第463話 第2決戦・オトハ&オウランvsケーラ&メロッタ7
「メロッタ……?」
「……すまないな。失敗した」
血が付着した部分が黒ずみ、ポロポロと崩れ始めた。
もう身体もマトモに動かないだろう。
「そうか……終わりか」
「そんな……!?」
尻もちをつくように座り込んだメロッタは、もう僕らに目を向けず、ケーラへと視線を動かした。
その顔は、笑っていた。眉を八の字にして、無理しているようではあったけど、たしかに。
「悔いがないといえば、嘘になるな。……だがナユタ様に仕え、ルクシア様に仕え、裏切り、許され、愛する人と共に過ごしたこの時間は―――どれも……ああ、ダメだな。死の間際とは、こんなに陳腐な言葉しか出てこないのか」
喋っている間にも、顔のヒビが広がっていく。
メロッタさえ死ねば、攻撃手段が限られているケーラはどうにでもなる。
それまでは待機だ、変に欲を出して近づいて、死の間際のカウンターを食らう可能性がある。
オトハも同じ考えらしい、青い顔をしながらも吹っ飛んだ手を薬液に浸し、回復を図っている。
「ケーラ、逃げろ」
メロッタとケーラは、敵だ。それはどうしようもない。同情もしない。
それでも、2人の関係を引き裂いてしまう自分に、一切罪悪感がないとは言えなかった。
「……いえ、無理です。貴方が死ねば、自分1人で彼らから逃げ切ることは不可能ですから」
僕はもうすぐ無敵化も薬も切れ、しばらく動けなくなるが、副作用を無効化出来るオトハは関係ない。
封印魔法に対する毒劇魔法の相性の悪さはあるが、メロッタがいなくなればケーラのジリ貧になる。
最終的には確実にオトハが勝つはずだ。
「……そうか。主君様に申し訳ないな」
「まったくです。―――仕方がありませんね。不安は残りますが、あとはホルンとリンクに任せましょう」
「はははは!いやいや、あの2人ならば立派にやってくれるさ」
あと数秒、観察に徹しろ。
魔法を使う気配を見せたら、即座に妨害する。
「では」
「死花、咲かせましょうか」
敵が頷き合うのを見て、僕らは同時に駆け出した。
嫌な予感が、いよいよ現実味を帯びてきた。
だが、距離的に魔法の解放前に殺せるはず!
「……甘い」
直後。
周囲一体を、透明の膜のようなものが覆った。
「はやっ……!」
いや、早いなんてものじゃない。
これほど広範囲へ影響を及ぼす魔法を一瞬で展開とか、下手したらナユタ級じゃ……!?
あの天才と同レベルなんて不可能だ、なにか種があるはず!
通常ではありえない範囲、速度の魔法を成立させるには―――!
「まさか……禁術!?」
「ご名答、です」
身体の崩壊が始まるメロッタと、頭を抑えたケーラが、互いを支え合いながら手を伸ばしている。
いや、よく見ると、ケーラの腕に、砂鉄が突き刺さって……!?
「まずい!」
こいつ、禁術による脳内麻薬の分泌を、砂鉄で肉を引き裂かれる痛みで無理やり耐えてる!
「アハ、ハ、ハハ……!これは、効きますねぇ……!」
「ケーラ、もう少し持たせてくれよ」
「ウフフフ、分かってますとも!」
何を犠牲にしてブーストをしている?
決まっている、自分の命を凄まじい勢いで消耗させているんだ!
だから魔法の発動も早いし、平然と極大の魔法を使える!
「な、なぜ禁術を使えますの……!?今やほぼ失われた技術のはず!」
「忘れたか?禁術についての研究書、『ハルの呪術書』は我らの手にある。あれは読むと精神を支配されるが、それはあくまで生者のみ。死霊魔法によって一時的に死人と同列となったホルンであればノーリスクで読めるんだよ。我々はそれを聞いただけだ」
〜〜〜〜っ、しまった!
「ただでは死にませんよ……せめてあなたたちだけでも、私の命で封印させてもらいましょうか!!」
……無敵化によって一時的に凌げてはいるが、封印の外に出られるかは五分五分だ。
しかもオトハは、既に封印の影響を受け始めているのか、徐々に動きが鈍くなっている。
今、ケーラを殺せば止まるか?
