65 騎士の誓いと人材育成1 ●表紙風挿絵あり
ページ最下部に、挿絵があります。注意書きのワンクッションあります。
守生は、宰相ハルムイムホテップへのヒーリングと昼食をすませると、騎士コンビとお稽古トリオ、侍女ヘレナヘケトと共に人払いされた廊下を移動する。
最初に向かうのは、王城の二階の隅にある、共同部屋だ。三つの部屋をまわって、昆虫族化の毒に侵された騎士、侍女、下男を見舞う。
毒が薄くなっていることを確認して、新しい【ホーリーウォーター】を作ってそれぞれの容器に注ぐ。
(硬い皮膚がヒトっぽくなるけど、完治はしないんだよなぁ。やっぱり解毒薬が必要か)
フィリップハピとのお茶会が勝負だと、決意を新たにしながら、長い廊下を進む。
以前来た時はゴキブリが出るほど不潔だった二階の廊下が見違えるほど清潔になっている。それぞれの部屋も綺麗に掃除されていた。
あまりにも清潔すぎて、一階の廊下がほこり臭く感じるほどだ。それを我慢して、案内された会議室に入る。
「広いですねぇ」
「こちらは文官用の大会議室でございます」
ヘレナヘケトにうながされて、守生は長方形をした会議室の上手にひとつだけ置かれた椅子に座る。会議室なのに、他の椅子や机はひとつもない。そして二階同様、不思議なほど綺麗に掃除されている。
それを質問する間もなく、屈強な騎士たちがやってきて守生の前に並ぶ。そばに立つアベルアヌビスをちらりと見ると、心なしかウキウキしている。アベルアヌビスの同僚なのかと気づき、守生は肩の力を抜いた。
騎士団の上層部は、和平派である国王カールホルスの敵対派閥だと聞いているのだ。反国王派であるハピ兄弟の派閥と結託して、騎士の中に刺客を潜り込ませている可能性もあった。
騎士たちは四列縦隊で並ぶと、一斉に跪いた。そして先頭のヒグマ頭の男が、大声を上げる。
「【大いなる幸い】様! 王城二階の掃き掃除、完了いたしました!」
(へ?)
続けて列の先頭に立つ騎士たちが順番に声を上げていく。
「大型家具もすべて移動させております!」
「拭き掃除、完了いたしました!」
「浄化魔法、完了いたしました!」
侍女ヘレナヘケトの補足説明によると、彼らが掃き掃除、家具運び、拭き掃除、浄化魔法の四つの班に分かれて掃除してくれたのだそうだ。間違いなく本来の仕事ではない内容に、守生は恐縮した。その部屋や廊下を使っている者たちで掃除するのだろうとなんとなく考えていたのだ。
「ありがとうございます、皆さん。先ほど二階に行きましたが、とても清潔になっていました。僕のわがままを聞いてくださったこと、感謝しています」
「いえっ! 我らに活躍の場を与えていただき、感謝しております!」
「感謝しております!」
十数人の騎士の声が揃うと、迫力がある。しかしなぜこんなにもキラキラした目をしているのかと守生は不思議に思う。
「……ドム、アベル。これどういうこと?」
両端に立つ騎士コンビに、小声で尋ねる。実際は防音の魔道具を使わない限り、丸聞こえだが。
「あァー、チドーを教えてもらう順番決めを、ウチの隊長が副隊長に丸投げしたんだ。あの人、細けェことが苦手みたいで」
「え? チドー? いきなり話が変わったね」
「マリー隊長、自分が参加する日だけはきっちり入れてましたよーっ!」
部隊長マリアマァトに目を掛けてもらっているアベルアヌビスが、さらりと密告する。だがもちろん、アベルアヌビスに悪気はない。明日は一緒に講習を受けられるんです、楽しみですと、大きく長い耳をピクピクさせてうれしそうだ。
「まァ、隊長は元王族だし、何だかんだと忙しいからよォ。けど、希望者がすげェ人数になっちまって。困った副隊長が俺らに相談してきたワケェ」
「へー。副隊長に頼られるなんてすごいね!」
「まァなァ。普通に考えたら上級騎士から講習を受けさせる流れだろうけどォ、シューは身分とか気にしねェだろォ?」
「そうだね」
理解してくれてうれしいと、守生は大きく頷く。
「だからァ、見目のいいやつにしようかとか、でも俺みたいなブサイクでもシューは贔屓してくれるからそれは関係ねェとかァ、いろいろ意見が出てェ」
「ナニソレ……」
(全っ然、理解してくれてない!)
