第464話 第3決戦・ルシアスvsリンク
その2人の戦いは、様子見や小手調べなどというものはなく、開始1秒から熾烈を極めていた。
―――ヒュッ。
「おるあっ!」
ソニックブームを発しながら城外を縦横無尽に動き回り、敵を翻弄しようとする男、ルシアス。
「そこ」
「!?うおっ」
対するは1歩も動かず、肉眼では捉えられないはずのルシアスの動きに合わせてカウンターを打った美少女、リンク。
「《異力切断》!」
「《誤差拡張》」
拮抗する実力者が、魔法を織り交ぜつつ、その身体と身体をぶつけ合わせる。
「《縮地》」
「おわっ!」
1分近く続いたルシアスの猛攻を耐え、リンクが動く。
木々の間を抜けながら軌道を変えるためにほんの一瞬だけ止まったルシアスの身体に、リンクが触れかける。
「んのっ」
ルシアスはそれを僅かに身体を逸らして回避、そのままムーンサルトを仕掛けた。
「ふんっ」
「なあっ!?」
だがリンクはその足を加速し切る前に左手で掴み、右手で関節を抑え、緩急をつけて腕を回した。
途端、300キロを超えるルシアスが、空中でグルグルと回転を始める。
「っと、た……!」
その隙を見逃さず、回転に合わせて放たれたリンクの裏拳が、彼を正確に捉えた。
その勢いで50メートル近く吹き飛ぶルシアス、しかし腕を地面に突き刺して勢いを殺して耐える。
「ふっ、ぶっ、ははははは!!」
ルシアスは笑う。
冷汗をかきながらも、楽しそうに。
「……嘘でしょ?」
圧倒的技術を見せつけたはずのリンクは、恐怖に近い感情を抱いた。
「なんで当たらねえんだ!!」
「なんっで効かないのよ!?」
ここまで約7分。
常人ならばとうにミクロの世界の住人と成り果てていたであろう2人の本気の攻撃は、互いに一切ダメージを与えていなかった。
ルシアスが放つ攻撃は全ていなされ、リンクが繰り出すカウンターは全て僅かな痛みを与える程度。
那由多との戦いを経て、その超人体質に磨きをかけ、今や物理攻撃のほぼ全てをシャットアウト出来る、この世界におけるイレギュラー。
ただ「強い」だけでこの世界に認められ、転生へと至った、異界からのイレギュラー。
魔法が存在するこの世界では異質、ベクトル違いの武の極致が本気でぶつかり合い、未だ互いに有効打を与えられていない。
その事実を肌で感じ取った両者は、同時に生唾を飲み込んだ。
「……冗談だろおい。5000発はぶち込んだだろ、なんで掠りもしねぇんだよ」
「こっちの台詞だわ、100発は急所を突いたじゃない!なんでピンピンしてんのよぉ!」
リンクが最も得意とするのは柔術だが、あらゆる武道の才能を持つ彼女は当然、数多くの打撃も修めている。
鼻、喉、鳩尾、こめかみ、人体のあらゆる急所に対し、殴打、指突、内部破壊、発勁、思いつく限り試したが、まったく通用する気配がない。
対してルシアスも、瞬間的にはマッハ2に到達する速度で立体的に動き続け、その力を惜しみなくぶつけたが、その全てを防がれいなされ返され、擦り傷すら与えられなかった。
「すげぇ。すげぇよ、お前。俺だって武術は心得があるんだぜ?つーかそこそこなもんだと自負してたんだが、お前に比べりゃ赤子の遊びだ。最高だぜ」
「なにがそんな面白いのよ、気色悪っ!」
心底楽しそうなルシアスとは対照的に、リンクの顔は盛大に引きつっていた。
「なんだお前、うちのクロと同じタイプかよ。そんな強いのに勿体ねぇな、もっと楽しもうぜ」
「馬鹿なの?可愛くもなけりゃ美しくもない、ガサツに見えるし汗臭くなるしあんたみたいな変人も引き寄せる、何もいいことないじゃない」
「誰が変人だコラ」
心底うんざりしたような顔でそう語るリンク。
「いい?リンクは、できるからやってるだけ。そっちが楽しむのは勝手だけど、それをリンクに押し付けないで」
―――その姿、その言葉ははまるで、自分自身を否定したいかのような。
「押し付けてるつもりはねぇが、まあ気をつけるわ。……だがそうかよ。俺が楽しむのは勝手なんだな?」
『言質はとった』。
