草津プラクティス
この物語はフィクションであり、実在の地名、団体とは一切関係ありません。
公道での乗用車による高速・危険走行は生命に危害を及ぼします。
作中での行為は絶対に真似をしないで下さい。
自動車を運転する際は道路交通法を遵守し、安全運転を心掛けてください。
また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキット及び、筑波サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。
実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。
翌朝、九重拓洋は朝風呂に入るため、宿を抜け出し、白旗の湯に向かうと、朝早くから練習走行をしていたらしき、レイブリックNSXと遭遇した。
(うるせえな。朝っぱらから走ってんじゃねえよGTマシンで。)
と、拓洋は片耳を塞ぐ。
そして、レイブリックの後はkeeper LC500だった。
「どこぞの暴走族じゃねえんだから、静かにしてろ。騒音問題で訴えられたらどうすんのさ。夜中走らなかったからいいけど、朝っぱらからうるせえんだよ。どこぞの共産党だってこんなうるさくねえっつーの。」
光泉寺の石段を降りながらつぶやく。
片手には、コンビニ袋に入れたタオルを持って歩く拓洋もまた、レイブリックNSXやkeeper LC500と一緒の世界に生きているのだが、この温度差は何なのだろうか。
「まっ、奴等と俺の合間の温度差は、白旗の湯の熱い湯とぬる湯くらいだろう。まあまあ、俺だって熱いぞ?」
白旗の湯の扉をガラガラと開ける。
脱衣所で服を脱いで、浴槽に入る前に、かけ湯をしてまずはぬる湯(43℃~45℃)で身体を馴らす。
(よし。んじゃ、一発決めるぞ。)
熱い湯に入る前に、またもかけ湯。
「グッ―!」と、かけ湯をする度に気合を入れる。
頭から50杯程度、多いと100杯はかける。こうすることで、全身の血管を広げられ、身体を温度に慣れさせる事が出来る。
そして、熱い湯(48℃~50℃)に身体を沈める。
「ううぉっ効くなっ。」と、呻き声をあげる程に熱い。
(下手に動くな!湯が揺れて余計に熱くなる。)
時計を見ながら思う。
1分経過。
身体を引っ張り出す。
そして、水を飲みながら、木製の床に横になる。
10分~15分程、横になった後、もう一発、熱い湯に入って同じことを繰り返す。
1時間近く、それをしていただろうか。
まもなく、朝食の時間なので、宿に戻る。
(入る前に、まんじゅう1つ腹に入れたけど、メシ喰わんと。今日は、プラクティスだ。)
と思いながら、宿に戻って、朝食会場に入ると、愛衣が腕を組んで待ち構えていた。
「どこ行っていた?」
「白旗の湯に―。」
「あっああ。痔を直したって言うあの?」
腕を組んで、厳しめな説教をしようとしていた愛衣も「白旗の湯」と聞いて納得したらしい。
「てっきり、例のお二人さんとハーレムデートかと思った。」
拓洋はそういう愛衣に、証拠として、自分の腕を見せる。
熱い湯に入った身体は真っ赤になっていた。
「レイブリックとkeeperに会った。あいつらバカじゃねえ?朝っぱらから走ってやがってうるせえんだよ。騒音問題で訴えられたらどうすんだよ。」
「まあ、禁止されてはいないから、やっても問題はないよ。だって、私だってやろうとしたんだからさ。」
「勘弁してくれよ。」
プラクティスの時間が迫る。
プラクティスは2周実施だ。
愛衣と同時にプラクティスを行う集団には、カルソニック坂野も含まれていた。
そして、拓洋と同時に行うのは、ARTA月夜野、レイブリックNSX、その他、S660もいた。
先にスタートする愛衣は、拓洋とすれ違いざまにウィンクする。
拓洋も「コクリ」と頷いて応えた。
プラクティスが始まる。
愛衣はいきなり勝負を仕掛けず、坂野の後を80%の力で走る。
(予選は95%。レースは100%で行く。まあ、今は、坂野さんのテクをじっくり観察させてもらうよ。)
と、愛衣は思いながら、坂野のR35GTRを観察する。
拓洋もまた、ARTA NSXとレイブリックNSXの後を走り、2台の様子を伺う。
レイブリックNSXの山河尚也は、自分よりクラスが下のはずのS660がぴったりと食い付いているのに気付いた。
(S660で食いつくんか?こっちはGTマシンだぞ?まあ、公道だからマージンは取っているけどさ。)
ARTAの月夜野はこれを予想していたのだが、山河は予想できなかった。
(今回はVSAを完全に切った上、馬力を90に上げた。中低速域の立ち上がりの向上はそのままに、馬力を上げたんで、ついてはいける。下りならね。上りは無理だが。)
と、拓洋は思う。
昨日も、愛衣に「最低でも5位」と言ったのは、登りのパワー不足で失速すると予想したからだ。「最低でも5位」とは言ったが、拓洋の出場するプロBにも、ランエボやスープラ、ランボルギーニ、ポルシェ等も居る。
彼らと戦うとなれば、必ず、登りでやられる。
(出来うる限り、プロAに食い込みたいんだけどなぁ―。)
と、拓洋は思う。
スーパー耐久に出場するドライバーが多いプロBにも、GT300で活躍するレーシングドライバーが多数参戦しているし、D1ドライバーもまた、プロBに多い。
だが、金精峠―いろは坂往復レースで、プロAに食い込みまくった拓洋としては、ここでも同じことをして、プロAに出場することを望んでいた。
そして、愛衣に至っては、このレースの結果と次戦の結果次第で、プロA昇格の可能性が出てきている。
(特急「秩父路」を名乗りたいんだが、これじゃあ急行が良いところだろうな。)
と、拓洋は思う。
プラクティスはまだ、始まったばかり。
愛衣はどんどん先へ行く。
それを追いたい拓洋だが、今は、レイブリックとARTAの後を必死に追うのが先決だった。