「んでェ、シューが気にしてた二階の掃除を積極的にしたヤツを優先しようってことになったァ。まァ、それでもけっこうな応募人数になったんだぜェ? 俺らの変化に気づいた、第五部隊以外のヒトも応募してきたしィ」
「うわぁ、大変だったんだね。それでどうしたの?」
「選抜だなァ」
「どうやって? あ、それで掃除に繋がるのか!」
「そういうことォ。能力の高い上級騎士は下級召使いの部屋の掃除なんて嫌だって言うから、いい方法だったぜェ。まァ、ウチの部隊は全体的には変わり者ばっかだから、そういうこと言うヤツは少なかったけどよォ」
「へー」
(元王妃が部隊長をやってるくらいだもんなぁ。扱いにくい変わり者が集まるのも分かるし、マリア隊長の好みも影響してそう……)
その一例がアベルアヌビスだ。スラムから孤児院に移り、兄貴分のドムトートを追って、女性ながら騎士候補生になった。マリアマァトのお気に入りだ。
家柄や身分よりも、本人の資質や能力を重視する点で自分もマリアマァトの同類だ。守生はこっそり笑った。
「でもでもっ、掃除が苦手って先輩は結構いましたよねっ」
「だなァ。そういう人は荷運びとかァ、拭き掃除した後の汚れた水を捨てる係とかァ、やりたがってたなァ。俺は護衛してたから、掃除するところを直接見たわけじゃねェけど」
「作業を分担すると早くできて良いって、ネイサン副隊長が言ってましたっ」
「そうなんだ。つまりこの人たちは氣道を習えるのがうれしいから喜んでるんだね」
「それもあるけどォ、掃除、家具運び、浄化魔法、水魔法、収納の羊皮紙を持ってるヤツを優先したからなァ。水魔法も威力ないほうが掃除向きでェ、この人たちは感謝してるってわけェ」
「ああ、それで活躍の場を与えてくれて感謝ってことかぁ」
守生たちの会話を聞いていた騎士たちが、大きくうなずく。守生はいかつい男たちの迫力に、へらりと意味もなく笑った。
「火魔法しか使えない先輩、泣いてたっす。第五部隊で一番火力があるのにって!」
「そうなんだ……。その人にも早く順番が回ってくるといいね」
「伝えておきますっ!」
アベルアヌビスが灰色と水色の瞳を輝かせて、返事をした。同じ火魔法を使う者同士、親しいのかもしれない。
「じゃあ、みなさん。そろそろ始めましょう!」
「ハイッ!!」
騎士たちの野太い声に気圧されつつ、守生は立ち上がった。侍女ヘレナヘケトが、すぐさま収納の指輪で椅子を片付ける。
「えーと、じゃあまずは、両手を伸ばして前後左右の人との距離を取ってくださーい」
「はいッ!」
三十人の騎士たちの声が、会議室いっぱいに響き渡る。
「僕の姿が見えるように、前の人と少しずれて並んでくださいねー」
「はいッ!」
再び、三十人の野太い声が響き渡る。
「えーと、返事しなくても大丈夫でーす。分からないことがあったら声をかけてくださーい。……ドム、アベル、散らばって、手本を見せてあげてね。言葉で教えるのは僕がやるから」
「うっす!」
「はいっ!」
「あの、私たちも……あの」
「シュー様、私たちもお手伝いできます」
「ぼくもー!」
「うん、ありがとう。よろしくね。アリーくんは僕かレネーさんのそばから離れないでね。一番大事なお仕事だよ」
「はーい!」
◆ ◆ ◆
作者の神戸エルドラです。ここまで読んでくださってありがとうございます。
この下に、守生と騎士コンビの表紙風イメージ画があります。
小説の良さは、自分で想像できることだとは思うのですが、せっかく描いてもらったので、お披露目したい気持ちもありまして……。
守生の顔は、アケク(グリフォン)の大きな羽根で隠しています。ギリシャ風の服装をお楽しみください。
イメージの正解は皆様それぞれの中にあると思うのですが、よかったらその一例をご覧ください。
ご自身のイメージを大切にされたい方は、ブラウザバックしてくださいね!
OK?
https://37307.mitemin.net/i580581/
「アベルアヌビス、まじアベルアヌビス!」と私は思ったのですが、いかがでしょうか。
最初「オオカミ頭」としていたので、そのイメージのままの方には申し訳ありません。
アヌビス神ってジャッカルとか狼とか言われてるんですが、古代から存在する犬種「イタリアン・グレーハウンド」や「ウィペット」のシュッとした感じがアヌビス神の絵に似てるなぁ、と思い、参考にさせていただきました。(私が描いたわけではないけれど)
ドムトートの絵は、ヒヒ顔というよりサル科になっちゃったんですが、雰囲気はこういう感じです。ガニ股! 真面目な性格なのになぜか誤解されるタイプ!
今話で、本人による「ブサイク」発言があったので、ちょうどいい機会かなと思って掲載しました。
格好いいイメージを持ってくださってる方にはお見せしないほうがいいのかも、と思いつつ……。
この小説、かっこいい男性キャラがいないんですよね……。
守生は草食系男子だし、ドムは若いのにオッサンだし、アベルはいい体格してるけど女性だし、サイラスはイケメンだけど威圧的なシスコンだし。
ビジュアル的には王様が一番かな? ハヤブサ! かっこいい!(でも中身はブラコン)




