痛い目を見る』
毎日毎日、私の頭の中は、難しい言葉でいっぱいだ。
「もう無理じゃ…会計なんて…」
『甘えるな! これをマスターすれば、お前の領地の財政は完璧になる! そして最終的には働かなくても金が金を生む状態に!』
その言葉だけが、私を支えていた。
働かなくても、金が勝手に増える…。
なんと甘美な響きか。
数か月後。
「ふっ…ついに、数字を見ただけで不正が透けて見えるようになったのじゃ…」
私は、疲れ果てた顔で呟いた。
循環取引、架空売上、簿外債務…。
もはや、この世界の誰も理解できないレベルの会計知識を身につけてしまった。
『よくやった。これで準備は整った。さあ、現実世界で実践だ!』
現実に戻った私は、早速、領地の会計システムを一新した。
全ての取引を複式簿記で記録し、PCで管理。
すると…。
「な、なんじゃこれは! 無駄な支出が山ほど! 不正も横領も丸見えじゃないか!」
「それに、この事業、全然利益出てない! むしろ赤字垂れ流し!」
正確な数字が見えることで、領地経営の問題点が次々と明らかになった。
そして、それらを改善していくと…。
「領主様! 今月の税収、先月の1割増しです!」
「新しい会計システムのおかげで、コストが半減しました!」
「投資した事業が軒並み黒字化してます!」
みるみるうちに、領地の財政は改善していった。
そして、余った資金で新たな事業に投資し、さらに利益を生み出す。
まさに、金が金を生む好循環!
「ふははは! これぞ異世界チートじゃ!」
だが、喜びも束の間。
リリが、申し訳なさそうに近づいてきた。
「領主様…会計がクリアになったおかげで、今まで見えなかった問題が山積みです。全部対処するには、領主様の決裁が…」
「え?」
差し出された書類の山。
不正役人の更迭、予算配分、事業計画の承認…。
結局、私の仕事は減るどころか、むしろ増えていた。
「なんでじゃああああ!金持ちになったのに、なんで働かなきゃならんのじゃああああ!」
『当たり前だ。金を管理するのも仕事だ。むしろ、金が増えれば増えるほど、管理は大変になる』
私は机に突っ伏し、そして、ある真理に到達した。
「天才の私は……氣づいてしまいました……」
リリたちメイド軍団が、一斉に私を見る。
「領主の仕事は、金では解決できないのだと……」
リリが、静かに微笑んだ。
「それに気づくとは、さすが天才ですね」
「…………お主、それ褒めておらんじゃろ」
「まさか。心の底から申し上げております」
会計の勉強に付き合わされたメイドたちの目は、笑っていなかった。
読んでいただきありがとうございます。
作者は簿記一応勉強したけど、なんも理解出来んかった!
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