7. 別れ
次の日、執事のマルクスがお父様の寝室の前に立っていた。
一瞬ドキリとしたが、平静を装う。
「アルベルトせぇんせぇいを呼んで貰える?」
マルクスが恭しく礼をする。
「申し訳ありません。アルベルト医師は急用ができ、伯爵邸との契約を解除しております」
(やられた!)
私は油断していた。
でも、三歳児に何かできるわけもない。
部屋に入ると、また顔色の悪いお父様が寝ていた。 息も絶え絶えに苦しんでいる。
私はただ、涙を流すことしかできなかった。
お父様をこんなに苦しめて。
マルクス。 お父様がお前に何の罪を犯したというのか。
絶対に許さない。
次の朝、お父様のベッドはもぬけの殻だった。
侍女の話では、夜中にお父様の容体が急変し、駆けつけた医師が死亡を確認したそうだ。
その死に顔があまりにも険しく、悪魔に魅入られたのかも知れないと、急いで神殿で清め、そのまま墓へ埋められたらしい。
(くそ、やられたわ。お父様の死因がバレないように、さっさと遺体を隠したのね。
マルクスめ……小賢しい。絶対に、この怨み晴らしてやる。)
父を失った悲しみより復讐心に囚われるのであった。
✥✥✥✥
別れの鐘が鳴る。
ウェルツ伯爵の葬儀には、名門貴族ということもあり、多くの弔問客が訪れた。
その中心に置かれた棺には、お父様そっくりの蝋人形が横たわっていた。
青白い顔。こけた頬。昨日のお父様と瓜二つだった。
こんなもの、一晩で用意できるはずがない。
マルクスは随分前から、お父様の死を準備していたのだ。
死してなお、お父様を冒涜するなんて。
許さない。
リゼットはさめざめと泣きながら、
「エマ様がお亡くなりになってから気落ちされ、次第に弱っていかれたのです」
と弔問客に説明していた。
ルーカスは私を胸に抱きながら、
「娘が最期まで、付きっきりで見守ってくれました」
と語っていた。
三文芝居に反吐が出そうになるのを、ぐっと堪えた。
そんな時だった。
私はルーカスの胸の中から、青白い顔で一人ぽつんと立つ少年を指差した。
「このひとぉ、だぁれ?」
一瞬、辺りが静まり返った。
ルーカスは慌てて答える。
「何を言っているんだ。ウェルツ伯爵家の嫡子、セドリック様だよ。君のお兄様だ」
「そうにゃの? はじめましてだから。おうちでおあいしたことにゃいもの」
私は可愛らしく頬を膨らませた。
周囲がざわつく。
まさか、正当な血筋であるエマの忘れ形見を蔑ろにしているのではないか、と。
リゼットが慌てて間に入った。
「セドリック様はお身体が丈夫ではなく、床に伏せがちなのです。アデルはまだ幼く、すぐに病を貰って参りますので、セドリック様に移してはいけないと普段から離しているのです」
筋の通った理由に、その場では皆ひとまず納得した。
(よくもまあ、すらすらと。本当に親子揃って小賢しい。)
私は胸の内で毒づいた。




