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純白のSと共に  作者: Kanra
36stage群馬湯けむり公道レース
397/435

ファーストコンタクト

この物語はフィクションであり、実在の地名、団体とは一切関係ありません。

公道での乗用車による高速・危険走行は生命に危害を及ぼします。

作中での行為は絶対に真似をしないで下さい。

自動車を運転する際は道路交通法を遵守し、安全運転を心掛けてください。


また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキット及び、筑波サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。

実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。


 九重拓洋は、ARTA NSXとレイブリックNSXに続いて、浅間・白根・志賀さわやか街道に入る。

 ここまでの間に、九重拓洋のクラスの車と、九重拓洋の差が5秒は開いてしまった。

 一方で、レイブリックNSXと九重拓洋の差は1秒。

 レイブリックNSXと九重拓洋のS660の差の方が小さい。

 GTマシンは、レギュレーションで、ピックアップの多いソフトタイヤは使用できず、履ける中で一番柔らかいのはミディアムタイヤだ。

 また、プロBクラスでも05タイヤやSタイヤ等、極度にソフトなタイヤを履くことは出来ない。

 九重拓洋の場合は、市販タイヤなので問題は無い。

 ちなみに、坂口愛衣はミディアムタイヤを選択している。

 ドローンカメラとヘリの空撮で、時折、九重拓洋の映像が流れ、それを、観客として来ている松風あやかと三条神菜が見守る。

 プラクティスでも、実況と解説が行われているので、レースに疎い視聴者でも安心だ。

 九重拓洋は、カメラも意識していない。

 意識しているのは、レイブリックNSXの後ろ姿だ。

 千之入四つ角バス停を通過。

 この時点で、レイブリックNSXとの差は開き始めていた。

(雨の恩恵で、GTマシンを次々に追い抜いたんだよな。コンディションが良いと、そりゃこうなるよ。)

 と、拓洋は思うが、それでも、レイブリックの後を追う手を緩めない。

(分かってはいる。離される事は。でも、付いていけるところまではついて行く。レイブリックが相手でも、ARTAが相手でも、それは変わらない。)

 峠の区間に入ると、スピードの速いレイブリックとARTAはブレーキング。

 しかし、軽量のS660はパドルでギアを落としたが、ノーブレーキでコーナーに飛び込む。

 今井川を渡る。

 レイブリックNSXの山河尚也は一度、後方を確認して「おや?」と思う。

 まだ、S660が着いてきているからだ。

「後、S660が来ています。クラスBだと思われます。」

「そいつは例の―。」

「ああ。例のあいつらか。」

 山河尚也はそれが、ホワイトレーシングプロジェクトのS660と知ると「なんだ。あいつらか。」と笑った。

 しかし、無線の向こうにいる伊野部エンジニアは、九重拓洋をバカにしている山河尚也を咎める。

「そうした油断は命取りだ。そもそも、下りとはいえ、軽スポが食い付いているんだぞ。一応警戒しておけ。」

「分かってます。」

 伊野部エンジニアの予想は当たった。

 山の駅笹見平前の高速右ヘアピン。

 ここで、九重拓洋が三味線を弾くのをやめたのだ。

「ちょっと、勝負しかけさせてください。山河さんに、月夜野さん!」

 S660がインサイドに飛び込む。

「はっ!?何考えてんだこいつ!」

 山河は自分のイン側にS660が居るのに驚いた。

 そして、S660のインサイドからは砂塵が舞っている。

 条件反射的に、山河はアウトへ逃げた。

 サイドプレスを喰らうと思ったからである。

 しかし、それもされず、だが、明らかにオーバースピードでS660がジェットコースターのようにコーナーを抜けて行ったのだ。

「―。」

 ARTAの月夜野はミラー越しにそれを見ていた。

 そして、月夜野の予想通りの事が起こっただけだった。

「溝走りだ。車高の低いGTマシンやチューニングマシンでやったら、腹打ち付けてぶっ壊れるが、あのS660は可能だ。」

 土谷が冷静に言う。

 その先、高速セクション。

 九重拓洋は、ARTAの真後ろにくっ付く。

 九重拓洋の後でレイブリックが仕掛け返すのを狙っている。

 高速セクションの先、直角の右コーナー。

 ARTA NSXがブレーキング。

 しかし、S660はそれに1秒近く遅れてブレーキングした。

「そうなるよ。ちょっと前に行かせて様子見てみろ。」

「了解です。」

 土谷の罠だった。

 九重拓洋がここで仕掛けると、土谷は読んでいた。

 そして、読み通り、九重拓洋はここでARTAもパスしてしまった。

 だが、九重拓洋はARTAが露骨に、ブレーキングを早めたように感じてしまった。

 それを妙に感じた九重拓洋は、その先のストレートでARTAとレイブリックを前に行かせてしまった。

(戦略、見られるとイヤなんでね。)

