3. 去りゆく友
晩餐会でのダンスのために、ルーカスはスパルタで練習させられた。
ただ、持ち前の体格の良さと運動神経でみるみる上達し、なんとか形になったのである。
ウェルツ伯爵も連れ立ち、晩餐会へ参加した。
一曲しか踊る体力のないエマだったが、その気迫は凄かった。
あんなにも幸せそうに笑い、命を燃やしながら踊り抜く姿。
ルーカスがエマの身体を支え、息を合わせて踊る姿。
まさしく圧巻だった。
エマの事情を知る級友や知人たちは、皆涙を流した。
去りゆく友を思って。
✥✥✥✥
そして、また奇跡が起きた。
エマが懐妊したのである。
それはエマの生きる執念でもあった。
皆は心より喜んだ。
ルーカスも涙を流して喜んでいた。
この頃には、伯爵も侍女も執事も平民も貴族も身分などないまるで一つの家族の様に、エマを慈しみルーカスに感謝し、この時が少しでも長く流れて欲しいと皆願っていた。
ただ、時に神は残酷だった。
エマのお腹が大きくなればなるほど、目に見えて体調が悪くなり、衰弱していった。
床に伏せる時間も長くなり、命の灯がいつ消えるのかさえわからない様だった。
エマは着飾ることもやめたが、神々しく光輝いていた。子どもを守る女神のようであった。
そのベッドの脇を片時も離れず見守るルーカスと並ぶ姿は絵物語の様であった。
体調は一進一退であり、時が経つのがもどかしい。子どもの為には、早く時が過ぎることを願うのだが、エマとの別れを惜しむなら、日が沈んで欲しくないと願う。皆、気持ちがままならない日々を過ごした。
ただ誰もが、このお腹の子どもが無事生まれることを一生懸命に願うのである。
そして、とうとう出産を迎えた。
ほとんど寝たきりであったエマが急に苦しみだした。産婆が呼ばれ、医者が呼ばれ鬼気迫るウェルツ伯爵が横に並ぶ。ルーカスは胸に手を組み神に無事を祈る。
出産の時、男子禁制なんて言っている場合ではなかった。いつ命が尽きるかわからないエマに付いていたいという気持ちは皆一緒だった。
エマが最期の力を振り絞った。
幼子が産声を上げる。
生まれてきたのが元気な男の子だった。
そしてエマは帰らぬ人となった…