「はあああああ!!」
死の間際の金属魔法が、邪魔をするなとでも言いたげに舞う。
……無理だな。あと10秒もしないうちにメロッタが死んで解けるだろうが、僕の無敵化はあと4秒だ。
間に合わない。
なら出来ることは。
「くそっ……」
全速力で封印の外に―――!
「この、お!」
「!」
このまま走ったとして、逃れられる可能性は低い。
封印されたらどうなる?意識はあるのか?それとも時間が止まるのか?
いずれにしろ、ろくな事でないのはたしかだ。
僕は、こんなところで立ち止まる訳にはいかない。ノアマリー様の側近として、あの御方の悲願を果たす姿を見るため。
そして、僕を待ってくれているあの子のために。
やりたいこと、成し遂げたいこと、まだ沢山ある。
こんなところでその全てを失いたくない。
命を犠牲にした封印なんて、ナユタすら解けるか怪しい。
封印されたら、人生が終わるかもしれない。
そんなのは嫌だ。
……嫌、なんだけどな。
「オトハ」
「なんですのこんな時に!ちょ、これ本当に……!」
必死に封印を解こうとする、オトハの姿を見て―――思いついてしまった。
この場における最善を。
「皆によろしく」
「はあ?…………ぇ」
オトハの重力耐性を引き上げ、摩擦耐性を限界まで下げ、襟を引っ掴んで思いっきり……ぶん投げる!
「オウラン!?」
オトハは重力に逆らうとはまではいかずとも、一気に吹っ飛んでいく。
……これでいい。僕が走るよりこっちの方が速い。
僕より、オトハが封印の範囲外に出られる可能性の方が高かった。そっちをとったまでだ。
「なにを……なにをしてますの……!?」
怒声が響いたが、僕は振り返らなかった。
『オウラン、大丈夫ですわよ。お姉ちゃんがいますわ』
……思い出すな。生まれた頃からずっと閉じ込められてきて、あいつだけが心の支えだった。
『ちょっとオウラン!これ見てくださいな、お嬢様のかんだティッ』
……それがなんでああなっちゃったかな。
『ほら、立ちなさい。心配ありませんわ、私がいるんですから』
馬鹿で、変態で、どうしようもないくらい迷惑なやつだけど。
でも、ずっと僕を守ってくれた。僕を助けてくれた。
「……1回くらい守らせろ。馬鹿姉貴」
また会えることがあったら、きっとぶん殴られるだろうな。
生まれて初めてだ、痛みを楽しみに感じたのは。
「身を呈して姉を守る、か。敵ながら見事だ」
「そんな立派なもんじゃない。出来ることをしただけだ」
「フフフ、そろそろ終わりですね!命が、燃えていくのを感じます……!」
やっぱさっきから、多少は禁術の影響を受けてるみたいだな。テンションがやけに高いぞ。
「そうか。……ケーラ、愛してるぞ」
「!?じ、自分からそう言ってくれたの、初めてでは!?」
「なに、最後くらい素直になろうと思ってな。良いだろう、こんな私も」
「……ええ、本当に!」
やがて視界が狭まっていく。
あー、封印されかけてんのか。どんな封印なんだろうな、本当に。
眠らせてくれると楽なんだけど。
「……主君様、申し訳ございません」
「ルクシア様。我らはいつまでも貴方を―――」
声も聞こえなくなり、やがて思考も、何もかもが塗りつぶされていくように、僕は意識を手放した。
―――ごめんな、ボタン。少し、先になりそうだ。
***
「はあっ……はあっ……!」
1キロ近く飛ばされたオトハは、その道を全速力で戻る。
木々に肌を裂かれても、一切速度を緩めず、進み。
「オウラン!!」
やがて辿り着いた、先程まで戦っていた場所。
しかし、そこにオウランの姿はなかった。
ただ、2人の女の死体のみが、互いに横たわっていた。
最終戦・第2決戦
オトハ&オウランvsケーラ&メロッタ
リザルト―――オトハ&オウラン WIN
決着技―――禁術




