8. 狂気
くそ!
計画が狂ってきている。
エマ様が亡くなってから二年が経ち、旦那様は床に伏せがちになった。
(遅効性の毒が、ようやく効き始めましたな。)
私は、笑みがこぼれそうになるのを堪えた。
随分と気も弱くなり、なんとも御しやすい。
ふふっと、ほくそ笑む。
「旦那様。我が娘リゼットを、養女になされてはいかがでしょう?」
突拍子もない提案に、ウェルツ伯爵は目を見開いた。
「なぜだ……」
「もし旦那様に何かあった場合、リゼットもアデルも平民のままです。侍女や貴族の方々から蔑ろに扱われるやもしれません。セドリック坊ちゃまとは、扱いが違ってくるでしょう」
ウェルツ伯爵はしばらく思案した。
(エマ様の愛したルーカスの子どもが蔑ろに扱われることなど、旦那様には耐えられないはず。間違いなく養子縁組をするでしょう。)
「よし、分かった。リゼットを養女にする書類を用意しろ」
(ふふ……やはり、なんとも御しやすいお方だ。)
旦那様とリゼットの養子縁組が受理されると、私は次へ取り掛かった。
さて、次はセドリック坊ちゃまですね。
旦那様に使ったものと同じ毒を、少しずつ飲ませ始めた。
(五年ほど、病弱な子として生きていただきましょう。エマ様が病に伏している最中に生まれた子どもです。生まれつき身体が弱かったとしても、誰も疑いますまい。)
生かさず、殺さず。
私はセドリック坊ちゃまを見守ることにした。
旦那様が亡くなるところまでは、良かった。
ただ一つ。
診察をしたアルベルト医師が失踪したことだけは、計算外だった。
すぐに私が雇った追手を差し向けたが、結局捕らえることはできなかった。
(あの医師は、旦那様が毒に侵されていることに気付いたはずだ。)
普通の医師では見抜けない毒を使っていたというのに。
忌々しい。
私は計画を大きく変更した。
万一、毒殺を疑われ、旦那様の遺体を掘り返されても構わぬように。
旦那様の遺体を、もしもの時のために以前から用意していた蝋人形とすり替えた。