 と、拓洋は思った。


 坂野の真後ろに、坂口愛衣のS2000GT1。

(坂野と坂口。一文字違いの争いやろうかやらないか―。)

 と、坂口愛衣は坂野大樹のカルソニックGTRのテールを見ながら思う。

 坂野の前には、愛衣のチームメイトになった大山神威のNSX NC1。

 大山神威はあさぎりレーサー時代に公道レースに出場した経験もあり、クラスは坂野と同じプロAだった。

「大樹。プラクティスだからって、手を抜くなよ。潰したかったら潰しちまえ。」

 と、星賀監督。

「了解。三叉路越えて、湯釜の駐車場のストレートで大山神威を抜いて、S2000なんか消炭にしてやります。」

 三叉路を越える。

 そして、湯釜前の駐車場のストレートで大山神威を捉える。

 だが大山神威は露骨に後ろへ引く。そして、引き際、大山神威は坂口愛衣に手で「先に行け!」とサインを送っていたのだが、それを、坂野は見逃していた。

 なので、湯釜からのダウンヒルで後ろについているのが、大山神威のNSXと誤認したため、坂口愛衣のS2000GT1が真後ろにピタリと張り付いていると気付くのに遅れた。

「おい。後はS2000だ。」

「なんだと?後ろにいるのはNSXでは―。」

 星賀監督からの無線で初めて、後に居るのが坂口愛衣のS2000GT1である事を確認した。

「なぜだ?」

「正体不明だそいつは。油断しない方がいい。」

「何をどうしたって、こいつに敵う物か。」

 坂野は鼻で笑った。

 だが、愛衣はオーバーテイクのタイミングを伺っていた。

(オーバーテイクは、展望スペースの次の右コーナー。坂野さん。悪いけど、サーキットだけで鍛えたのでは、公道レースで勝てないのです。定点カメラが中継している展望スペースの次、右コーナーではドローンが撮影しています。その前で撃墜されるのはKO負け。いや、屈辱的でしょう。ですが、拓洋の顔に泥を塗られたので。拓洋の敵は取らせていただきます。)

 展望スペースが見える。

 カルソニックGTRがグリップでクリア。

 それに間を置かないで、S2000GT1もクリアしていく。

「デイッ!」

 立ち上がり重視の溝走りで、一気に立ち上がり加速。

 そして、坂野とサイドバイサイドになる。イン側にS2000だ。

(ヘアピンなのに減速しねえ。しかもインサイド。バカめ。そんなんで抜けるもんか!自殺しようってのか?)

「よっと。」

 坂口愛衣はS2000GT1をインサイドの縁石に引っ掛けた。

「げっ!?」

 坂野は絶句する。

(サーキットやジムカーナだけのクローズドから公道に出てきたら、分かっていても対向車が来るって思い込む。来ないって分かっていても、来るのではないかって思う。だから、どうしたって右コーナーではインに寄せきれず、寄ってもアウトサイドへ行くようにカウンターを組み立てる。そこに隙があるのよ。そこを突いて更に、ラリーのテクニックも食らわせればゲッツーってわけよ。お分かり?サーキットばかりのおバカさん!)

 坂口愛衣はヘルメットの中で「ニシシ」と笑った。

「テンメェ。ふざけやがって!調子に乗るな!たった一回ぶち抜いたからって、いい気になるなよ、女が!」

 坂野がプラクティス中にキレた。

 高速のストレートの先にS字。

(連続逆ドリフト!)

 戦略を組み立てる。

 そして、その通り、1つ目をドリフトで抜けたが、そのままの勢いで逆ドリフトに持ち込む。

 派手に白煙が上がると、後を走る坂野に直撃。

 目くらましを喰らった坂野は、更に激昂。

「野郎!ぶっ殺してやる!」

 激昂する坂野に星賀が、

「挑発に乗るな落ち着け!」

 と宥める。

 なぜなら、坂野の真後ろには大山神威も迫ってきていたからだ。

(悪いな。サーキットと公道のテクの使い分けが出来ていねえのがお前の欠点なんだよ。拓洋は確かにまだ未熟である。だが、テクの使い分けに関しては、拓洋の方がお前より上手だな。今の拓洋なら、お前と五分かもしれんな。)

 ストレートで並ぶ。

(後ろへ下がって頭を冷やせ。坂野!)

「ちっ!」

 坂野は大山神威に道を譲ってしまった。



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