4. 死別
別れの鐘が鳴っている。
多くの者がエマの追悼に訪れた。
たった19年という若さで去ったエマは全力で駆け抜けた。
最期の最期まで、己の命を燃やし、求めた我が子までもこの世に産み落として。
まだ生まれたばかりの息子は、母親の最期を見ることも叶わない。
ただエマはここまで皆に愛されていたのかと思うほど、棺に献花が投げ込まれる。
ウェルツ伯爵は、気丈に立っていた。
誇らしい娘の最期に、敬意を表しウェルツ伯爵令嬢として送り出した。
ルーカスは、ただ棺を見つめていた。
葬儀が終わると、平民であったルーカスに握手を求め労いの言葉を掛けるエマの級友たちに囲まれていた。
皆、エマの最期に幸せを与えてくれてありがとうと感謝の気持ちを述べるのであった。
そしてウェルツ伯爵もその輪の中に入っていた。
✥✥✥✥✥
コンコン。
執事がドアを開ける。
ルーカスが執務室に通された。
「ルーカス君、ささ、席に座ってくれ。」
ウェルツ伯爵が優しく促す。
「ルーカス君、娘の為にありがとう。君のおかげでエマは最期、自分の夢を叶えて逝けた。
そして、私に生きる希望を遺してくれた。本当にありがとう。」
ウェルツ伯爵がルーカスに頭を下げた。
「とんでもない。私は、エマをただ愛しただけです。エマが頑張り抜いた結果です。」
そこには、貴族らしい振る舞いをする男がいた。
出会った頃は粗野で底の浅い男と思っていた。エマの男の見る目のなさを嘆いてもいた。
それが、どうだろう。この一年と長くもない月日で貴族らしい佇まいと、礼節をわきまえた態度…エマの方が男を見る目があったとウェルツ伯爵は己を恥じた。
「ルーカス君、君を呼んだのは契約についてだ。
恥ずかしながら、君に会った時は、エマが死んだら追い出そうと思っていた。平民て言うだけで。
ただこの一年、エマの周りの者は良くやってくれた。身分とはなんと浅はかな物差しだと感じたよ。」
「それで、相談なんだけど、孫のセドリックの為に後見人として側にいてはくれないかい?セドリックには本当の父親がいた方が良いと思って。」
ルーカスは喜んだ。
「勿論です。セドリックは僕が愛したエマの忘れ形見。必ずお守りします。」
ウェルツ伯爵は頷き、ルーカスと固く握手を交わしたのである。




