最強王女、冒険者になる
フォルティス市、領主執務室。
書類の山に埋もれていた私は、限界を迎えていた。
「流石に疲労困憊なのじゃあ…」
もはや恒例となった愚痴をこぼしながら、私は天井を見上げた。
そして、私は天才だから、また素晴らしいアイデアを思いついた。
「そうじゃ! 冒険者になればいいのじゃ!」
冒険者。
自由気ままに各地を旅し、気が向いたときだけクエストをこなし、酒場で仲間と騒ぐ。
なんと理想的な生活だろう!
「魔剣に命ずる! ワシを一介の冒険者にするのじゃ!」
王女も、領主も、もう辞める!
身分を捨て、名前を変え、しがらみのない自由な冒険者として生きるのだ!
気ままに旅をして、たまにゴブリンでもしばいて日銭を稼ぎ、夜は酒場で一杯。
ああ、なんと素晴らしいスローライフ!
『ククク…よかろう』
グラットンが怪しく光る。
『ほいよ。今からお前は、冒険者ギルドに登録したての、Fランクの新人冒険者アリスだ』
「Fランク!?」
最低ランクじゃないか!
でも、すぐに思い直した。
「うししw これはこれで美味しいのじゃw 実は王女の最強冒険者が、Fランクから成り上がりつつ無双かつスローライフするのじゃw」
なろう系の王道展開!
きっと、ゴブリン退治とかで「なんだこの雑魚は」とか言いながら、突然現れたオーガを一撃で倒してしまい周りから「すげー!」って言われるやつ!
『ああ、そうそう。サービスで剣術の腕もFランク相当にしておいてやったぞ!』
「は?」
私の動きが止まった。
『我は「魔」剣だからな。そろそろ攻撃魔術でも覚えてもらおうと思ってたんだが、ちょうど良かったぜ。一から頑張れよ』
「ちょ、ちょっと待つのじゃ! 124年修行した剣術は!?」
『封印した。Fランクの新人が、いきなり達人級の剣術使えたらおかしいだろ?』
ガーン!
私の唯一の取り柄が!
「で、でもいいもんね! 冒険者といえば、旅の仲間じゃ! 私一人では非力でも、頼れる仲間がいれば…!
よし、ついでに美少女の旅仲間も要求しちゃお! 可愛くて、しっかり者で、私の面倒を見てくれるような子を!」
そう、冒険者といえばパーティー!
可愛い魔法使いの女の子とか、クールな女エルフとか!
『ほいよ、美少女魔術師エルフが都合よく仲間探してるぞ。ただし…』
「ただし?」
『まあ、行ってみればわかる』
嫌な予感がしたが、もう遅かった。
王都冒険者ギルド、面接会場。
「よろしく頼むぞ、新入り!」
目の前には、筋骨隆々のドワーフのおっさんが立っていた。
髭もじゃ、筋肉むきむき、美少女エルフとは対極の存在だ。
「え、えーと…」
私は周りを見回した。
確かに、美少女はいた。
銀髪のエルフの少女、見た目は14歳くらいだろうか。
儚げで、可憐で、まさに理想の美少女!
だが。
「美少女と一緒のパーティーに入れたけど、おっさんが四人もついてるじゃねぇか!」
エルフの少女の隣には、明らかに保護者ポジションの中年エルフ男性。
そして、ドワーフの前衛が二人と、ハーフリングの斥候が一人。
全員、40代以上のおっさんだ。
「我らは銀の翼! エルフの姫君リーフィアを守護する精鋭パーティーだ!」
「姫君?」
「リーフィア様は、エルフの里の族長の家の産まれでな。修行のために冒険者をしているのだ」
なるほど、お嬢様の護衛パーティーか。
道理で、おっさんだらけなわけだ。
ゴルドと名乗ったドワーフのおっさんが、私の肩をバシバシと叩いた。けっこう痛い。
「おい新入り、お前は魔術師見習いだそうだな。だが何かあった際は、魔術師のお前も姫様の盾となれよ!」
「は、はい…」
(私、ホンモノのお姫様なんですけど! 王城に住んでるんですけど!)
