第462話 第2決戦・オトハ&オウランvsケーラ&メロッタ6
密度が薄れること覚悟の砂鉄による誘爆。
無論、敵もその隙を突かれることを察している。背中合わせになり、全方位を警戒し始めた。
だがそこには、メロッタが片目を失っていることによって僅かな死角がある。オトハはその場所を見定め、限界まで圧縮した毒弾を放った。
どちらかでいい、あれが当たればほぼ勝ち確だ。
「ケーラ、伏せて封印を。5秒でいい」
「はい」
敵もそう馬鹿じゃない。
だが、何をする気だ……?
「《超合金炸裂》」
僅かな溜めの直後、目の前が銀色に染まった。
雪?いや、もっと鋭利なものだ。なにかは分からないが、金属、それも凄まじい硬度の―――!
「オトハ!!」
砂鉄と金属片が入り乱れて視界が定まらない!
オトハは無事か?あいつなら心配ないだろうが、こんな高威力の回避不可攻撃だ、溶解し切れるのか……!?
クソッ、間違いなく最高位魔法だ。
砂鉄なんて比較にならないくらいの強力な金属を無数に生み出し、一斉に超速で解放したのか。
想定していたとはいえ、想定以上の威力と範囲だ。オトハは作戦を続行しているか?
……してる。あいつはそういうやつだ。
こんなところで死ぬような奴じゃない。
なら、僕も僕の仕事を全うする。
「よし!」
《無敵化》の時間切れ、およびオトハの超人薬が切れるまで、あと2分。
敵はそれまでの時間を稼げば勝ちだから、この高密度攻撃は間違っていない。
こんな金属片の嵐の中じゃ銃も使えず、オトハの毒も途中で止められる。
時間が経てば無敵化が切れて僕はズタズタになって死ぬ。
その前に、やるべきことを完遂しなくては。
視界は悪いが、敵の向きは把握している。
走る。無敵化に物を言わせて一気に!
やがて、一気に視界が開けた。予測通り、自分たちの周辺には金属片も砂鉄も展開していない。
「《錬成・タングステン手裏剣》」
メロッタは一切の焦りを見せない。むしろ喜んでいるように見えた。
ようやく僕とオトハを分断できたんだ、僕1人ならゴリ押しで勝てると思ったんだろう。
金属の位置を知覚できるメロッタは、それを全面展開している今、オトハの位置も把握している。
僕が近づいて、僅かに顔を綻ばせた。それはオトハがまだ遠くにいて、僕とすぐに合流出来ないってことだ。
「《空間封印》」
「っと!」
そう。
オトハが遠くにいる。
それが僕の欲しかった、値千金の情報だ。
なら僕の仕事は、オトハに目がいかないよう、ここでこいつらを釘付けにすること!
「なるほど、攻撃が効かないな。耐性魔法の無敵化か。ならば―――《錬成・純金枷》」
「うおっ!」
4個の枷が僕に襲い掛かってくる。
無敵化は僕へのダメージを無効化するだけ、拘束は通用する。
今、僕が足止めされれば、オトハに注意がいくかもしれない。それは避けなければ。
素早く銃を引き抜き、ゴム弾ですべての枷を叩き落とす。
「なに!?」
残り1分。そろそろやばいぞ、オトハ。
少し焦る。だが―――。
「……え?」
メロッタの小さな声が上がった。
……顔に、数滴の赤い斑点がある。
さっきまではなかった。たった今、付着したんだ。
「なん……だ……!」
―――きた。
メロッタの目が虚ろになり、周囲の金属片が一気に解除される。
「メロッタ!?」
完璧だ。
「ナイスだ、オトハ」
「貴方もね」
横を見ると、右手の肘から先がほぼ吹っ飛んでいる―――けど命は無事なオトハが、荒い息を吐きながら笑みを浮かべていた。
***
メロッタとケーラを相手にする時の、最大の対策。
それは勿論、砂鉄の攻略だった。
まあ今回はそれが、結果的に砂鉄ではなくあの最高位魔法になったわけだが。
『あの砂鉄って、生身で触れたらアウトなんだよな』
『ええ、微振動で僅かな接触でも身体を破壊される、とナユタ先生が』
『となると、一番気を付けなきゃいけないのは―――』
『全面展開による無差別攻撃、これが一番厄介でしょうね』
『けど、砂鉄はお前が溶解できるんだよな。僕が無敵になれば攻略は可能だろう』
『ええ。防ぐだけなら、ね?』
『うーん……たしかに、攻撃に転じれらなきゃ千日手か』
作戦は難航していた。
だがそこで、オトハがとんでもないことを思いついた。
『あ、閃きましたわ。その厄介、利用してしまえばいいのでは?』
『おん?』
『実は私、来るべき日のために奥の手を用意してますの』
オトハの奥の手。
ろくなものな気がしなかった。
『なんだそりゃ』
『私ですわ』
『……はあ?』
『正確には、私の身体を巡る血液、ですわね』
血液……?
