66 騎士の誓いと人材育成2
翌日の朝には、城の一番大きなホールで教えることになった。ざっと見たところ、参加人数は昨日の倍だ。それ以外にも、部屋のあちこちに護衛任務に就いた騎士がいる。
国王カールホルスの近衛兵五人も最前列で始まるのを待っている。明日のフィリップハピのお茶会で護衛してくれる騎士たちなので、無下にはできない。王城騎士団のエリートなので偉そうだったらどうしようかと思いつつ挨拶を交わしたが、守生はもちろんのこと、騎士コンビやお稽古トリオを見下すような素振りはなかった。
(前にドムが、騎士団長に見捨てられたから盗賊の出る森に行かされたんだって話してたから心配してたけど、この人たちは大丈夫そうでよかった。護衛騎士同士の連携が取れないのは不安だもんね)
彼らを紹介してくれたマリアマァト部隊長に声を掛ける。一、二度講習に参加しているのを見かけたが、ちゃんと話すのは久しぶりだ。
「マリア隊長、人数が多すぎませんか? 騎士団上層部って反国王派でしたよね?」
(誰がどの派閥かとか把握しているのかな? 僕は侵略戦争反対の和平派だから、必然的に国王派なんだけど。またアベルたちが怪我したら……)
「問題ございません。参加希望者全員に、誓いの儀式をさせました」
「誓い?」
マリアマァトは、守生の前で羊皮紙を広げる。魔法陣らしき図形と共に、参加者の名前が書かれているようだった。収納の魔道具と似ている。羊皮紙はパピルスよりも魔道具にしやすいのだろう。
「シュー様と国王陛下に忠誠を尽くすという誓いです。破ると光魔法の加護を失い、呪われると脅してあります」
「いや、呪いなんてありませんけど!? 呪いのある光魔法っておかしいですよね! チドーは単に、エネルギーを練る訓練ですよ?」
「ですがシュー様の教えを受けた者は、大なり小なり魔法の威力と操作力の向上が確認されております」
マリアマァトが妙にキリリとした顔で答える。美人だが、鬼教官のように叱責されたり、アベルアヌビスを溺愛したりするイメージが強いので、違和感が拭えない。もっとフランクな話し方でいいのだが、まわりに人がいるせいか、守生に忠誠を誓ったせいか、いつも以上に凛々しい態度だ。
「結果が出るの、早すぎませんか? 異世界だから?」
「教え方が良かったのでしょう。特に、新入りのドムトートとアベルアヌビスの成長が目覚ましいため、先輩の面子があると熱心に自主練習をしたようです」
「へー」
(でも、ドムとアベルは【DNAアクティベーション】を受けてるからなぁ。それでエネルギーの通りが良くなってる可能性もあるんじゃないかなぁ)
「まだまだ希望者は増えています。彼ら全員が誓いを立て終われば、王城騎士団員の七割以上が国王派になりますね。実際は【大いなる幸い】派ですが」
「え!? 単純すぎませんか!?」
「利を配り、影響力を与えるとはこういうことです」
「……まぁ、いいですけど。希望者が七割ですか。今まで、何割参加したんですか?」
「一割程度でしょうか」
マリアマァトがあっけらかんと答える。
「たったの!?」
「ええ。シュー様にはますます頑張っていただきませんと」
マリアマァトがニヤリと笑う。やっぱり鬼教官だったと、守生は肩を落とした。
その日、守生はチドーの講習を一時間ひとコマとして区切り、それを三回行なった。
途中で休憩を挟んだが、アリーアヌビスは二回目の休憩後、床に寝転がるとそのまま寝息を立てた。寝ているだけなので、ヘレナヘケトに布を掛けるよう指示して、守生はひたすらチドーを教えた。騎士たちがここに集まってるため、アリーアヌビスとレネーレネネトだけを部屋に戻すと、逆に危ないという判断だった。
騎士コンビとお稽古コンビは部屋の各所に散らばり、動きの手本として活躍した。
特に体が大きくチドーに慣れたアベルアヌビスは、騎士たちから人気があった。本人も体を動かすのが好きなので、すっかりモノにしたチドーを、丁寧かつ楽し気に繰り返す。
ただし第五部隊の騎士ばかりではなくなったため、魔眼を発動して目の色を灰色に統一している。親しげに声をかけられても、アベルアヌビスは魔眼の効果だと考えていた。
ウーナウヌトは最初こそ怯えていたが、動き始めると踊り子の本領を発揮した。アベルアヌビスよりも軽やかに、手からエネルギーを動かしていく。
その美しい体の動きと魔力の動きに、ファンになった者は多かった。
ドムトートとレネーレネネトは守生の動きの通りに、堅実に所作を繰り返す。派手さはないが、タイミングも動きも、守生の手本通りだ。
一方の守生は、騎士たちの期待の眼差しに応えることに疲れていた。
(チドーをして疲れるってことはないけど、声が枯れる……。新しい人にはイチから教えないといけないし、毎回、挨拶の声はうるさいし……いや、はりきってくれてるのはうれしいんだけど! うーん、ノドが痛い……)
七十人を超える筋肉隆々の騎士たちの中に、草食系男子が一人。その違和感に、守生は最後まで慣れることができなかった。