そう言わんばかりに、音を置き去りにしながら、リンクの間合いへと侵入する。
額に目掛け、デコピンの形に手を作った。
それは本当にただのデコピンだが、ルシアスの膂力で放てば、それは弾丸とほぼ同じ威力となる。
「ちっ」
「!?」
指が弾かれるのとほぼ同時、その指目掛けてリンクが頭突き。
デコピンを封じられ、それでもまだ左手が残っている。脇腹目掛け2本の指が槍のごとく襲いかかった。
だがリンクは両手でルシアスの服の裾を掴み、身体をルシアスに密着させることで指をかわした。
(阿呆かこいつ、この体制でどう反撃を……)
かわされたとしても、両手が塞がったリンクと異なり、ルシアスは両手がフリー。
そのまま鯖折りで身体をへし折ろうと、勢いよくリンクに抱きつこうと―――。
「1億年、早いってのよ」
「は?う、おおおおお!!?」
直前、リンクはルシアスの服の裾を噛み、両手と合わせて独特な動きをつけた。
その結果、ルシアスはまるで無重力のように浮き上がり、直後に落下を始める。
「……花藤流、“破落”」
リンクは嫌そうに、だが染み付いた習慣を反芻するように、技名を呟いた。
リンクの腰辺りまで落ちたルシアスの顔と腹に手を置き、指の位置も調整。
あまりの出来事に放心し、なされるがままのルシアスの腰に膝を入れ、僅かに上昇した身体を一気に地へ叩きつける。
「ごはっ……!」
流石のルシアスも、集中的に急所へ凄まじい圧力を与えられれば、強烈な痛みは感じる。
「いでえええ!?」
「……あいいいいいったああああああ!!」
だが、ただではやられなかった。
指が触れた瞬間にガードとカウンターを諦め、叩きつけられる直前に筋肉を強ばらせた。
するとルシアスの身体は局所的に鉄すら容易に砕く硬度となり、人体を前提に生み出された技は、その強烈な反動をリンクに及ぼす。
「クソが、指折れたじゃない!か、可愛い可愛いリンクの細指がぁ!!もおおお決めた、絶対ぶっ殺すから!!」
「ぐえっほ!……はははは、そんだけ指があらぬ方向に曲がっといて悪態つけるとは、見かけによらず豪胆な女だ!」
あらぬ方向に全ての指がぐちゃぐちゃに曲がっている者、多少の痛みは残るものの動作に異常はない者。
今この時どちらが優勢かは明らかだった。
リンクの技量をもってしても対応しきれない、生物としての絶対的な格。圧倒的な身体の作りの違い。
リンクは憤りながらも、その「差」を理解していた。
だがそれでも、アドバンテージが向こうにあるとは、決して思っていない。リンクにはリンクの、圧倒的な強みがある。
顔を顰めながらも指を見て、そのグロテスクさに反射的に瞬きをする。
次の瞬間、指は最初から何事もなかったかのように戻り、痛みも消えていた。
「転生特典……“リセット”だっけか?反則だろうが」
「あんたに言われたくないわよエテ公。覚醒した超人体質……多分、昔の私より……」
ルシアスにも再生能力はあるが、あくまで生命を維持するための防衛本能によるものであり、その速度は遅い。
対してリンクは、傷を「なかったことにする」能力である以上、その再生速度は常軌を逸している。
(あんだけの速度でダメージを無効化されるなら、多分頭吹っ飛ばすくらいしねぇと即座にリセットされるだろうな。ナルシストのこいつが顔への攻撃を対策してないとは思えねぇし、現実的じゃねぇ。とくれば……)
(急所へのダメージすらほぼ無効化……でもナユタとバトった時、こいつナユタの攻撃がぶっ刺さってたわよね。刺突は効くのかしら?でもリンクの貫手じゃたかが知れてるし、気が進まないけどここは……)
武の頂にいる2人が、アドレナリンで加速した頭で、殴り合う直前に頭を巡らせる。
―――この怪物を、仕留めるには。
(ナユタと同じだ。こいつの動きをよぉーく見て、覚えて……隙に、何度でも致命の一撃を叩き込む!リセットが尽きるまでな!!)
(……金的だわ、金的しかない)
互いの勝機を見出し、世界一の剛と柔が、激突する!
諸事情により、次回更新お休みいたします。
次回は5/15予定です。