『私の血は今、長い時間をかけて〈S-4〉を巡らせているんですわよ』
『〈S-4〉ってたしか……細胞をぶっ壊す猛毒だっけ?』
『正確には破壊するだけでなく、そのぶっ壊した細胞が〈S-4〉と同様の性質を持つようになります。つまり、連鎖的に細胞をぶち壊していくわけですわね』
『……それってつまり?』
『まあ平たく言いますと、今の私の血に触ったら死にますわ』
『お前絶対自分を大事にしろよ』
『あら、お気遣いありがとう』
『お前を気遣ったわけじゃないわ!……まあいいや、それで?』
オトハはニッコリ笑って、悪魔のような作戦を語り始めた。
『例えば、砂鉄を全面展開されたとして。あなたは耐性魔法でしばらく持ち堪えられますが、私が耐えるには毒膜を張るしかありませんわ。すると、それに集中するために他の毒は生成できなくなってしまう』
『だろうな』
『しかし、あらかじめ血に毒性を持たせておけば、〈S-4〉は私が血を流せば使えます。〈S-6〉の魔力超人化状態でなら、精度が上がった空気操作で流れた血を圧縮し、スプレーの要領で勢いよく撃ちだすことは可能でしょう』
『そりゃ、理屈の上ではできるだろうが……』
たしかにそれなら、1滴でもその噴射した血が敵に付着すれば勝ちだ。
だが、問題も多い。多すぎる。
『全面展開中はメロッタもこっちの動き把握してるだろ。気づかれないか?』
『毒膜で覆っておけば内部の状態は分からないでしょうし、血を流す時は毒膜を張る直前に一瞬だけ手を膜の外に出して引き裂けば、間に合わずにダメージを負って動けなくなったと思ってくれるかと』
『その間に血を圧縮するってことか。だが封印魔法はどうする?』
『それも恐らく問題ありませんわ。私たちと戦う中で、逆に敵が最も警戒している我々の手段は何だと思います?』
『お前の、空気中に毒散布だろうな』
『でしょう?だから封印は十中八九その対策に回されます。具体的には、ケーラとメロッタの周囲の空気を封印で固定し、その他の気体が入って来られないようにする、というのが一番有り得る手段ですわ』
確かにその方法なら、ウイルスや毒ガスの類いは完全にガードできる、が。
『封印魔法は結界魔法とは異なり、その場で防ぐというよりあらかじめ封じて使えなくする、というのが理想的な運用方法。実際今までの戦いでも、我々の攻撃は空間を封印して届かないようにするという防御行動をとっていました。気体をあらかじめ防げても、直接攻撃の手段である液体や私自身の接触といった攻撃には、引き続き空間封印で対応しようとするでしょう』
『そうしないと魔力が持たないんだろうな。明らかに燃費悪そうな魔法だし。……となると、血の散布はケーラにバレなきゃそのまま通るのか』
どんなに細かくしても液体は液体だからな。
『なるほど。僕の役割は、お前が血を圧縮して撃ちだすまでの時間を稼ぐことか』
『理解が早くて何より。決行は金属の全面展開時。視界が悪くなり、メロッタの金属探知に頼らざるを得なくなった時です』
『お前の方からも見えないだろうから、当たるかどうかは賭けになるな。スプレーした血が全部金属片に阻まれたら終わりだ』
『その時はもう、仲良く地獄行きですわね』
『最後はお前とか……』
『そうならないように、せいぜい敵の注意を引くことですわ』
オトハは笑っていた。
怖い笑みではなく、なにかを気遣うような笑みだった。
『ボタンちゃんを、悲しませたくはないでしょう』
***
まんまと作戦が嵌まった。
細胞を連鎖的に破壊する猛毒、その進行速度はオトハの毒の中でもダントツトップ。
封印魔法ではどうにもできないだろうし、仮に出来たとしても一時しのぎだ。
メロッタの死は確定した。
……だが、なんだ。この悪寒は。




