↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】苦労性な魔王の巻き込まれ事件簿 〜ヴォロス国王殺人事件の凶器が伝説の剣だった件について〜  作者: 清水七帆
第7の証言 再び王子レオンハルト、あるいは魔王アルトゥールの推理
PR
26/30

いざ、事件現場へ

 ファルケンシュタイン城は、麓からやや離れた場所に、地響きを立ててめり込んだ。

 落ちると言うよりは、乱暴に着陸したみたいな感じだった。

「ミレーヌケティ!」

 大きな正門の扉が開く。アルトゥールが走り出てきた。

 背の高い、見栄えのいい男だ。肩まではない短めの黒髪に、細い金鎖の輪冠が映えている。瞳の色と同じ濃紺の服が、これまたよく似合う。

 おれやナオキのことは取りあえずおいといて、アルトゥールはまっすぐにミケに近づいた。

「直接会うのは初めてだな、ミレーヌケティ。私は――」

「おー。見ろよミケ。すげぇいい男だぞ」

 だがミケは小さく悲鳴を上げて、おれの後ろに隠れてしまった。

「いやぁ。来ないで」

「ミケ? おいミケ? どうしたんだ?」

「ミレーヌケティ……?」

「来ないでよ! 私に近づかないで。……どうして……どうしてあなたが」

「ミケ? ミケってば」

「どうしてあなたがここにいるのよ! レオンハルト」

 ミケは肩を震わせながら、アルトゥールを睨んでいる。

「レオンハルト……って、おれのことじゃないよな。建国王のことを言ってるのか?」

 唇を噛んで、ミケは答えない。ミケのいきなりの拒絶に、アルトゥールは顔面蒼白になっている。どうやらアルトゥールは、建国王レオンハルトにそっくりなようだった。

「よしよし。落ち着けよ。こいつは魔王アルトゥールだ。どんなに似てたって建国王とは別人だよ」

 小さな頭を撫でて、肩をぽんぽんと叩くと、やっとミケの震えがおさまった。

「……ああ……そうね、そうよね、ごめんなさい。失礼したわね、アルトゥール」

「いや……。だが、そんなに似てるのか? 私は、君を封印した男に」

「ええ。彼が生き返ったのかと思ったわ。……ごめんなさい。あなたは何も悪くないんだけども、あまり私に近づかないでくれるかしら? 意味もなくむかつくし腹が立つし殴りたくなるから」

「……不条理だ」

 気の毒なくらいに落胆したアルトゥールの背中を、おれはタマちゃんの方向にぐいと押した。従順なタマちゃんは、もう水龍の姿で、俺たちを乗せるために草原に体を伏せている。

「まーまー。とにかくヴァラスへ行こうぜ。細かいことは気にすんなよ」

「私は繊細なのだ。そなたのような図太い神経は持ち合わせておらぬ」

 アルトゥールは、左のこめかみを押さえた。落城の衝撃で、どこかにぶつけてしまったらしい。うっすらと青あざができている。

「あーあ。男前がだいなし。ほらぁミケ、よく観察してみろよ。いい人っぽいぞ。建国王はこんな好青年じゃなかったろ?」

 ミケは逃げ腰になりながらも、そっとアルトゥールの顔を覗き込んだ。ミケの顔色がちょっと明るくなる。

「そういえばそうね。あの人はもっと自信家で、野性的な魅力にあふれていたわ。全然違うわね、そっくりなんて思いこんでごめんなさいね」

「良かったなアルトゥール。やっぱり全然似てないってさ」

 みなさんを全員乗せるとちょっと重いです、というタマちゃんをなだめつつ、おれたちは一路ヴァラスに向かった。

「やっぱり不条理だ」

 ――アルトゥールは道中ずっと、そうぼやいていた。


 タマちゃんはアルトゥールの指示により、おれたち一行を宮殿前広場で下ろした。

 広場には火刑用の柱が立てられ、炭と薪とわらが積み上げられてて、おれを火あぶりにすべく処刑準備がばっちり整っている。

(あ、そか。日が変わったから、今日は処刑当日なんだっけ)

 移動しているうちに、もう夜は明けていた。

 朝の光に照らされる火刑用の柱の下、ただひとり立ち働いている無骨な人影が見える。グレンだった。

 薪の量や菜種油の浸し具合を丹念に点検していた。ときおり手を止めて、辛そうに目頭を押さえたりもしている。おれは脱獄したんだから、当人が捕まらない限り今日の執行は延期になると思うんだが、職務に忠実なやつだ。

 ……いや、今こうやって、帰ってきてしまったんだけどもな。しかも魔王同伴で。

「おーい。グレーン。ただいまー」

 グレンはこれ以上はないくらいに唖然とした顔で、おれたちを見回した。

「レオンハルト殿下! なんと――これはいったい――どうしたことですか。その方々は……?」

「んー。まあいろいろあってな」

「なぜお戻りになられました」

 グレンは言葉を詰まらせる。

「職務上言ってはならぬことですが、殿下が脱獄されたと聞いて安堵しておりましたのに。このまま逃げおおせて下されば良いと……そう思いながらも、殿下が追っ手に捕まり、予定通り処刑が執行される場合に備えねばならぬこの身の……」

「近衛隊長グレン・ドナウアー」

 今にも泣き出しかねないグレンを遮って、アルトゥールは前置きなしで用件だけを言った。

「ヴァラス王エドムントが殺害された現場、第二寝室に、以下の方々にお集まりいただきたい旨、伝えて欲しい。王妃ロスヴィーダ、王子マティアス、フラウエンロープ伯爵、王の遺体を発見した侍女、それとそなたもだ。別室に保管してあるはずの凶器、妖剣〈誰彼〉も、持参するように」

「はあ……しかし。あの、あなたさまはどなたで……?」

「この馬鹿王子の兄の一人、とだけ言っておこう」

「グレン。アルトゥール兄上の仰るとおりにしてくれ」

 気配ひとつ感じなかったのに、いつのまにかマティアスがその場にいた。

「はっ!」

 グレンはそれ以上は聞かず、まずはロスヴィーダさまに伝えるのだろう、塔の方向へ走り去った。

 マティアスはおれとナオキを一瞥したが、特に何を言うでもなく、アルトゥールに頭を下げた。

「はじめまして。マティアスです、アルトゥール兄上。この度はお世話をおかけして申し訳ありません。ようこそヴァラスにおいで下さいました」

 アルトゥールはしばらく、何かを探るような目でマティアスを見つめていた。

「そなた今、〈瞬きの旅〉を使ったな」

「はい。ご不快でしたか? 不調法な魔法で」

「いいや。良い腕だ。アヴィリオンの民に勝るとも劣らない。されど、その腕があだになったか」

「……どういうことでしょうか?」

「第二寝室まで、案内してくれぬか。――歩いてな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。