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【完結】苦労性な魔王の巻き込まれ事件簿 〜ヴォロス国王殺人事件の凶器が伝説の剣だった件について〜  作者: 清水七帆
第7の証言 再び王子レオンハルト、あるいは魔王アルトゥールの推理
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現場検証と、事件関係者集合

 第二寝室は、宮殿二階の長い回廊を渡りきった、奥まった場所にある。

 事件以来、誰も立ち入らぬよう布で封じられていた扉は、グレンの手で開けられた。

 部屋に入って真っ先に目につくのが、ゆったりした天蓋付きのきらびやかな寝台で、やたらだだっ広い。寵妃を五、六人同時に引き入れても余裕な大きさだ。

 左がわは、両開きの大きな楕円形の窓が四つ。赤い天鵞絨のカーテンで遮られて、室内は薄暗い。右がわにはずらりと並んだ衣装戸棚がある。父上は着道楽でもあったのだ。それを見て初めて、父上はもうこの世にいないんだなあという実感が湧いた。

 本来ならなまめかしく感じるはずの部屋なのに、むっとする濁った空気の匂いと、寝台にどす黒くこびりついている血痕により、陰惨な現場になっていた。

 寝台から少し離れて、猫足の書き物机が置いてある。グレンは細長い木箱を運び入れ、その上に乗せた。

 木箱の蓋の隙間からは、紅色の光が漏れこぼれている。

 アルトゥールが手を掛けて開くと、その光は部屋中を鮮やかに紅く染めた。中には、見事な細工の剣が一本、収められている。光はそのむき出しの刀身から、放たれていた。


 それが凶器として保管されていた、妖剣〈誰彼〉――と思われているものだった。


 そうか、〈誰彼〉の刀身はこんな強い光を放つものなのか。

 本物の妖剣であるはずの短刀を握りしめながら、おれは妙な感慨を持った。

 おれは、妖剣を鞘から抜いたことがない。だからあるじでありながら、この紅い輝きは見たこともないわけだが、これを見せられて本物だと言われたら信じてしまいそうだ。

「いやだ。入りたくない。こわい」

 子供がいやいやをするように首を振り、ミケはまた震えだした。

 ひどく可哀想になって、おれは膝をついた。

 ミケを引き寄せて、きつく抱きしめる。

 ミケは、魔力を吸い取られて弱り切ってたのに、短刀になってしまった妖剣を持って、必死におれのいる牢獄まで来てくれた。

 こんな小さな体で。

 おれは歴代のあるじたちのように剣も使えず、おまえの呪いをまっとうしてやれるかどうかさえもわからない、不肖のあるじなのに。

「ちょっとの間だから。我慢しろ、な? きっとすぐにアルトゥールが、おまえの魔力を元に戻してくれるよ」

 アルトゥールは複雑そうにおれたちの様子を見ていた。建国王とは全然似てないってことに落ち着いたものの、やっぱりアルトゥールが近づくとミケはびくっとしておれにしがみつくのだ。結構本気でミケを好きだったらしいアルトゥールは、えらく傷ついたようだった。

 やがて、ロスヴィーダさまとフラウエンロープ伯爵、侍女のリタが、それぞれ緊張した面もちで集まってきた。

 侍女のリタの顔は真っ青だ。寝台の血痕を見て当日のことを思い出したんだろう。ふらついて倒れそうになるのを、グレンがしっかり支えた。

「早朝から、このようなわけのわからぬ呼び出しなど無礼千万、私は帰ってもよろしかろう?」

 フラウエンロープ伯爵は鋭い目でおれたちを見回し、すぐにでも引き返しそうな素振りを見せた。成り行きを知っているロスヴィーダさまは比較的落ち着いていて、伯爵をなだめて引き留めている。

 フラウエンロープ伯爵はロスヴィーダさまの父上だ。もうかなりのご年輩なんだが、今でもいくさの際には将軍職をつとめているし、宮廷では王室規範に詳しい方として一目置かれている。

「いったい何がどうなっているというのですかの? 脱獄した殿下が、兄ぎみなる方とご一緒にお戻りになるなり、私にこのようなところに出頭せよと……。もう、何がなにやら」

「ご足労恐れ入ります。フラウエンロープ伯爵閣下。皆様にお集まりいただいたのは他でもない、この弟は父王殺しの罪を負わされています。だがそれは冤罪であることを、証明したいのです」

「ふむ。趣旨はわからぬでもないが、なぜに私が呼び出されますのか? 陛下殺しに私が関係あるとでも?」

「申し訳ありません。閣下は、事件には何の関係もないのです。しかし、この事件がやがて及ぼすであろう影響を考えるに、ヴァラス帝国における王室規範の第一人者であらせられる閣下に、お立ち会いいただくことが必定と思いまして」

 ――さすがだ。口がうまい。厳格で知られるフラウエンロープ伯爵は今にも怒り出しそうだったんだが、たちまち機嫌が直った。

「第一人者などと、いやそんな。失礼ながらあなたさまは、どちらの寵妃の方がお産みあそばされた殿下でいらっしゃるのかな。不勉強にして存じ上げませぬが、いやいや、このようなご立派な殿下がいらっしゃったとは」

「閣下。私の母親は、アヴィリオンの前王の正妃でした」

「――何ですと。それでは」

「はい。エドムント王はお若い頃、お忍びでアヴィリオンにおいでになりました。その時母は、ファルケンシュタイン城を離れて四人目の子供を産み終え、地上の家で静養していて偶然知り合い、私を身ごもり、アヴィリオン王の五番目の息子として育てました。母は他界しましたが、お調べいただければおそらくは、当時を知り、証言をするものもおりましょう」

「おお。なんと、そう言われれば――我が家にはレオンハルト建国王の肖像画が伝わっておりますが、そのおもざしによく似ていらっしゃる――いや、お待ち下さい、あなたさまがアヴィリオンの王妃のお産みあそばしたディングフェルダーの王子ということになりますと――これは」

 フラウエンロープ伯爵は、何か重大なことに思い至ったようだった。はっとしてアルトゥールを見ながら、言葉を続ける。

「王室規範は母上の身分を重視しております。照らし合わせるまでもなく、あなたさまはマティアス殿下に次いで、王位継承権第二位の立場にあられるということに、なりますぞ」

 アルトゥールは苦笑いして、軽くうなずく。

「ええ。ですから困っているのです」

「しかしそれが、陛下が殺害されたことと、なにがしかの関係がございますかの?」

「それはおいおいにご説明いたします。お手数ですがこれからの経緯をごらんいただきたく」

 伯爵との話はそれで済んだとばかりに、アルトゥールはマティアスに向き直った。

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