心の中で叫んだが、もちろん言えない。
今の私は、ただのFランク冒険者アリスなのだから。
「あの、よろしくお願いします」
リーフィアが、小さく頭を下げた。
その仕草があまりにも可愛くて、私の心が浄化された。
「父様、この方が新しい仲間ですか?」
「そうだ、リーフィア。アリスという魔術師見習いだ」
父様!?
保護者ポジションかと思ったら、ガチの親だった!
「まあ、エルフの美少女と一緒に魔術勉強できるからええか…」
私は自分を納得させた。
少なくとも、書類地獄よりはマシ…なはず。
初めてのクエスト、ゴブリン退治。
「よし、新入り! お前の実力を見せてもらおう!」
「う、うむ!」
私は杖を構えた。
魔術なんて使ったことないが、なんとかなるだろう。
「えーと…ファイア!」
シュポッ。
マッチの火程度の炎が、杖の先に灯った。
「…………」
「…………」
沈黙が流れる。
ゴブリンが、困惑したような顔でこちらを見ている。
「があああああ!」
結局、ゴルドが斧でゴブリンを真っ二つにした。
「新入り、お前…本当に魔術師か?」
「しゅ、修行中なのじゃ!」
恥ずかしい。
124年も剣術の修行をした私が、ゴブリン一匹倒せないなんて。
「大丈夫ですよ、アリスさん」
リーフィアが、優しく微笑みかけてくれる。
「私も最初は、風で木の葉一枚動かせませんでした。一緒に頑張りましょう」
「リーフィア様…!」
天使だ。この子は天使だ。
おっさんまみれのパーティーだけど、この天使がいるなら耐えられる!
夜、野営地。
「アリス、魔力循環の基礎から教えてやろう」
エルフの親父、レガロスが、真面目な顔で指導を始めた。
「魔力は、ただ放出するものではない。体内で循環させ、精製し、そして初めて術式に込めるのだ」
「は、はい!」
意外にも、レガロスは優秀な教師だった。
理論的で、分かりやすく、そして根気強い。
「ふむ、筋は悪くない。むしろ、妙に魔力回路が整っているな…まるで別の訓練を受けたような」
「そ、そうですかね?」
(124年の剣術修行の賜物かもしれない)
「アリスさん、これ、どうぞ」
リーフィアが、温かいスープを差し出してくれた。
「今日はお疲れ様でした。明日も頑張りましょうね」
「あ、ありがとう…」
ああ、この子のためなら、魔術修行も頑張れる気がする。
「おい新入り! 明日は早いぞ! しっかり寝とけ!」
「姫様の足を引っ張るなよ!」
「まあまあ、新人はこんなもんだろ」
おっさんたちも、口は悪いが根は優しい。
きっと、リーフィアを本当に大切に思っているのだろう。
私は、星空を見上げた。
領主の執務室で見る天井とは違う、自由な空。
確かに、Fランクからのスタートは屈辱的だ。
剣術も封印され、魔術もへっぽこ。
でも、なんだか悪くない気がしてきた。
どこからともなくグラットンの声が聞こえる。
『どうだ、冒険者生活は?』
「…まあ、ぼちぼちじゃな」
『素直じゃないな。リーフィアとかいう子、気に入ったんだろ?』
「う、うるさい!」
明日も、きっとゴブリン退治だろう。
そして、私のしょぼい魔術で、また迷惑をかけるだろう。
でも、それでいい。
少しずつ、成長していけば。
「明日は、せめて松明くらいの火を出せるようになりたいのう…」
そんな、ささやかな目標を胸に、私は眠りについた。
スローライフとは程遠いが、これはこれで、悪くない冒険者生活かもしれない。
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